~~1週間前~~


憂(……1週間後のバレンタインデーに)

  (最高のチョコを、受け取ってもらうんだ!)

  (もちろんいつも通りお姉ちゃん達にも作るけど)

  (それも含めて、今年は早め早めに準備を――)


唯「うーいーぃ……」

憂「あれっ、早めの春休みで実家に帰ってきてるお姉ちゃん、どうしたの?」

唯「誰に説明してるの?」

憂「ないしょ」

唯「うーん……あっ、そうだ憂、チョコの作り方教えてよ!」

憂「へ? どうしたの、急に」

唯「バレンタインに渡したい人がいるんだ~。憂にもだけど、憂以外にも、ちゃんとした私の手作りのやつをね!」

憂「わぁ、素敵だねっ」

唯「というわけで、早め早めの準備をね!」

憂(さすが姉妹で考えることが一緒! 嬉しい!)

  「いいよ、私も手伝う!」

唯「ありがと、憂!」


~~6日前~~


憂(昨日は一日中お姉ちゃんのチョコ作りの手伝いをしちゃった!)

  (私から見ても文句ないとっておきの一品が出来たと思います)

  (そのチョコを見て幸せそうなお姉ちゃんを見ると、私もとってもとっても幸せな気持ちになれました)

  (お姉ちゃんのバレンタインが成功しますように)

  (っと、今度は私のバレンタイン――)


prrrrr


憂「電話? えっと…律さんから?」

ピッ

憂「……もしもし?」

律『やっほー憂ちゃん。今日暇?』

憂(……まぁまだ6日もあるし、律さんが電話してくるほどの用事っていうのも気になるし…)

  「ええと、一応は暇ですけど。どうしたんですか?」

律『おお、よかった。本命の大学は受験終わったって唯に聞いてたんだけどさ。とりあえずお疲れ様』

憂「ありがとうございます。すっごいドキドキしましたよ、受験」

律『だろー? 私もよく全力出せたもんだと去年の自分を褒めてやりたいよ』

憂(いくらなんでも私の受験が早くないかとかすべり止めの大学は受けなくていいのかとかそういうツッコミは無しでお願いします皆さん)

律『で、本題だけど。私今春休みで帰ってきてるんだけどさ……って、あぁそっか、唯も帰ってるか』

憂「はい、替わりましょうか?」

律『あ、そうじゃないんだ。用事があるのは憂ちゃんなんだ』

憂「はい……なんでしょう?」

律『……折り入って頼みがあるんだ』


憂「な、何でしょうか…?」

  (この真剣な空気……いったい……?)

律『……バレンタインのチョコ作り、手伝ってくれないか!?』

憂「……へっ?」

律『いや、どうしても渡したい奴がいてさ……』

憂「……でも、律さん料理とか出来ないわけじゃないってお姉ちゃん言ってましたけど……」

律『チョコとかは別! あくまで家庭的なの! アットホームなの、私は!』

憂「は、はぁ」

律『お願い! いつかお礼するから!』

憂「そ、そんなのいりませんよ、大丈夫ですから。そっちに向かえばいいですか?」

律『うん! やった、憂ちゃんの指導があれば百人力だぜ!』

憂「あ、あはは……」


~~5日前~~


憂(……料理の難しさを知る律さんは、だからこそ妥協を許さず、本気でチョコ作りに取り組んでいました)

  (その結果、文句ないとっておきの一品が出来上がった……のはいいのですが)

  (また丸々一日使ってしまいました)

  (でも、律さんも嬉しそうだったし、誰かの幸せのお手伝いを出来るのは嬉しいことです)

  (律さんのバレンタインも、成功しますように)

  (さて、今日は私のほうを――)


prrrr

憂「……紬さん? 珍しいなぁ…何だろう?」

ピッ

憂「もしもし?」

紬『あっ、憂ちゃん。元気ー? 紬です。お久しぶりー』

憂「はい、お久しぶりです。春休みですか?」

紬『そうなのー。憂ちゃんは受験終わったんだったよね? 今日時間ある?』

憂「紬さんからのお誘いって珍しいですね。大丈夫ですよ」

紬『ありがとう。じゃあ……』

憂(……あれ? この真剣な空気、記憶にあるような……)

紬『……バレンタインのチョコの作り方を教えてください!』

憂(やっぱり!)

紬『…ダメ、かな?』

憂「い、いえ、そんなことは!」

  (こんな言い方されちゃ断れないよぉぉぉ!)

紬『よかったぁ! どうしても手作りで渡したい人がいて、ね』

憂「で、でも、私なんかでいいんですか? 他にも誰か――」

紬『なんか、なんて言わないで。私は他の誰よりも憂ちゃんが適任だと思ったの。憂ちゃんに学びたいの!』

憂「……っ、ありがとうございます。そういうことなら全力でお手伝いします!」

紬『お願いします、先生!』


~~4日前~~


憂(さすがに紬さんの手前、半端な仕事はできませんでした)

  (つまり、また丸一日使ってしまいました)

  (でも、紬さんほどの人に頼られるというのが嫌なことのわけがありませんから、後悔はしてません)

  (さて、今日こそ私のチョコを――)


prrrrr


憂「……まさか」

ピッ

澪『あっ、もしもし憂ちゃん。久しぶり』

憂「どうも、お久しぶりです澪さん。大学はどうですか?」

澪『うん、それなりに忙しいけど大丈夫。もちろん唯もちゃんとやってるよ』

憂「よかった。ありがとうございます」

澪『お礼を言われるようなことはしてないよ。ところで……』

憂「はい」

澪『……お願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?』

憂「……あの、澪さん」

澪『な、何?』

憂「……違ったら申し訳ないんですけど、もしかしてバレンタインの話だったりします?」

澪『………』

憂「………」

澪『……憂ちゃん、超能力者?』

憂「……私でよければお手伝いしますよ」


~~3日前~~


憂(澪さんは相手のことを想うあまり、かなりレベルが高いチョコを作ろうとしていました)

  (やれるだけのことは自分でやって、その後で私に頼ってくるあたりは、真面目な澪さんらしいと思いました)

  (ので、出来る限り澪さんの理想に近づけるように、出来る限り精一杯チョコを作りました)

  (つまり、一日潰れました)

  (もちろん後悔はありません。日頃お世話になってる人たちの力になれることに)

  (でも、なんかだんだんわかってきました)

  「たぶん、今日も――」


prrrrrrrrr


憂「……もしもし?」

純『やっほー憂! 今ヒマ?』

憂「うんわかった、チョコ作りの道具持って純ちゃん家に行くね」

純『えっ、何も言ってないのに全部読まれた怖い』


~~2日前~~


prrrr

直『すいません平沢先輩、折り入ってお願いが……』

憂「直ちゃんのところ、弟さん沢山いるって言ってたっけ。それは大変だよね。手伝うよ!」


~~1日前~~


prrrrr

菫『う、憂先輩ぃ、すいません助けてくださいぃ~……』

憂「スミーレちゃんなんで泣いてるの!? 待ってて今行くから!」


~~当日朝~~


憂「……何も準備できなかった……梓ちゃんの分も、他のみんなのも……」

  「……くすん」

  「……ううん、落ち込んでてもしょうがない! 今からでも出来ることはあるはず――」

唯「うーいー」トテトテ

憂「お姉ちゃん?」

唯「はい、チョコあげる」ポン

憂「…へ?」

唯「あ、憂に手伝ってもらったのとは別だよ? こっちは私が一人で作ったから憂のほどは美味しくないと思うけど……でも、ありがとうって伝えたかったから」

憂「お、お姉ちゃん……ありがと!」

唯「えへー、どういたしまして。憂の手伝ってくれたチョコの出番は今からだからね、行ってくるよ」

憂「がんばってね、お姉ちゃん!」

唯「憂もね!」


ガチャ バタン

憂「……私も、かぁ」

  「よし、頑張ろう!」

  「えっと、まずはボウルとか準備して――」


ピンポーン


憂「……? 誰だろう、こんな朝早くから……」

律「憂ちゃーん、いるー?」

憂「律さん?」ガチャ

律「おっはよーん。はい、チョコあげる!」ポン

憂「へっ?」

律「手伝ってくれたお礼と、日頃の感謝も込めて。あ、憂ちゃんが手伝ってくれたやつとはもちろん別な。そっちの出番はこれから」

憂「は、はい、ありがとうございます……すいません、私、まだチョコできてなくて、お返しできなくて」

律「いいのいいの、そんな気遣いさせたくないからこんな朝早くに来たんだし。でも、どーしてもって言うならホワイトデーならいいよ?」

憂「ふふっ、わかりました、三倍返しですね?」

律「……嬉しいけど、女の子として自信無くしそうだから普通でお願いします」

憂「しょうがないですね。……なんちゃって」

律「ははっ。んじゃ、そういうわけで!」

憂「はい、がんばってきてください!」


  (……そうして律さんを見送った後、もしかしたら、という予感がしました)

  (その予感に任せて、玄関で待機していると――)


ピンポーン

紬「憂ちゃーん」


ピンポーン

澪「あの、これ、チョコなんだけど」

ピンポーン

純「この前手伝ってくれたお礼っていうか」


ピンポーン

直「日頃の感謝といいますか」


ピンポーン

菫「本当に、いつもいつもありがとうございます!」

憂「………」ドッサリ

  「……幸せ者だなあ、私は」

  「……ホワイトデー、頑張らないとね」

  「っと、そうだ、チョコを作らないと――」


ピンポーン


憂「? 誰だろう……誰かチョコ間違ったりしたのかな?」ガチャ

梓「あ、憂」

憂「あ、梓ちゃん!?」

梓「……どうしたの、そんなに驚いて」

憂「あ、あはは、ナンデモナイヨー……」

梓「……っていうか、すごいチョコの数だね、憂」

憂「う、うん、いろいろあって……」

梓「ふーん……」ムスッ

憂「……?」

梓「……はい、私からもあげるよ、チョコ」スッ

憂「えっ…?」

梓「……そんなにあるなら、私から渡しても渡さなくても一緒かもしれないけど」ムスッ

憂「そ、そんなことないっ! すっごく嬉しい! 一番嬉しい!」

梓「い、一番って。それは大げさだよ……」

憂「だ、だって……!」

梓「……うん、ごめん。変な態度してた私が悪いよね。ごめん」

憂「………」

梓「みんなから慕われてる憂は、素敵だと思う」

憂「でも……今年は、チョコ、誰にも渡せてないんだ……」

梓「そうなの?」

憂「ちょっと、忙しくて……せめて梓ちゃんには、貰うより先に渡したかったのに……」

梓「憂……それって……」

憂「………」

梓「……ねぇ、憂。チョコ以外に私が来た理由、わかる?」

憂「えっ…?」

梓「……今日、N女の合格発表だよ?」

憂「……あっ……ああああっ!?」

梓「忘れてたんだね……忙しかったって言ってたし仕方ないんだろうけど」

憂「ど、どどどうしよう!?」

梓「どうもしないよ……どうせ一日中張り出してるだろうし。で、さ。提案というか、本題なんだけど」

憂「う、うん…?」

梓「……一緒に行こう? 純とも途中で待ち合わせしてるけど、そこまでは二人で、二人っきりで行こう?」

  「っていうか、一緒に来て欲しいっていうか…憂と一緒に見たいっていうか……」ゴニョゴニョ

憂「梓ちゃん……」

梓「……もちろん、無理にとは言えないけど……」

憂「………」

梓「………」

憂「……帰ってきたら、チョコ作るの手伝ってくれる?」

梓「う、うん、それはいいけど……」

憂「行きも帰りも、というか今日一日中、一緒にいてくれる?」

梓「ぁ……うん! もちろん!」

憂「…えへへ、梓ちゃーん!」

梓「ふふっ、じゃあ、行こっか!」

憂「うん!」



梓「ところで落ちてたらどうしよう」

憂「そ、それは考えちゃダメ!」



終わろうか



最終更新:2013年02月14日 22:37