「もう逢えない」
そう冷たく告げる私に
「……そっか」
振り絞るように小さな声でぎこちなく笑う澪
私の家までの長い長い一本道
何度も二人並んで歩いたこの道を今は私が一人歩き、
その後ろを澪が静かに夕陽に照らされて伸びた私の影を追うようについてきている
隣の公園から無邪気な子供達の声が聞こえる
男の子と女の子が仲良く遊具で遊んでいる姿は小さかった頃の私と澪を思い出させた
「……ずっと前から好きでした」
脳裏にあの時の澪の言葉がよぎる
あの時の私はただ嬉しかった
人に好意を寄せられるなんて誰だって普通は嬉しいことだし、それが自分の大切な人からなら尚更だ
でも、女の子だったんだよ、私は
「それでもいいから」
そう云う君と始まって
澪は私を愛してくれた
それは親愛でもなく、友情でもなく、男女の愛に近いものだったんだと思う
二人になればうつむきながらキスをせがみ、
眠るときは私の胸の中で愛おしそうに頭を押し付けて眠った
私もそれに甘えていた
心の中で私達が変わった訳じゃないと決めつけていたから
『好き』という言葉を口にしたかしていないかだけだと笑ってた
だからなんだ
本気で澪を愛せなかったのは
「最初から分かってた。律はそうじゃないって」
「ラ、ラッキーだったよ。少しだけでも恋人として過ごせたから……」
澪がはしゃいでみせて強がる
そんなことを言うから私は澪の側にいられない
ずっと思っていた
『好きになれればいいのに』と
なのに心の中に異物感があるのはどうしてだろうか
綺麗なモノで飾り付けた言葉だけを欲しがって澪をたくさん傷つけていく
あんなにも抱き合ったのに繋がらなくて
繋がれなくて
もうすぐ途切れる道の手前で私は立ち止まる
澪にかける言葉を頭の中で必死で紡ぐ
「ゴメン」
一言
これだけの終わりしかないなんて
「律は悪くないよ」
そう言って澪は私に背中を向けた
澪が後ろ手に何かを持っていることに気付く
ピンク色の小さな箱
丁寧にラッピングされたそれは誰かへの贈り物のように見えた
「さよなら」
振り返りもせずに澪は歩を進める
「待っ……」
出しかけた声を押し殺す
今ならまだ間に合う
追い掛ければ手だけは届く
「……さよなら」
だけど、それじゃいけない
私の頬にしょっぱい水が伝う
想いをありがとう澪
切なくて、甘くて、苦かったよ
おわり
地の文の練習がてら、1日早いバレンタインSSを。
お察しの通り元ネタはあれです。
最終更新:2013年02月13日 21:24