どうしようもなく心が弱くなってしまったときに空を見上げた。

 白く、青い空。

 日本で見ていたそれに比べて高さを感じた。それに広い。

 そら、そら。

 からっぽの頭には、勝手に単語が浮かんで消えていくばかりだった。

 空。

 そうして自然に思い出される。あの歌が。



 大切な人に歌ったあの歌が。



 ……本当に、同じ空?

 日本でみんなが見上げているのは、こんなに高い空じゃないかもしれない。こんなに広々とはしていないかもしれない。青空じゃなくて、夜の星空かもしれない。

 もしかしたら、日本にいる私の大切な人は……今は誰ひとりとして空を見上げていないのかもしれない。


 ――“離れてても 同じ空見上げて”。

 あの歌がくれた勇気を胸に、私は日本を発った。
 どこにいたって私達の間にあるものは変わらないって、そう思えたから、私は居心地の良い場所に別れを告げられた。
 大丈夫だって自信をもって言えた。


 それがたとえ一時でも、こうして揺らいでしまうことは寂しさに輪をかける。

 確かに繋がっているはずの一枚の空が、まるで別物に見えることがどうしようもなく悲しい。

 私は変わって、変えてしまったんだろうか。
 変わるはずがないと信じていた自分の気持ちを。


 形も定まらないくせにあふれそうな気持ちに喉が震えた。


 歌を歌う。


 あのとき確かに、みんなが歌っていた言葉と旋律を思い出す。

 それは再び、少しだけ勇気をもらえたような気分にさせてくれた。


 離れてても、同じ空見上げて。

 ユニゾンで歌おう。


おわり。です。



最終更新:2013年02月08日 23:57