「ヴぁあー…」
奇妙な自分の寝言で目が覚める。ゆうべは飲みすぎたかしら?
どのテレビも新年を迎えるバカップルばかりを見せるもんだから、イライラしちゃったのよね…。
こちとら生徒との禁断の関係だっつーのに、人目をはばからずイチャイチャしやがって!
おっと…いけないぞ!さわ子!私はおしとやかな女性なんだから。
それに今日は、唯ちゃんが遊びに来てくれるんだし。
「どの服がいいかしら…」
せっかく唯ちゃんとの遠出だしね。
楽しみにしてて悪い?
~♪~♪
唯ちゃんかしら?
「えーっと、なになに。
『めずらしいアイスがあるよ』」
…この季節に何してんのよ…。
~♪~♪~♪
『りっちゃんに見てるほうが寒いって言われちゃった』
唯ちゃん、それ当たり前だから。
そんなこと考えてても、アイスを頬ばる彼女の顔が容易く想像できちゃって顔が綻ぶ。
こんな時間が嫌いじゃない。
「時間に遅れないでね、と。ふふふ」
返事を待つ間、何気なくテレビのリモコンに手をのばす。
テレビ『今年もぉ~二人でぇ~チョ~ラブラブしたいでぇ~す。
いぇ~い』
あぁん?今から顔面にギターめり込ませてやろうか!?
~♪~♪
『了解!おでかけ楽しみ~』
可愛らしく飾ったメールが彼女らしい。
私も楽しみよ、と短い返事。
唯ちゃんと違って、あまり飾り気なんかないメール。
「その方がさわちゃんらしいよ!」と、言ってくれたけどキラキラしてカラフルなメールを見ていると心配になっちゃうのよね。
テレビ『では!カメラの前で、お二人のあつ~い新年初キスをお願いしまーす!』
余計な頼みごとするんじゃねぇ!お前らまとめて真冬の海で鱚とご対面させてやろうか?!
私だって唯ちゃんとキスくらい…あれ?
「ほっぺにしか…したことない…?」
《愕然》
今の私の気持ちをその言葉意外で表せない。
いや、よく考えたらおデコにもしたことあったじゃない!よかった~。
「って!よくないわよ!」え?もう付き合って1年近くなるのに?え?え?
~♪~♪
「きゃあ!」
唯ちゃん…。なんてタイミング悪い子…。
『初詣終わったよ~』
「あ、もうそんな時間になるのね…。」
いそいそとテレビを消し、洗顔をすませる。
メイクは薄めで、服も目立たない程度でいいわね。
行くわよ!さわ子!
「お待たせ。唯ちゃん」
「ん~ん。今来たとこだよ~」
この会話カップルみたいでいいわ~。
まあ、カップルなんだけど。
「寒かったでしょ?早く乗りなさい」
「でへへ~。お邪魔します」
「家じゃないんだから」
「お~!あったかあったか」
「じゃあ行きましょうか」
「出発しんこー!」
「ずいぶんテンション高いじゃない」
「だって~、さわちゃんに会うの楽しみだったんだもん」
天然ジゴロめ!
「それにね、運転してる時のさわちゃん大人っぽくて好きなんだ~」
天然ジゴロ恐るべし!
にやけてくる口を必死で抑えなきゃいけなくなるんだもの。
「初詣はどうだったの?」
「楽しかったよ!りっちゃんがたこ焼きであちちってなっちゃって、
あずにゃんがイカ焼きくれて、
ムギちゃんが焼きそば見て喜んでたし、
澪ちゃんは~、んとね~、なんか黒くなってた」
「澪ちゃんまたなの?」
「ほえ?」
「澪ちゃん、
こないだもりっちゃんの靴箱に顔突っ込んで黒い人になってたわよ?」
「あはは~。変な澪ちゃん」
あれを変で済ませていいのかしら?
「でね!でね!おみくじで~」
本当に楽しそうに話す唯ちゃん。
この子が軽音部に入ってくれてよかった。
軽音部の顧問になってよかった。
まさかこんな素敵な出会いがあるなんて、人生ってすごい。
「あ~。次の信号引っかかっちゃうよ?」
「いいじゃない。急ぐわけじゃないんだし。今日は泊まって行くんでしょ?」
「早くさわちゃんとお参りしたいんだもん!」ブーブー
「初詣はもう済ませたでしょ…」
「さわちゃんとの初詣はまだだよ!
さわちゃんとは初めていくもん!」
この子の可愛らしさはわざと?
「信号待ちでもいいじゃない。
こうしてれば」
車を止めて唯ちゃんの手を握る。
伝わってくる温もりが嬉しくて仕方ない。
「…うん。そだね」
照れる唯ちゃんのほっぺにソッと口をつけてみる。
「あぅううう///」プシュ-
可愛らしい反応を見ていたら、すっかり満足。
これから先に進むには時間はかかりそうだけど、今はこの距離が心地いい。
end
最終更新:2013年01月06日 01:33