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律「……ごめんムギ。私が公園に行こうって言ったばっかりに」ブルブル

紬「気にしないで」ブルブル

律「素直にファミレスに行っておけば良かった。こんなに寒いとは」ブルブル

紬「それでりっちゃん、お話って」ブルブル

律(うぅ…失敗した)

律(2月の公園がこんなに寒いとは)

律(こういうとき唯なら体を寄せあって暖めあうんだろうけど)チラッ

律(そういうのは私には似合わ……えっ)

紬「……」ピトッ

律「む、むぎ?」

紬「こうやったらあったかくなるかなって。…迷惑だったかな?」

律「……ムギはエスパーか?」

紬「えっ」

律「……ううん。とっても暖かいよ」

紬「なら良かった」

律「そういや一家に一台ムギ……って唯が言ってたな」

紬「うん。言ってた言ってた」

律「ちょっとだけ唯の気持ちがわかった気がする」

紬「//」

律「ムギ?」

紬「……な、なんでもないよの」

律「ならいいんだけど」

紬「……もう、りっちゃんったら」ボソッ

律「何か言った?」

紬「なんにもっ」

律「怒ってる?」

紬「怒ってません」

律「それならいいんだけど…」

紬「…そういえばりっちゃん、お話があったんじゃないの?」

律「あぁ、そうだった。なぁ、ムギはなんであそこでバイトしてるんだ?」

紬「それは…」

律「時給がいいから?」

紬「それはあんまり…」

律「じゃあ、どうして? 子供が好きだから?」

紬「あの保育園の子供達は、甘えるのがとっても下手なの」

律「…うん」

紬「私も同じだったからよく分かるんだ」

律「…うん」

紬「でもね、私にはピアノがあったの」

律「ピアノ?」

紬「えぇ、ピアノ。ピアノさえあれば私はそれで幸せだった」

紬「音は私に応えてくれたから」

紬「でもね、あの子たちには、私にとってのピアノがないかもしれない」

紬「そう考えたら、あの子たちが可哀想に思えてきたの」

律「同情?」

紬「ええ、同情」

紬「だから私に何かやってあげられないかって考えたの」

律「それで先生のバイトか」

紬「えぇ」

律「なるほど…」

紬「りっちゃんが私にやってくれたようなことを、あの子たちにもやってあげられたらいいなって」

律「…っ」

紬「りっちゃん?」

律「ムギは私のこと持ち上げすぎだと思う」

紬「そう?」

律「うん」

紬「でも、実際にそう思ってるから」

律「ストレートにそう言ってくれるのはムギだけだよ」

紬「澪ちゃんも梓ちゃんも素直じゃないから…」

律「正直、照れる」

紬「ふふっ。照れてるりっちゃん、ナマハゲさんみたい」

律「……って、おい。オデコが隠れてなかったのはやっぱりそういうことだったのか」ポカ

紬「きゃっ」シュッ

律「って躱すのかよ」

紬「そうなんどもあたってあげないから」

律「叩かれて喜んでただろ」

紬「なんども叩かれると有難みが減っちゃうから」

律「そんな屁理屈」

紬「ねぇ、りっちゃん」

律「なんだ?」

紬「鬼ごっこ、しない?」

紬「私を捕まえたら、なんでも一つ言うことを聞いてあげる」

―――
―――

紬『りっちゃんこちら、手の鳴る方へ』パンパン


律(これじゃあ鬼ごっこというよりかくれんぼだ)

律(この闇の中じゃムギの姿なんてロクに見えやしない)

律(声を頼りに影を見つけても、すぐに逃げられてしまう)


紬『りっちゃ~ん。早く私を捕まえて~』パンパン


律(ムギのやつおちょくってやがる…)

律(くそっ、こっちか)

律(…また見失った)


紬『りっちゃんこちら、手の鳴る方へ』パンパン


律(今度はアスレチックの裏に…)

律(…あのアスレチックは後ろには逃げられなかったはず)

律(なら右と左の二択……)


紬『りっちゃ~ん。まだなの~』


律(右だっ!)

律(いない? 確かに声はこっちから……え)


紬『残念』


律「アスレチックの上…!?」

紬「惜しかったね」

律「なぁ、ムギ」

紬「なぁに、りっちゃん?」

律「……なんでもない」

紬「…? へんなりっちゃん…」


律(楽しいかって聞こうと思ったけど辞めた)

律(顔は見えないけど、ムギは今、楽しそうに笑ってるはずだから)

律(これはムギなりの甘え方なんだろう)


律「なぁ、ムギ」

紬「なぁに、りっちゃん?」

律「私もムギに甘えていいか?」

紬「えっ」

律「私から逃げ切ったら、なんでも一つ言うことを聞いてやるよ」

紬「本当?」

律「だから逃げき――って、おい」

紬「きゃああっ」ズザァァァァァッ

律「危ない!!」


律(足を滑らせたムギが落ちてくる)

律(私はそれを受け止めようと、落下予想地点に走りこむ)

律(両手を思い切り広げたけど、映画のようにはいかない)

律(ムギに押し倒された私は地面とキスをした)


律「イテテテテ」

紬「りっちゃん、大丈夫」

律「あぁ、大丈夫」

紬「でも、私重たいから」

律「これくらい平気だって、ほら」ブンブン

紬「…ほんとう?」

律「うん」

紬「よかった……」ギュッ

律「おい、ムギ…」

紬「…ごめんね、りっちゃん」

律「いいんだよ。ムギ」

紬「りっちゃん……」ギュッ


律(月のない夜にふたりきり)

律(地面の上でふたりきり)

律(澪だったら詩でも作るのかな…)

律(でも私は澪じゃない)

律(ムギはぎゅっと私を抱きしめている)


律「なぁ、ムギ」

紬「なぁに、りっちゃん」

律「ムギを捕まえたら、なんでも一つお願いごとを聞いてくれるんだよな」

紬「あ、うん」

律「ならさ、こういうのはどうだろう?」

律「ムギと――――」


おしまいっ!



最終更新:2013年02月07日 00:15