梓(とある合宿の朝、私とムギ先輩で朝食の用意をすることになりました)
梓(用意したのは豆腐とワカメの味噌汁、焼鮭、白ご飯)
梓(それだけでは寂しいという話になったのですが、冷蔵庫の中にはほとんど何もありません)
梓(そこで私は提案しました)
梓(ツインテールの先っぽを切り落として使うことを…)
律「おっ、美味そうじゃん」
澪「あぁ、味噌汁に焼鮭に白御飯、こっちの小皿に入ってるのはひじきか」
唯「うんうん。日本の和食って感じだね~。あずにゃんえらい!」
梓「まぁ食べてみてください」
紬「はい、召し上がれ」
唯「この味噌汁美味しいねー」
紬「豆腐は梓ちゃんが切ってくれたのよ」
唯「あぁ、それで不揃いだったんだね」
梓「……」
唯「大丈夫。不揃いでもちゃんと美味しいから。憂の作ってくれるやつほどじゃないけど」
梓「唯先輩はひとこと多いです。でも……」
梓(美味しいと言って貰えてよかったです)
澪「うん。焼鮭の塩加減もばっちりだ」ムシャムシャ
律「あぁ、普通に美味いよ」ムシャムシャ
唯「うんうん」ムシャムシャ
律「澪」
澪「どうした」
律「ひじき食べてくれないか」
澪「まだ苦手なのか」
律「ごめん」
澪「しょうがないな……まぁ残すのももったいないし……」パクッ
澪「……うっ」
梓「……?」
澪「ごめん、ちょっと私には合わないみたいだ」
唯「私も食べてみよ……うっ」
梓「……美味しくなかったですか?」
唯「……うん。私の口にも合わないみたい」
梓「……」
唯「お、落ち込むことないよあずにゃん」
澪「あぁ、そうだぞ。他のはちゃんと上手に作れてるんだし」
律「私の場合、もともとひじきは苦手だから関係ないしな」
梓「……そうですね」
梓「さぁ、早く食べてください。食べ終わったら練習ですから」
唯・律「えーーーー」
紬「……」ムシャムシャ
―――
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梓(合宿が終わり、学校が始まったある日のこと)
梓(部活が終わった後、ムギ先輩に残ってもらうように頼みました)
紬「どうしたの梓ちゃん?」
梓「あの…ですね」
紬「うん」
梓「どうやったら私のひじき美味しくなるんでしょう」
紬「もしかして梓ちゃん、あの合宿のときのこと」
梓「はい…ムギ先輩の沢庵は美味しいのに、私のひじきは」
紬「気にすることないのに」
梓「私も…御飯の時に役立てる人間になりたいんです」
梓「ムギ先輩みたいに自分の体でみんなに喜んでもらいたいんです」
紬「…決意は固いの?」
梓「はい!」
紬「……決して楽な道のりじゃないわよ」
梓「どんなことでもやってやるです」
紬「そう。じゃあ今日から私のことを師匠と呼びなさい」
梓「えっ」
紬「口答えしちゃ駄目っ!」
梓「……ムギ師匠」
紬「……!」
梓「どうしました?」
紬「もういっかい言ってくれる?」
梓「はぁ……ムギ師匠」
紬「ええ! それじゃあ特訓開始よ!!」
―――
―――
―――
梓「ここがムギせ――師匠の家」
紬「ええ、ちょっと待っててくれる」
紬「これを食べてくれるかしら?」
梓「これは……沢庵ですか」
紬「ええ、3年前の沢庵。冷凍保存しておいたの」
梓「はい……」ポリポリ
梓「うっ……しょっぱすぎます。それに酸味が強くて」
紬「美味しくないでしょ」
梓「これがムギ先輩の沢庵だなんてちょっと信じれれません、今はこんなに美味しいのに」ペロッ
紬「あ、あずさちゃん」
梓「ごめんなさい。思わず舐めてしまいました」
紬「もうっ……」
梓「どうやってムギ先輩は美味しい沢庵を」
紬「す…家族に喜んで欲しくて頑張って美味しくしたの」
梓「そうでしたか……」
紬「だから梓ちゃんのツインテールも美味しく出来るはずよ」
梓「でも、どうすればいいんですか?」
紬「実はね、合宿の時三人が残したひじきをこっそり持ち帰ったの」
梓「えっ」
紬「解析をかけたところ、ビタミンB2が不足してるってわかったの」
梓「ビタミンB2……それがあれば私のヒジキも」
紬「うん。今よりは美味しくなると思う」
紬「でも、それだけじゃ駄目」
梓「そうなんですか?」
紬「栄養も必要だけど、もう一つ大切なものがあるから」
梓「それは?」
紬「愛よ」
梓「えっ」
紬「食べてくれる人の顔を思い浮かべて、毎日美味しくなーれって願い続けることが必要なの」
紬「冗談に聞こえちゃうかしら?」
梓「そ、そんなことありません」
紬「そう?」
梓「だってムギ先輩の沢庵を食べてると、なんだか心まで暖かくなってくるから」
紬「……」
梓「あっ//」
紬「梓ちゃん、ありがとう」
梓「うぅ~//」
紬「梓ちゃん。ビタミンB2が多く含まれてる食品って何かわかる?」
梓「ごめんねさい。料理はさっぱりで」
紬「レバーや海苔よ」
梓「レバーって肝臓ですよね」
紬「ええ。苦手じゃない」
梓「沢山は無理ですが……」
紬「なら、海苔は沢山食べたほうがいいかも」
梓「どうしてですか?」
紬「ひじきと同じ海藻だから、含まれてる栄養が被ってるのよ」
梓「なるほど……」
紬「私も美味しい沢庵を作るために根菜を沢山食べてるの」
梓「そんな苦労が……あっ」グゥ~
紬「お茶にする?」
梓「……沢庵がいいです」
紬「もう、梓ちゃんったら……//」
梓(そんなこんなで私の特訓が始まりました)
梓(朝はできるだけ御飯を食べるようにして、海苔を食べるようになりました)
梓(ミネラル分を補うため、ムギ先輩がミネラルウォーターで紅茶をいれてくれるようになりました)
梓(週に一度はレバーを食べるようになりました)
梓(それから……)
梓(食べてくれる人の顔を想像して、毎晩おいしくなーれって念じました)
梓(……一ヶ月後)
唯「ひじきパーティー?」
紬「えぇ、ちょっとお客さんから貰い過ぎちゃって」
澪「私はいいけど、律は……」
紬「ケーキもあるわよ~」
律「それなら私もいいぞ。ひじきには手を付けないけど」
唯「ケーキ!!!! もちろん私もいくよー」
―――
―――
―――
梓「本当に大丈夫でしょうか?」
紬「大丈夫。だって」カリッ
梓「あっ//ツインテールの先端」
紬「こんなに美味しいんだから。さぁ、料理をはじめましょう」
―――
―――
―――
紬「まずはひじきの炊き込みご飯です」
澪「いい匂いだな」
唯「うん。ひじきと油揚げの匂いが混ざってとっても食欲を唆るね~」
澪「……」モグモグ
唯「……」モグモグ
唯「うんっ。普通に美味しい」
澪「ほのかなひじきの苦味がいいアクセントになってるな」
律「……」
唯「りっちゃんは食べないの?」
律「……あぁ」
―――
―――
―――
梓「む、むぎ師匠」
紬「ええ、やったわね!」
梓「はいです!」
紬「次の料理、いくわよ~」
―――
―――
―――
紬「次はひじきと筍のキッシュよ」
唯「わっ、ケーキみたい」
澪「おっ、これは凄いな」
律「……これは味が想像できないな」
紬「りっちゃんもちょっとだけ食べてみる?」
律「……いいのか?」
紬「もちろん!」
律「じゃあ少しだけ食べてみるよ」
唯「……」モグモグ
澪「……」モグモグ
律「……」モグモグ
唯「うん! これとっても美味しいよ」
澪「あぁ、ひじきと筍のキッシュなんてどうかと思ったけど、食感が凄い」
紬「りっちゃんは?」
律「……あぁ、美味しいよ」
唯「そういえばあずにゃんは?」
紬「今は厨房で手伝ってもらってるの。そろそろ料理が全部できるから連れてくるわ~」
梓(私も加わってひじきの天麩羅やひじき饅頭などを食べました)
梓(唯先輩と澪先輩は何度も美味しいと言ってくれました)
梓(律先輩も照れくさそうに美味しいと言ってくれました)
梓(そんな私たちのことをムギ師匠は優しく見つめていました)
梓(その後みんなに、今日のひじきが私のポニーテールなことを説明しました)
梓(唯先輩と澪先輩に噛み付かれました)
梓(私のロングテールがショートテールになる前に、パーティーはお開きになりました)
梓(それから……)
梓「ムギ師匠、ありがとうございました」
梓「こうやってみんなに美味しいって言ってもらえたのも、ムギ師匠のおかげです」
紬「ううん。梓ちゃんの努力があってこそだわ」
梓「でも、ムギ師匠がいなければ、きっとこんな日はこなかったです」
紬「そうかもしれないね……」
梓「はい。だからというわけではないんですが……」
紬「うん?」
梓「……好きです」
紬「えっ」
梓「好きです、って言ったんです」
紬「……えっ」
梓「えっと……もう一度いいましょうか?」
紬「ううん。でも梓ちゃんは……」
梓「うん?」
紬「澪ちゃんか唯ちゃんのことが好きなんじゃないの?」
梓「一番好きなのはムギ先輩です」
紬「……っっ~//」
梓「あの、ムギ先輩?」
紬「……//」
梓「その反応は」
紬「……うん。そういうこと」
梓(はじめてのキスはひじきの味がした)
紬「でも、どうして梓ちゃんは私のことを好きになってくれたの?」
紬「でも、唯ちゃんや澪ちゃんだって梓ちゃんのひじきだと知ってれば……」
梓「それでもです。私はあのときムギ先輩に食べてもらえて凄く嬉しかったんです」
紬「梓ちゃん……」
梓「毎日毎日ムギ先輩の顔を思い浮かべて、ひじきに美味しくな~れって願い続けたんです」
紬「//」
梓「だから残さず食べてくださいね。私のひじき」
紬「えっ」
―――
―――
―――
純「梓、おはよー。って、あれ?」
憂「梓ちゃん。イメージチェンジ?」
梓「まあ、そんなとこかな」
純「まさか失恋したとか?」
梓「逆」
梓「とってもいいことがあったんだ」
おしまいっ!
最終更新:2013年02月03日 22:27