――― 数週間後・部室
唯「ねー、むったん。むったんが出してるぎゅわわわーって、音どうやるの?」
向井「1フレットから24フレットへ、この広大な思索の荒野を練り歩く」ギュワワワー
唯「スゴーイ!!さすがむったんっ」ギュッ
向井「それでもやっぱり蘇る性的衝動」
律「おーい、向井、唯ーイチャイチャしてないではやくジャムろうぜー。今日はすごいのがきそうな予感がするんだ」ワクワク
向井「真昼間っから引っ付きあってー」
唯「了解しました!!りっちゃん隊長!!」ビシッ
律「澪、ムギ、梓も準備はいいか?」
澪「いつでもいいぞ」
紬「オッケーよ~」
梓「…」
梓(向井君が入部してから軽音部は変わった…とっても良い方向に。向井君の技術指導によってみんなの演奏技術は短期間で驚くほど上達した。向井君はギターだけでなくベース、ドラムはもちろんキーボードや打ち込み、
ペットボトルに砂をいれたものもまであらゆる楽器に精通していた。練習方法もジャムセッションを主体としたものに切り替えられ、限られた練習時間の中で作曲と練習ができる効率的なものになった。そして…)
唯「りっちゃ~ん、オカズ入れるならもっと凄いのいれてよー」プンプン
律「言ったなー!みてろよー、ついてこれるかー」ドラドラドラッ
梓(唯先輩と律先輩がびっくりするほど真面目に練習に取り組むようになった。澪先輩とムギ先輩も技術、モチベーション共に上がってるし、放課後ティータイムは凄いことになるかもしれない。ただ…)
ギョーギョギョーギョーギョギャンギャンギャン テレッテレッボボボボンギュワワーン…
梓(ダメだ…ついていけない。)ギュイーン
澪「どうだ!!」ボボンボボボ
紬「~♪」テレテレテレテレ
唯「まだまだ~」ギュンギュンギュンギュン
向井「SIGEKISIGEKISIGEKISIGEKIが欲しくて堪らんの」ギュワギュワギュワギュワンンンン
梓(わたしだけ、みんなと足並みがそろわない…同じように練習してるのに。みんなと音が作れない…私の音じゃ作れない…全然響いてないよ…)
ジャーン…
律「よーし、こんなもんだろう。しかし、なかなかうまくいかないなー」
澪「当たり前だろ。最初の時みたいにポンポン曲が作れたら苦労しないって」
梓「…」
紬「でも、初めてのジャムは気持ちよかったわ~」
梓「…」
律「うん、あの時は何か違ったよな!」
梓「…」
唯「なんでだろうねー」
梓「あ、あのっ…」
澪「ん?どうしたんだ、梓?」
梓「わたし、軽音部やめますっ!」
唯・澪・律・紬「!!!」
向井「俺は動揺抑えきれん」
唯「な、なんでそんなこと言うの?あずにゃん?」オロオロ
澪「じょ、冗談だよな梓?」
梓「もうっ、冗談じゃこんなこと言いませんよ。本気です。」
紬「梓ちゃん…なんで?」ウルウル
梓「あっ!ムギ先輩泣かないでくださいよ。ほらっ…えーと、私、最近なんか邪魔してる感じだし。気にしないでください。」
律「邪魔?何言ってるんだよ。梓が邪魔になってるわけないだろ」
梓「その…ほらっ、ジャムる時とかわたしだけみんなについていけなくて邪魔じゃないですか。現に…一番初めのジャムセッションとか私がいなかったから、みんな凄く良かったみたいじゃないですか。わたしがいないほうが良い曲つくれるかなーって」
律「おまっ!そんな風に考えてたのかよ。そんなわk」
梓「それにっ!!」
梓「…わたし、向井君キライだしちょうどよかっ…あっ」ポロポロ
唯「あずにゃんっ!!」
梓「じゃあ、さようなら」バタン
唯・澪・律・紬「……」
紬「梓ちゃんがあんなふうに思ってたなんて…」
澪「最近の梓、塞ぎ込んでた…どうして気づいてあげられなかったんだ…」
唯「みんなっ、はやくあずにゃんを連れ戻しにいこうよっ!」
律「そうだっ。落ち込んで場合じゃない。早くみんなで…あれ…向井は?」
唯「あずにゃんのギターもなくなってるよー」
――― 公園
梓「はぁ~、もうちょっとスッキリと出てきたかったな…なんで泣いちゃうかなー。前々から考えてた
ことじゃない。まっ、いっか。これからは一人気ままに音楽しよっ。一人でも演奏する術はたくさんあ
るもん!!まず、パソコン買ってー、録音機器も充実させなきゃ、打ち込みもいいな、ネットにできた
曲投稿しちゃったりして、それから……ヒグッグスッ
…なんで泣いちゃうかな…」ポロポロ
ポツンポツン
梓「はは…雨降ってきちゃった。こんな日はとことんだな……ん?」
向井「」
梓「む、向井君!?」
向井「」スッ
梓「何これ?…飴玉?いらないよ。もう、何の用なの?」
向井「」スッ
梓「いらないってば!」
向井「」スッガチャ
梓「だから、いらないってば…あれ?これわたしのむっt…ムスタング。ありがとう届けてくれたんだ。ちょうどよかったよ、これから一人で作曲活動をしy」
向井「これから曲を作るっ!!」
梓「えっ?」
向井「これから曲を作るっ!!手伝ってくれんかね?」
梓「な、なに言ってるの。相変わらず意味わかんないな。私は一人で作曲するって言って」
向井「梓ちゃんっ!!」
梓「」ビクッ
向井「頼むわ」
梓「…わかった」
向井「すまんね」スッ
梓「飴玉…もらうね」
――― 公園・ベンチ
向井「」ジャージャージャカジャ
梓「」ジャジャジャジャージャジャ
向井「ここをもっと響かせたいんよね」
梓「…向井君」
向井「なんね?」
梓「やっぱり無理だよ…わたしと向井君じゃ技術が違いすぎr」
向井「KANKEIなぁ~い」
梓「え?」
向井「バンドミュージックに技術とか関係なか。みんなと音を合わせて、たのしー、たのしー、それで良いんじゃないですかね。」
梓「そ、それは向井君には技術があるから…」
向井「技術は一人でも手に入る。…でも音楽に一番必要なものは…バンドミュージックでしか手に入らん」
梓「一番必要なもの?」
向井「俺が思うに、梓ちゃんは見つけとったんじゃないですかね。今は、忘れているのでしょう。あの人らも忘れとるかもしれん。…俺は梓ちゃんたちと音を鳴らして思い出したんですがね。」
梓「ふふっ、ずるいね」
向井「すまんね」
梓「でも…」
向井「自信か?」
梓「うん、このままじゃみんなの中に入っていけないよ…」
向井「ではいいことを教えよう。貸せい」ガチャ
梓「あっ」
向井「フェンダームスタング…」トゥルトゥットゥトゥー
向井「こいつは小さいのに響くんですなー」ギューンンン
向井「小さいのに響くんですわー」ギュイギュイギュイイインン
向井「小さいのに響く…」スッ
梓「むったん…」ガチャ
むったん「…」
梓「向井君…」
向井「なんね?」
梓「曲の続き…作ろ?」
――― 部室・夕方
ガチャ
梓「た、ただいまー…」
唯「あずにゃんっ!!」
律「あずさっ!!どこいってたんだよ!?心配したじゃないかっ!!」
梓「す、すいません」ペコリ
紬「ずぶ濡れじゃない!!早く拭かないと…向井君も!!」
澪「向井が探してきてくれたのか?ありがとう」
向井「黒~い下着が透けて見える」
梓「ちょっとっ!!適当なこと言わないでよっ!!」
唯・澪・律・紬「……」
澪「あ、あの…梓、私たち…」
梓「先輩たちっ!!」
唯・澪・律・紬「ビクッ」
梓「さっきはごめんなさい。もう一度みんなと…バンドがしたいですっ!!」
唯「あずにゃん…」
律「当ったり前だろ!!そんなこと」
澪「梓…一緒につくろ」
紬「ふぇ…よかったあずさちゃ~ん」ウルウル
唯「あ~ず~にゃ~ん!!」ギュッ
梓「もうっ、唯先輩ってば。くっつかないでくださいよ~」
唯「だって、だって~」スンスン
梓「やれやれ」ナデナデ
唯「むったん、あずにゃんを連れ帰ってくれてほんとにありがt」
梓「唯先輩?」
唯「えっ?なに?」
梓「向井君のこと、むったんって呼ぶの禁止です!!わたしのムスタングと被ってるじゃないですか!?」
律「おっ!そういえばそーだなー」
唯「えぇ~、じゃあなんて呼べばいいの?」
梓「とにかく、むったんは禁止です!!」
唯「はい…」シュン
梓「それよりも…」
唯・澪・律・紬「???」
梓「さっき、向井君と一緒にコード進行考えてきました。ジャムりましょう!!」ガチャリ
律「よしっ!!望むところだ!!」
向井「探している焦燥の正体っ!!」
ジャージャージャカジャジャーカジャカジャガガリリリテリッリイボボジャラララジャカジャ
梓(…楽しい、楽しい、楽しい、楽しい、楽しいっ!!!)
梓(この感じだ…今、みんなと共有してる。この場にいるみんなで…確実に、確かなエネルギーを共有してる!!…これがバンドミュージックだっ!!)
梓(むったん…楽しいね!!むったん!!むったん!!)
…ジャーン
唯・澪・律・紬・梓・向井「………」
澪「す、すごいっ!!」
律「あぁ!!やったな!!」
紬「今までで一番よかったわ~」
唯「あずにゃんスゴイよーー」
梓「凄いです。みんなとのジャムだったから…あの曲がこんなになるなんて。」
律「梓!!曲名は?」
紬「何なの?梓ちゃん?」
梓「えぇ!?そんなまだ歌詞もついてないのに…」チラ
向井「」
梓「向井君…?」
向井「【おおキャンディ】」
梓「」ゴロゴロ
――― そして月日は流れ・3月
梓「先輩たち…行っちゃったね…」グスッ
向井「そーだねー」
梓「い、いつまでも落ち込んでいられないよね。これからは私たちが軽音部を引っ張っていくんだから」
向井「…」
梓「よっし!!泣くの終わりっ!!秀徳、ラーメン食べに行こうよ?今日はおごっちゃうよ」
向井「やめとく」
梓「あっ!?じゃあ、久しぶりにうち来る?昨日、お父さんが高そうなお酒買ってきたんだー」
向井「…」
梓「秀徳?どうしたの?」
向井「…」ガチャ
向井「貴様に~♪伝えたい~♪俺のこの…」
梓「あっ!?新曲??早く聞かせてよ?」
向井「…」ガチャリ
梓「えっ…ちょっとー、続きは?」
向井「センチメンタル過剰やね…」
梓「?? 秀徳、今日ちょっと変だよ。いつも変だけど…」
向井「今日はこれにて…フェードアウトッ」ダッ
梓「変なの…私も帰るか…」
――― 数日後・部室
梓「秀徳のヤツ!!今日も来ないっ!!なにやってんのよ…新歓でやる曲もまだ決めてないのに…」
ガラッ
梓「あっ!!秀徳っ…えっ?」
向井「」
梓「何その恰好?どこかにライヴしにいくの?」
向井「そーだねー」
梓「もっと早く言ってよ。だったら私も一緒に…」
向井「東京でバンド組むことになった」
梓「えっ!?」
向井「だから、これから引っ越すので」
梓「き、聞いてないよ。い、いつ決まったの?学校はどうするの?新歓は?軽音部は?」オロオロ
向井「…すまんね」
梓「そ、そんな…秀徳。バンドミュージック……わたし…また、一人で鳴らすの?そんなんじゃ響かないよっ!!秀徳も…東京で組むバンドで…バンドミュージックで響かせられるの?」
向井「言ったもんね。梓ちゃんには…思い出したって。思い出したから…今度はもっともっと響く…多くの皆さんに響く。梓ちゃんもやろ?思い出したんなら…忘れないのなら響くんじゃないですかね?」
梓「でも…わたし一人じゃ…」
向井「教えたけどね…」ガチャ
梓「あっ…」
向井「小さいのに…」トゥルトゥットゥトゥー
梓・向井「響く」ギュイイインン
向井「わかっとるな…それj」
梓「」ギュッ
向井「」
向井「繰り返さる、諸行は無常、それでも、やっぱり蘇る、性的衝動…」
梓「…冷凍都市の暮らし、アイツ、いつの間にか、姿くらまし…」
向井「…」
梓「…」
向井「…」
梓「…」
向井「…すまんね」
梓「がんばって…」
――― 4月・新入生歓迎会
タッタッタッタッタッタ…
さわ子「ふー、あぶないあぶない。遅刻するとこだったわー。」
ブー
アナウンス「続いては、軽音楽部によるバンド演奏です。」
ワーワーパチパチ
ざわ子「バンド演奏…か。一人になったあずさちゃん…どんな演奏をみせてくれるの?」
ブー
トコトコトコ
アレーヒトリダケ?? バンドナノニ? ウーバーミタイナノカトオモッテター チッチャーーイ
さわ子「あずさちゃん…」
梓「えー、みなさんご入学おめでとうございます。軽音楽部、部長の
中野梓です。」
パチ・・・パチ・・・
梓「現在、軽音楽部はわたし一人で活動しています。みなさんには私の演奏を聴いて、軽音楽の、バンドミュージックの素晴らしさに
ついてぜひ知ってほしい。そして、軽音楽部で一緒に音を鳴らしてほしいと思っています。長い講釈垂れるつもりはありません。聞い
てください。【自問自答】という曲です。」
トゥルルットゥートゥートゥトゥトゥルルットゥートゥートゥトゥトゥルルットゥートゥートゥトゥ
ザワザワ…
さわ子「あ、あずさちゃん……」
梓『新宿ぶらぶら武士一回死んで寝て起きたら朝焼けの赤富士…』
さわ子「何だろう…この音…今までのあの子と違う…」
梓『堕落が許される生活に甘んじている…』
さわ子「芯が強くて…荒々しくて…でも、儚くて…」
梓『KEMONOのようなスタイルで風切り、KABUKIMACHI…』
さわ子「何かを失ってしまった?…だけど、ネガティヴなものじゃない…」
梓『鈍感な頭抱え前進する俺、次々と目に飛び込んでくる人々のそれぞれ…』
さわ子「響いてる…確実に…梓ちゃん、あなた…」
梓『陰口叩いて溜飲を下げとる奴らや、徒党を組んで安心しきってる奴らや、さりげなく行われる裏切りや、孤独主義者の
くだらんさや、自意識過剰と自尊心の拡大や、気休めの言葉や、一生の恥や、なげやりや、虚無や、繰り返される諸行無常や…』
さわ子「いつの間に…こんな音を出せるようになったの…」
ジャーンジャジャンジャージャジャジャーンジャジャンジャーン
梓『冷凍都市の暮らし、アイツ姿くらまし、冷凍都市の暮らし、アイツ姿くらまし、冷凍都市の暮らし、アイツ姿くらまし、
冷凍都市の暮らし、アイツ姿くらまし、冷凍都市の暮らし、アイツ姿くらまし、冷凍都市の暮らし、アイツ姿くらまし…』
ワーワーワー パチパチパチ ウォー ナカノー
アナウンス「軽音楽部でしたー。つづいては…!?」
――― ステージ裏
梓「つ、つかれた~…」
梓「緊張も…、う、うまくできたかな?うん、きっと大丈夫だった…」
梓「よしっ!!このまま、新入部員募集のビラ配りにいっちゃおうっ!!」
ステージ係「あの~…」
梓「はいっ?なんですか?」
ステージ係「実はアンコールが入っちゃいまして…」
梓「え!?」チラ
モウイッキョクーーー キャーーナカノセンパーイ アンコール ワーワー
梓「凄い…」
ステージ係「大丈夫ですか?お疲れみたいですけど…」
梓「はいっ!!もちろんです!!だって…わたしと」
完
最終更新:2013年01月14日 23:40