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 ─────1月15日──────

澪(今日は……違うのかな)ソワソワ

澪(ていうか、引越しの詳しい日時ぐらい教えろバカ律ッ!)

澪(なんで私が、そわそわしなくちゃならないんだっ)

律「おっと…また澪か」バッタリ

澪「律…引越しって──」

律「そのこと、だ……今日、お別れパーティをしたいと思う」

澪「……ッ。そうか」ニコッ

律「あれ、案外驚かないんだな…またお姉さんのお胸で泣いてよろしくてよっ!」

澪「もう泣かんわっ」ペシッ

律「あてっ! ……んまあ、今日だからな。うちでやる」

澪「ああ、楽しみにしてる」

澪(いきなりの宣告か……思ったよりドキドキしてきた…)

澪(でも、絶対に笑顔で律を送り出すッ!)


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澪「……」スタスタ


律の家までの道のりが、こんなに遠いと思ったのは初めてだった。
やはり、どこかでまだ認めたくない私が、必死に抵抗したんだと思う。


澪「……」

 ピンポーン

「あらっ、澪ちゃん」

澪「お久しぶりです」ペコッ

「ほんと…さ、上がって」

澪「……はいっ」


すでに見覚えのある靴が、玄関に並べられていた。一番早くくるつもりだったのに……。
足取りは重く、だけど確実に一歩を踏み出して──
私は一息して、リビングの戸をゆっくりと開けた。


「「「「ハッピー・バースデー!!」」」」


 パンッ! パパパンッ! パンッ!

澪「……えっ」ポカーン…

唯「澪ちゃんおめでとー!」

梓「先輩ッ、お誕生日おめでとうございますっ!」

紬「おめでとう澪ちゃんッ!」

澪「えっ、でも今日……律のお別れ…」

聡「澪ねーちゃん、なんのこと?」

澪「……聡、引越しは?」

聡「引越し? 誰んちが?」

澪「」

律「ふっふっふ……まんまと騙されたようですな」

澪「」ビキビキ

律「そう……全ては澪の誕生日のため、引越しは…」

律「嘘だよぉーんドッキリ大成こぉおぉぉぉ!? ちょ、みおクルシイぃぃぃ……!!」

澪「りぃいぃぃつうぅぅうぅぅ…………」

唯「み、澪ちゃん! りっちゃん死んじゃう死んじゃう!」

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律「ギブ……ぅ…し、死ぬかと思った……」

澪「…………」プルプル

律「ちょ、もう勘弁してみ──」

澪「よかったああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

律「……」ニコッ

唯・梓・紬「……」ニコッ

澪「ッ……うぅっ」…ボロッ

律「あぁ~だから泣くなよ澪~!」


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律「落ち着いた?」

澪「大分と……」

律「では、大まかなネタばらしをしようッ」ビシッ

唯「わーー!」パチパチ

律「まず……何故、聡は逃げたか。これは……コイツから嘘がバレないための方法だったのだッ」

聡「なんだよっ、俺そこまで馬鹿じゃねぇよ」

律「……じゃあお前に特別に上げた2000円は、なんだと思ったんだよ」

聡「だって…澪ねーちゃんから逃げ切ればくれるって」

梓「流石、律先輩の弟ですね……」

澪(馬鹿だ……)ハァ…

律「……それと、軽音部からわざわざ持ち帰ったドラム!」

澪「そうだ、じゃああれはどこにやったんだ?」

律「まあまあそれは後のお楽しみとして……あれによって大分と引越しに信憑性が増したなッ!」

澪「…あれは騙されるよ……さすが律は悪知恵がはたら──」

律「流石は梓、知将だなっ」

澪「」

梓「当たり前ですっ、先輩からハンバーガー無料券もらいましたからっ」

澪(こっちも馬鹿だった…)ハァ…

律「あとは。私達の迫真の演技っ……少しの間、演劇部で練習して正解だった…!」

澪「……そんなことまでしたのか」

紬「今までの茶番じゃ、多分バレちゃってたもの」ニコッ

唯「だねー」

澪「まったく、私はどれだけ心をいためて──」

「はい、バースデーケーキよー」

唯「うわぁ~おいしそー!」キラキラ

澪「あれ……いいんですか?」

「今年の誕生日は…澪ちゃんちと協力してたのよ?」

澪「え、ママが……?」

澪(みんな……まだまだ、かなわないな)

聡「ママ?」

澪「お母さんッ!」

「ほら、電気消すわよー」フッ

律「よ~し、みんな! ……合唱ッ、せ~のっ──」


♪ Happy birthday to you, Happy birthday to you,♪

 ~♪ Happy birthday, dear 〝Mio〟 ♪

     ~♪  Happy birthday to you~♪

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唯「ケーキ美味しかったねぇ」ニコッ

紬「そうねぇ」

澪「律の部屋で組み立ててあったのか……」

律「ほらムギ、唯! ねっころがってる場合かッ」ドドドンッ!

梓「そうですよっ、私達のプレゼントがまだじゃないですか!」

澪「え、プレゼント?」

律「えーっとタオルを置いて防音して……」

唯「あっ、あずにゃん。半音の半音ずれてるよっ」キリッ

紬「この音でいいのよね、うんっ」

澪「……」

澪(もしかして……) 

唯「澪ちゃん、私達からは曲のプレゼントだよっ」

紬「──」コクッ

梓「──」コクッ

唯「改めて、誕生日おめでとう澪ちゃん。いつも澪ちゃんはみんなの頼れるお姉さん的存在で、
  いつも私達をまとめてくれたね」

唯「少しお茶目で暴走気味なところもあるけど、今までも、
  これからも、澪ちゃんは澪ちゃんとして宜しくねッ」

唯「〝秋空レイニー〟──」コクッ

律「……ッ1、2、3──」


   ♪~─~─~ ♪~─~─~ ♪~─~─~

澪(この曲……どこかで…)

 ♪~─~─~ ♪~─~─~ ♪~─~─~

澪(そうか…あのときの聴いたことのなかったコード進行……これだったんだ)

   ♪~─~─~ ♪~─~─~ ♪~─~─~

澪(私、こんなに幸せでいいのかな……)ポロポロ…

 ♪~─~─~ ♪~─~─~ ♪~─~─~ ♪~─~─~…………


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律「っは……ッ」

紬「……はぁ……っ」

梓「ッ……」

唯「っ…………」フンスッ

澪「……」パチパチパチパチパチ…


私は背伸びばっかりして、勝手に大人になろうとして……。
そんなの全部無駄だったんだ、させてくれないんだ。それから逃れる必要なんて、ないんだ。
だったら、もっと──……


澪「……あんまりうまくないなっ!」ニコッ


甘えても、いいんだよね────?



☆おしまい☆




最終更新:2013年01月16日 21:22