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本当はずっとお祝いしてあげたかった。
『友達の妹』の誕生日を祝うなんてちょっと変だから。
いつもお世話になってるお礼をしたかったんだ。
妙に気恥ずかしかっただけで、ずっと――。

でも、今日、私は憂ちゃんに会う事が出来た。
それは単なる偶然で、運命でも何でも無いんだろうけど、
でも、会えた事は事実だし、勝手に運命だって考えたって悪くないはずだ。
運命にしちゃったっていいはずだ。
これを私と憂ちゃんのきっかけにしちゃったって――。

私は頭に手をやってカチューシャを軽くなぞる。
私のトレードマークのカチューシャ。
私は元気でいつもプロレスごっこをやってる大雑把で適当なりっちゃんだ。
カチューシャの似合う元気な子なんだ。
それが私の全てじゃないけど、こんな時だけ遠慮してたって意味が無い。
だから、元気に祝ってあげよう、物怖じせずに。
今日だって――。


「そっか、唯は憂ちゃんの誕生日パーティーの準備をしてるんだね。
言うのが遅れちゃったけど、今日は誕生日おめでとう、憂ちゃん」


精一杯の笑顔を浮かべて――。
これまで伝えられなかった想いを込めて――。
私は今まで言えなかったその気持ちを伝える。

憂ちゃんは――。
私の言葉を聞いて少しだけ驚いた表情になったけど、すぐに笑顔になってくれた。
とても輝いてる笑顔。
笑顔ばっかりの唯に負けない眩しい笑顔に――。


「はいっ!
そうなんです、律さんっ!
あの……、私の誕生日、憶えて頂いてありがとうございます!」


「うん、憶えてるよ。
『にゃんにゃんにゃんで猫の日が憂の誕生日なんだよ!』って唯が何度も言ってたもん」


「そうなんですか、お姉ちゃんが……」


「それに――、さ。
憂ちゃん、高二の頃に私の誕生日を祝ってくれたでしょ?
いつかそのお返しがしたいな、って思ってたんだよ。
中々その機会が無くて、遅くなってごめんね」


「いいえ、そんな事――!
私こそ律さんが高二の頃しかお祝い出来なくてすみませんでした。
気になっていたんですけど、私から連絡するのも変な気がして……」


「いいよ、気にしないで」


私だって同じだから――、とは言わなかった。
流石にそれは今は言わなくてもいい事だと思う。
そういう私の失点は後から伝えればいい事だよな。
今日は憂ちゃんの『特別な日』なんだから。
笑顔だけの日にしたって、悪くない日なんだから――。


私は笑顔をちょっとだけ不敵な感じに変え、
買い物袋からキャベツを取り出して憂ちゃんに見せる。


「ねえ、憂ちゃん?
誕生日プレゼント、何がいい?
今日はたまたま会えただけだから持ち合わせが無いし、プレゼントは今度って事になるけどね。
ほら、流石にお使いで買って来たキャベツがプレゼント、ってわけにもいかないでしょ?」


「い、いいですよ、律さん。
私、律さんに誕生日をお祝いして頂けただけでとっても嬉しいですし……」


「まあまあ、そう言わずに。
私に高二の頃のお返しをさせてやると思って、何かねだってあげてよ。
私の我儘を聞いていやるって事にしてさ」


憂ちゃんが迷った表情で、少し黙り込む。
強制しちゃったみたいでちょっと悪い気もするけど、控え目で遠慮がちな子だもんな。
これくらいの態度の方が、憂ちゃんも遠慮なく私におねだりできるはずだ。
私も今日はちょっと図々しくなろう。
今日は大雑把で適当なりっちゃんで行くって決めたんだもんな。

キャベツを買い物袋に片付けて、
私達が缶コーヒーを飲み終えた頃。
憂ちゃんが真剣な表情を私に向けて口を開いた。


「じゃあ……、一つお願いしてもいいですか、律さん?」


「うん、何でも言ってよ、憂ちゃん。
あんまり高い物じゃなければ、すぐにでも買って来るよ。
これでもバイトしてるんだし、それなりの物ならプレゼント出来ると思うけど」


「あ、律さんにお願いしたいのは物じゃなくて……」


「物じゃない……?」


「はい、それじゃあ、えっと……。
律さんにスミーレちゃん……、じゃなくて、
斉藤菫ちゃんのドラムの練習を見てあげてほしいんですけど……、いいでしょうか?」


スミーレちゃんを菫ちゃんと言い直したのは、
私とあんまり面識の無い子をあだ名で呼ぶのも変だと思ったからだろう。
斉藤菫ちゃん――。
何度か憂ちゃん達との演奏を見せてもらった事もある。
私よりずっと背が高くて、力強いドラミングを見せるムギによく似たムギの妹――。
あ、妹じゃなかったっけ。
とにかく、軽音部の新入部員の子だよな。
一言二言だけど、話してみた感じでは丁寧で真面目そうな子だった憶えがある。

でも――。
と私はつい笑顔になってしまう。
溢れ出る笑顔を抑える事が出来なかった。
だって、憂ちゃんの誕生日プレゼントなのに、後輩の事を第一に考えちゃうなんてさ――。
それが――、憂ちゃんなんだよなあ――。


「うん、分かったよ。任せて、憂ちゃん。
私なんかでよければ、菫ちゃんのドラムの練習、見させてもらうよ。
今度ちゃんとスケジュールを空けておくから、いつでも声掛けてよ」


「ありがとうございます、律さん!
私、スミー……、菫ちゃん達の事、ずっと気になってて……。
私達が卒業しちゃって、残ったのがドラム一人だけだと菫ちゃんも不安だろうな、って……。
不安を解消するにはドラムが上達する事が一番だと思うんですけど、
でも、やっぱり私達だけじゃ、ドラムの専門的な事までには踏み込めなくて……。
だから、ドラマーの律さんに練習を見てもらえれば、菫ちゃんも自信を持てると思うんですよね」


「うん、こりゃ私も責任重大だね。
でも、本当に私でいい?
自分で言うのも何だけど、ひょっとしたら菫ちゃんに変な癖を付けちゃうかも……」


「律さんでいいん……、いいえ、律さんがいいんです。
律さんに菫ちゃんを見てほしいんです。
だって、私、律さんのドラムが好きなんです!
元気で力強くて楽しそうな律さんのドラムが好きなんです!」


「えっ……?」


憂ちゃんの力強い言葉に私は言葉を失ってしまう。
嫌われてるとは思ってなかったけど、ここまで力強く好きだって言ってもらえるとは思わなかった。
正直な話、私は自分のドラムを褒められた事はあんまり無い。
元気だけを買われる事はあるけど、技術面では全然褒められない。
自分だけ取り残されちゃうんじゃないか、って不安に思う事だって何度もあった。

だけど、憂ちゃんは私がいいって言ってくれた。
私のドラムがいいって言ってくれた。
憂ちゃんがこんな事で嘘を吐くはずがない。
本気で私のドラムが好きだって言ってくれてるんだ……。
やだなあ……、憂ちゃんの誕生日なのに私が勇気付けられちゃったよ……。

私は胸が感激で詰まりそうになったけど、それは笑顔で誤魔化した。
今日は笑顔で憂ちゃんを祝うんだからな。
私はちょっと咳払いをしてから、憂ちゃんの瞳を見つめて続ける。


「ありがとう、憂ちゃん。
これは責任重大だね。
うん、精一杯練習を見させてもらうよ」


「はい、ありがとうございます、律さん」


「だけど――さ」


「だけど……?」


「それだけが誕生日プレゼントだと足りない気がするんだよね。
だって、私って軽音部の元部長でしょ?
それくらいは頼まれたら誕生日のプレゼントじゃなくても、やらないといけない立場だしさ。
いつかはやりたい事だったしさ。
だから、もう一つ、追加プレゼントをさせてもらっていいかな?」




「追加プレゼント……ですか?」


「うん」


私はそこで言葉を止めて息を吸った。
憂ちゃんは私にとって『友達の妹』で、
私は憂ちゃんにとって『お姉ちゃんの友達』だ。
ずっとそういう関係だったし、それはこれからも変わらないけど――。
でも、憂ちゃんと今日話してて……、話せて、思ったんだ。
それだけじゃ勿体無いなって。
それじゃ嫌だなって。
私は憂ちゃんともっと仲良くなりたい。
優しくて思いやりがあって、笑顔が眩しい憂ちゃんともっともっと――。
憂ちゃんは確かに『友達の妹』だけど、でも――。









『友達の妹』と『友達』になったっていいはずだ――!


とても単純な答えだけど、妙な遠慮で私には今までそれが出来なかった。
正直、今日でなくちゃ、こんな事言い出せないと思う。
だから、今日だからこそ、言おうと思う。
今日は『特別な日』だから。
誕生日っていう、素直な好意を伝えたっていい日だから。
私は笑顔で憂ちゃんに伝えるんだ。


「今度、一緒に遊園地でも行かない?
勿論、チケット代とかは奢るよ。
それが追加プレゼントって事でどうかな?
折角今日ここで会えたのも縁だからさ、一緒に遊ぼうよ。
もしも憂ちゃんがよければ、になるけど」


「お姉ちゃん達も一緒に、ですか?」


「いや、それはちょっと予算的に辛いんだよね、実は……。
私もそんなにバイトで儲けてるわけじゃなくてさ。
だから、二人で遊ぶ事になるんだけど、どう?」


それは断られても不思議じゃない申し出だった。
こんな追加プレゼント、断る方が普通だし、それならそれで構わなかった。
私がただ憂ちゃんともっと仲良くなりたいって事を知ってもらえたら、それで十分だった。
断られるのは残念だけど、それならまたいつかもっと仲良くなって誘えばいいだけだ。

でも――。
憂ちゃんは、
優しい笑顔で、
私の両手を、
柔らかく握ってくれた。


「はい、喜んで――!
嬉しいです、律さん。
私も一度、律さんと二人で何処かで遊んでみたかったんです――!」


また、笑顔。
こっちまで嬉しくなるくらい、素敵な憂ちゃんの笑顔だ。
私も釣られて笑顔になった。

笑いながら、思った。
憂ちゃんが優しいのは憂ちゃんだからだけど、
その優しさはきっと唯の笑顔がいつも傍にあったからだ。
唯がいつも笑顔だから憂ちゃんも笑顔になって、優しくなったんだ。
私も唯と知り合えて笑顔になれる事が多くなったと思う。
これから憂ちゃんともっと仲良くなれたら、もっともっと笑顔になれる事も増えるはずだ。
笑顔が笑顔を増やしていくんだ――!

だから、私ももっと笑顔になろう。
皆と笑い合って、憂ちゃんとも笑い合って、優しくなっていこう。
憂ちゃんと笑顔を見せ合える友達になろう。

友達が増えるって想像はとっても素敵だよな。
憂ちゃんとこれからどれくらい仲良くなれるんだろう?
澪や唯達くらい仲が良い友達になれるんだろうか?
それは分からないけど、大切な友達が増えるって未来は私を嬉しくさせる。
もしも憂ちゃんとすっごく仲良くなれたら、唯達はどんな顔をして驚くんだろうな。
ははっ、それはまだずっと未来の事だろうけど、楽しみだよな――。

憂ちゃんの手のひらの温かさを感じて、
憂ちゃんの優しい笑顔を見ながら、私はそうして胸を鼓動させたんだ。
さっきまでのドキドキじゃなくて、ワクワクした鼓動を――さ。






別れ際、憂ちゃんに誕生日パーティーに誘われたけど、それは丁重に断った。
憂ちゃんの一人占めはよくないもんな。
今日は唯と憂ちゃんの『特別な日』なんだ。
今日の所は姉妹二人で大切な時間を過ごしてほしい。

でも――。
今度は私と憂ちゃんの時間だ。
菫ちゃんのドラムの練習を見終わってから、
ちょっと意外な組み合わせで、二人で遊園地で思いっきり楽しんでやろう。
そんな風に――、






私達は新しい友達との時間を過ごすんだ!



おしまいです。


最終更新:2013年02月20日 23:26