少し眩しい日の光が部屋に差し込む。

それにあてられた私は、
まだ十分に休めてない脳を無理やり叩き起こしてベッドから起きあがった。

そして「ふわぁ……」と大きな欠伸を吐き出し、首を左右に振る。


壁の時計は既にお昼の時間を告げていた。


「やっべ……寝過ぎた」


やはり長期休みというものは人を堕落させるものなのだろーか。

夜更かしのツケがこんな形で回ってくるとは……。


パンパンと二回頬を叩き、自分に喝を入れてみる……効果は無さそうだ。


「着替えなきゃ」


今日は色々やることあったんだけどなー、お買い物とかお買い物とか。

寝過ごしたせいで諸々ご破算だ。


クローゼットから服を出しつつ、今日の予定を脳内で組み立てる。

とりあえず、急ぎの用事だけでも片付けるか。


「えーっと、お正月用の鏡餅と……年越しそばと……」


携帯のメモ帳に買い物リストを作る。

私ったらなんてマメな女なんでしょ。


「あとはミカン! やっぱコタツとミカンはセットだろ」


誰に向けるでもなく私はそう呟くと、部屋を出て玄関に向かった。


「いってきまーす」


――――――

――――

――


足元から少しだけ積もった粉雪を踏む「サクッ、サクッ」という音が聞こえる。


「げ、靴の仲に雪入った」


持っていた買い物袋を下に置いて軽く靴についた雪を払う。

やってくれたなー?


「……ふぅ」


私は雪があんまり好きじゃない。

だってすぐに溶けて消えちゃって儚いから……
っていうのは嘘で、本当は滑って転ぶから。

実は以前、澪が雪道で滑って転びかけた時に思わず手を伸ばしたら
自分も滑って結局ダブルで転んだ経験があるのだ。

あの時の痛さと恥ずかしさと言ったら目もあてられない。


「(降ってるだけなら綺麗で好きなんだけどね)」


昨日の……いや、今朝の窓から見た光景を思い出す。

夜が明けつつある街にしんしんと降り注ぐ雪はまるで宝石のようだった。

実は夜更かしの原因はこれだ。


「そういえば……」


再び歩き出しながら、ポケットから携帯を取り出してメールを確認する。


「あった」


私が探してたのは今朝届いた澪からのメール。

内容は「外で降ってる雪が綺麗だから見てみろ」って感じのありふれた内容。

他の人が見てもなんとも思わないだろーけど、
私にとってこのメールは澪と私が同じ気持ちを共有した証。


「ふふん……」


ちょっとだけ顔がニヤケる。

そのまま上手く顔が戻らずに必死で直そうと悪戦苦闘していると、
いつの間にか足が澪の家に向かっていたことに気づいた。


「ありゃ、お家に帰るつもりが」


私の目の前には秋山家のインターフォン。

ま、来てしまったものはしょーがない。澪にちょっかい出してこうかな。


ピンポーン。


返事は無い。


ピンポーン。


やはり返事は無い……留守かな。


なんとはなしに二階の澪の部屋の窓を見上げる。

そこにはカーテンが閉められていて中の様子は伺えなかった。


「……もしかしてまだ寝てるのかな?」


あり得るな……澪も夜更かししてたっぽいし。

ならここは気を遣って大人しく帰ってあげよう。


「でも、せっかく来たのにただ帰るのもつまらないな。よし」


ごそごそと雪を集めて固まりを作る。

冬の風物詩といったらこれだよな。


「出来た!」


冷たさにかじかむ手で携帯を出し、メールのテキスト画面を開く。

ちょっと遅めだけど澪にクリスマスプレゼント。


「送信!」


さーて、帰るか。


――――――――――


「うん……今何時……?」


寝ぼけまなこで時計を確認する。


「もう午後……? 寝過ぎたぁ……」


就寝についた時間を考えればそんなに寝てはいないのだけれど、
なんだか物凄く時間を無駄にしてしまった気がする。


「……買い物、ママに頼まれてたんだった」


のそのそとベッドから抜け出し、着替えを探す。

その時、携帯にメールの着信があることに気づいた。


「律からだ」


履歴を見ると、送られてからそんなに時間は経ってないようだ。


『澪起きた? 窓の下見てみて』

窓の下……?

まだ、ぼーっとした頭でカーテンを開けて覗いてみる。


「あっ」


律の奴……何をしてるんだか。


そう思いながらも顔がニヤケている自分がいることに気づき、
少し顔が赤くなる。


「馬鹿律」





外はまた粉雪が降り始めている。

その粉雪が落ちた先には二つの小さな雪だるまが寄り添うように佇んでいた。


おわり




最終更新:2012年12月31日 05:36