そんな楽しい時間もあったけれど新入部員は一向に増えず、とうとう締め切りの日が来てしまった。
梓「よろしくおねがいしまーす!」
憂「軽音部でーす!」
純「よろしくお願いします!」
梓「……だめだ」
純「まだ時間はあるよ」
憂「そうだよ梓ちゃん」
梓「無理だよ……先輩達になんて言ったらいいの……グス」
憂「梓ちゃん……」
純「梓……」
憂「……よろしくお願いしまーす!」
純「……軽音部です! よろしくお願いしまーす!」
梓「……」
憂「ほら梓ちゃんも!」
純「部長がサボってどうすんのさ」
部長……そういえば私が部長だったんだ。
すっかり忘れていた。
こんなんじゃ律先輩のこと言えないな私。
先生にも先輩達にも友達にも助けてもらって……
私だけ何もしないわけにはいかない。
みんな私のために手を貸してくれてるんだから。
梓「うん、ごめん! とにかく最後まで頑張ってみる!」
憂「梓ちゃん……!」
純「そうそう!」
梓「よろしくお願いしまーす!」
こうして生徒がいなくなり、さわ子先生に呼ばれるまで私達は必死に勧誘した。
勧誘チラシはまだ沢山残っていた。
さわ子「……みんなお疲れ様」
あたりが薄暗くなっても昇降口前にいた私達に先生が声をかける。
タイムリミット。
憂と純が俯く。
私の手にあるチラシは汗で少し湿っぽかった。
さわ子「私も先生方に掛け合ってみたんだけど……ごめんなさいね」
梓「いえ、ありがとうございます」
先生は軽音部がなくならないように尽力してくれた。
普段はあんなだけどやっぱりいい先生だ。
憂「梓ちゃん……」
純「梓……」
2人にも感謝している。
私のためにこんなに遅くまでまで付き合ってくれた。
梓「はは、しょうがないよね」
梓「みんな暗いよ。あ、それより明日1日だけ部活延長できませんか?」
さわ子「明日?」
梓「はい。せっかく2人にふわふわ時間練習してもらったんだしちゃんと合わせてみたくて」
さわ子「そういうことなら任せなさい。私が何とかするわ!」
梓「ありがとうございます。2人もいいかな?」
憂「もちろん!」
純「せっかく練習したんだしね」
梓「ありがと」
さわ子「それじゃもう遅いからみんな気をつけて帰るのよ?」
梓憂純「はーい」
帰り道はみんないつもより口数が少なかった。
私はやることをやったからそんなに落ち込んでないんだけど……
梓「もー元気出してよ! 明日の演奏はしっかりしてよね!」
憂「梓ちゃん……」
純「……あ、ねえあれって」
梓「え? ……あ」
憂「お姉ちゃん!」
唯「ん? あ、憂~今帰り?」
憂「うん。お姉ちゃんも?」
唯「そうだよ~」
純「こんばんは」
唯「こんばんわ~」
梓「……」
唯「あずにゃん?」
さっきまで平気だったのに。
落ち込んでないって思ってたのに。
梓「あ、あの……」
唯「どしたのあずにゃん?」
憂「お姉ちゃん」
唯「あ……もしかして」
憂「うん……」
唯「そっか……」
梓「すいません唯先輩、軽音部……なくなっちゃいました」
唯「あずにゃん」
梓「はい」
唯「よく頑張ったね、お疲れ様」
梓「う……ゆ、ゆいせんぱぁ゛い……」
みっともない。
憂や純が見てるのにボロ泣きしてしまった。
唯「よしよし、いいこいいこ」
高校3年生にもなっていいこいいこされてることも、
鼻水が垂れてることも気にせずに。
梓「うぐっ、うえ、ごめんなさいっ……ひっく」
唯「あずにゃん……ぎゅっ」
そんな鼻水たらしを気にせずに抱きしめてくれた。
唯「憂から聞いてたよ。あずにゃん毎日遅くまで頑張ってたんだよね」
梓「で、でもっ、廃部になっちゃって……先輩方に……申し訳なくて……!」
唯「誰も怒らないから大丈夫だよ~。よしよし」
梓「う……ぐすっ……うう……!」
抑えきれなくて唯先輩に抱きついて泣きじゃくった。
落ち着いてきた時になって恥ずかしさがこみ上げてくる。
梓「あぅ……」
暫く純にからかわれそうだ。
それにいつまでもこうしてるわけにもいかない。
ここは路上だし唯先輩にも迷惑をかけてしまう。
梓「……すいませんでした」
唯「え? なにが?」
梓「……ふふ。あれ、憂と純は?」
唯「2人なら先に帰ったよ」
梓「う……」
こんな私に呆れて帰ったのか、気を利かせてくれたのか、
泣くのに必死だった私にはわからない。
出来れば後者がいいな。
唯「落ち着いた?」
梓「……はい」
梓「本当にご迷惑を……」
唯「も~だから気にしてないって」
こんな時は唯先輩も年上のひとなんだなって思える。
甘えておいて失礼な言い草だけど。
梓「なんだかすっきりしちゃいました。ありがとうございます」
唯「よかった。これでも私はあずにゃんの先輩だからね!」
梓「そうですね……実感しました。では落ち着いたのでそろそろ帰ります」
唯「送っていこうか?」
梓「いえ、もう大丈夫です」
唯「そっか、バイバイあずにゃん。今度遊ぼうね!」
梓「はい。失礼します」
今度こそ吹っ切れた……かな。
唯先輩ありがとう。
あとは……とにかく明日のために練習しよう。
梓「こんにちは~……」
翌日の放課後。
私は一足先に部室を訪れていた。
見納めという訳じゃないけど私にとっての高校生活はこの部室だったからなんとなく……
梓「あれ?」
ソファーにギターケースが立てかけてある。
もちろん私のじゃない。
梓「これって……」
憂「こんにちは~」
純「なんだ先に来てたんだ」
梓「うん。それよりこれ……」
憂「そのギターお姉ちゃんに貸してもらったんだよ」
道理で見たことあると思った。
憂がケースを開けて中身を取り出す。
久しぶりに見たけどどうやらちゃんと手入れしているみたい。
梓「ギー太……」
純「ギー太?」
梓「そ。このギターの名前」
憂「お姉ちゃん自分のものによく名前つけるんだ」
純「へえ~それでギー太ねえ」
純「梓のギターにも名前あるの?」
梓「な、ないわよ」
純「へえー……」
さわ子「あら、じゃあこれはまたお役ゴメンね」
いつの間にか私達の隣にいた先生がフライングVを持っている。
梓「それなら先生も一緒にやりませんか?」
さわ子「あらいいの?」
梓「もちろんです」
さわ子「ギターが3人にベースが1人ねえ」
梓「あはは、それを言ったらドラムもキーボードもありませんよ」
さわ子「それもそうね。でもリズムが取りにくいんじゃない?」
梓「なので、これを持ってきました」
さわ子「……オッケー。ちょっと取ってくるわね」
私の、私達の軽音部はこれで終わってしまうけど。
それでも力を合わせてくれて……
さわ子「はい、準備できたわよ。でもこれだとさらにごちゃごちゃになるんじゃない?」
梓「今回は楽しければいいです」
純「それなら私も失敗が怖くないわ」
憂「もうー純ちゃんてば」
こうして音楽を楽しめる仲間がいる。
部長をやった甲斐もあるというものだ。
さわ子「それじゃいくわよー。ポチっとな」
『うわっとっと!』
END
最終更新:2013年01月01日 02:26