*ある日の学校
直「菫は何か苦手なものとかある?」
菫「苦手なもの?」
直「うん」
菫「……漠然としててよくわからないけど、うーんと、えーっと」
直「うんうん」
菫「……偉いお客様の案内は今でも緊張するなぁ」
直「………」
菫「あ、だ、誰にも言っちゃダメだからね! ウチの人達とか!」
直「……言わないけど、私には理解できない分野だったから、つい」
菫「あ、そ、そっか。それもそうだね、ゴメン……」
直「……でも実際、菫はそういう立場なんだから私達が苦労してそうなことはだいたい出来そうだね」
菫「……出来るからといってストレス溜まらないわけでもないのが難しいところなんだけどね……」ウフフ
直「………っていうか、ごめん、私の言葉が足りなかった。軽音部とかの関係で、何か苦手なものはない?」
菫「え、軽音部? なんで?」
直「…来年は新入生を二人は入れないと廃部になるらしいし。なるべくなら迎えやすい環境を作っておこうと思って」
菫「へー……ちゃんと考えてるんだねー」
直「…私だって年末には一年を振り返ったりするんだよ?」
菫「え? あ、うん! ご、ごめん、そんなイヤミな意味じゃなくって!」
直「…冗談だって。とにかく、そういうの何かない?」
菫「うーん…そうだなぁ……私の時は、入部希望ですらない私にみんな良くしてくれたから……」
直「そういえば私もギターの弦切ったのにお咎め無しだったし」
菫「………」
直「………」
菫「…えっと…」
直「…今度謝るね」
菫「う、うん……」
直「………」
菫「……そういえば、入部する前に怖いコアラみたいな顔をあの部で見たことがあるんだけど」
直「あー、私はそれ平沢先輩が着てるの見たことある」
菫「えっ、ど、どういう展開で!?」
憂「雨避けになるかなぁと思ったんだけどねー」ニュッ
菫「わああっ!? 憂先輩!?」ビクッ
直「…と、鈴木先輩」
純「やほー。何の話してんの? 部活は?」
直「えっと、そうですね、向かいながらお話しますね」
純「――へ、へぇ、怖いものねぇ」
直「そういえば鈴木先輩は意外とキャラに反して怖がりでしたね」
純(意外と? キャラ?)
憂「さわ子先生にも悪いことしちゃったなぁ、あの時は……」
菫(憂先輩は意外と面白い人だ)
純「でもあれ話を聞く限りでは先生が作ったものなんじゃないの? 新入部員勧誘に使うのが伝統、って言ってたし」
直「え、伝統なんですか」
菫「ということは来年はあの怖い顔を私か直ちゃんが被らないといけない…!?」ガクブル
憂「だ、大丈夫だよスミーレちゃん! 私もあれトラウマだったけど自分で被れるくらいには克服したし!」
菫「う、憂先輩もだったんですか! 振り返ったらいきなりあの顔があったら怖いですよね!」
憂「わかる、わかるよスミーレちゃん! 私も友達を置き去りに全力で逃げちゃったし!」
直「憂先輩ほどのお方が友人を置き去りに逃げるほど、ですか」
純(あー、憂があの子に平謝りしてたのはそれだったのか。結果的にそれのおかげで呼び捨てにしてもらえるくらいに仲良くなれたのは皮肉だけど)
さわ子(補足しておくと2巻11Pの子と高校編52Pの子が同一人物っていう設定よ!)
純「……? なんか聴こえたような……」
菫「で、では憂先輩、そのトラウマをどうやって克服したんですか!? あの無駄に目が動く恐怖のコアラを!」
憂「ふっふっふー、知りたい?」
菫「はい、是非とも!」キラキラ
直「ノリノリだ、二人とも」
憂「はい! なんと! あのコアラの中にはお姉ちゃんが入っていたのです!」ドーン
菫「……へ?」
憂「おかしいと思ったんだよね、あの頃もお姉ちゃんの声で振り向いたはずなのにコアラがいたから。でも後で話を聞いて納得したんだー」
菫「そ、そうですか……」
純「コラ、憂。それじゃスミーレのトラウマの解決にならないでしょ」
憂「あ、そ、そうだね。でもほらスミーレちゃん、確か紬さんの着た動物着ぐるみもあるはずだから!」
純「あー、猿とか牛とかいたって聞いたね」
憂「そう! 無理してコアラを克服しなくてもそっちを着ればそのうち慣れるかも!」
純「確かにどれもこれも初見ではインパクトのある顔してたらしいし」
菫「お、お姉ちゃんの着てた着ぐるみを私が…!?」ドキドキ
憂「うんっ!」
純「……いや、でもさ憂、梓は「伝統じゃない」って言ってなかった…?」
憂「しーっ! 純ちゃん、めっ!だよ」
純「……え、なんで怒られたの、私」
ドア「ガラッ」
純「とうちゃーく」
さわ子「あら、みんな遅かったじゃない」
純「……ん?」
さわ子「どうしたの?」
純「……いえ、なんでも」
直「先生はおばけが怖いんでしたよね」
さわ子「えっ? 急にどうしたの?」
菫「かくかくしかじかです」
さわ子「あー……そうね、すっごく怖いわ、おばけ……コアラ……」
憂「ご、ごめんなさいっ!」
さわ子「うん、ま、私も菫ちゃん驚かせちゃったわけだし……梓ちゃんにすっごく怒られたし……」
直「そういえば梓先輩は怖いもの無さそうですね」
憂「あー、純ちゃんの怪談話にもあまり驚いてなかったし」
菫「怖くて悲鳴あげそうなイメージはあまりないですね」
さわ子「………」
純「………」
憂「あれ、どうしたの純ちゃん、先生」
さわ子「……えっと」
純「憂はあの時一緒にいなかったんだっけ…?」
憂「え? え?」
梓「ゴメン遅れた!」ガラッ
直「噂をすれば中野先輩」
梓「へ? なんの噂?」
菫「……えっと、皆さんの怖いものの話をしていたんですけど、直ちゃんが梓先輩って怖いものなさそうだね、って言ったら……」
さわ子「………」
純「………」
梓「あー……なるほど」
直「どういうことですか?」
梓「えっとね……」チラ
さわ子「………」チラッ
梓「……さ、さわ子先生のスッピン…」
菫「えっ」
純「いや、ホント、梓のあんな悲鳴は初めて聞いた」
憂(あの悲鳴、梓ちゃんのだったんだ……)
直「興味はありますけどさすがに「化粧落としてください」とは言えませんよね」
さわ子「言われたら顧問辞めるわよ」
直「それにしても」
菫「うん?」
直「こうしてみなさんの話を聞かせていただきましたが」
憂「うん」
直「中野先輩の怖いものは言うまでもなく、鈴木先輩が恐れていた怪談も元は先生が原因だったらしいじゃないですか」
さわ子「不可抗力よっ!」
直「……そして、平沢先輩と菫のトラウマとなっていたコアラも持ち主は……」
さわ子「……あっ」
純「あっ」
菫「………」
憂「………」
さわ子「……ごめんなさい」グスッ
梓「……大丈夫ですよ、先生」ポンッ
さわ子「あ、梓ちゃん…?」
梓「今までいろいろ言いましたけど、それでも軽音部に欠かせない縁の下の力持ちだってこと、私も含めてみんなわかってますから」
直「……先生、DTMを教えてくださってありがとうございます。おかげで私はこの部活を続けることができました」ペコリ
菫「そうですよ。夏休みも修学旅行の時も、先輩達がいない時でも嫌な顔ひとつせず面倒を見てくださって感謝してます」ペコリ
憂「やっぱり、先生が支えてくれてこその「わかばガールズ」だったと思いますよ」
純「無理矢理いい話に持っていってるみたいに見えますけど、みんなの言う通りだと思います、私も」
さわ子「ううっ、みんな、ありがとう…!」
梓「というわけで菫、直。私達が卒業しても先生は置いていくから好きに使うといいよ」
菫「………えっと」
直「……あ、はい」
さわ子「なんでこの流れで微妙な返事なのよー!」
おわれ
最終更新:2013年01月14日 21:55