決戦2



一時間後――
ミシディア近くの山脈に隠れるように停泊していた魔導船が飛び立った。
「これでよかったのか?」
月面船に乗り込むのはセシル、カイン、エッジの三人だけだ。
この中では一番の寡黙であるはずのカインが二人に問いかけた。
「ああ……」
ゴルベーザ達を追いかけて月のゼムスの決戦へと赴く。そのためにはここにいる三人だけで十分である。
あの日――カインと再び一緒に戦うと決めた日にそう判断したのはセシルだ。
(ローザとリディアは残るんだ)
月へ向かうと決意したセシルはその後すぐにそう決断した。その時の言葉が頭で反芻される。
(僕ら三人だけで行く。 今度ばかりは生きて帰れる保証は無い!)
兄さんはゴルベーザは死を覚悟して月へ行った。それは贖罪のつもりであるのは間違いない。
しかしそれ以上にゼムスの力が強いのもあるだろうみすみす殺されに行くゴルベーザではないだろう。
戦いは今以上に激しくなる――
カインもこの事に異を唱えなかった。セシルとは同意見だったのだろう。
「そんな!」とセシルの判断にリディアはすぐに頬を膨らませた。ローザも不安と驚き交じりでセシルを見つめていた。
それは完全に納得はしていないという表情であった。
(さ、ガキはいい子で お留守番だ。)
(バカっ!!)
そんなリディアを言い聞かせたのはエッジであった。
子供扱いし、半ば強引に突き放すような言葉。この言葉にリディアは拗ねてしまい、そのまま月面船から駆け出してしまった。
理解してくれとセシルも無言でローザの顔を見つめた。ローザは何も言わずにゆっくりと立ち去ってしまった。
消え入るような儚さの背中は段々と小さくなり、セシルの視界から消滅した。
お別れだ――
ふいにセシルにそんな気持ちがよぎった。
「ほかのやつらにはあまり話さず来てしまったな」
未だに心に鮮明に残っているローザとの別れの記憶。
脳裏に何度もよみがえらせているセシルを現実へ引き戻すのはエッジの声。
飛び立つ魔導船のモニターは離れていく大地を画面に映している。それを眺めながらの一言。
この旅立ちの時、セシル達はミシディア長老へと一言伝えただけであった。
「ヤンもギルバートもシドもまだ完全に回復していないんだ」
「シドならこの事を話すと強引にでもついてきそうだけどな」
エッジが苦笑する
「なんでワシを連れて行かんのじゃ!」
いつも軽快な話口のエッジが珍しくドスの利いた低い声でシドの声を真似ている。
「なんていいそうだなあのじいさんなら」
笑いながらセシルとカインに話を振る。それがいつもの元気とは違うのはセシルだけではなく、カインにもわかっていただろう。
「頑張ろうぜ! セシル! カイン!」
セシル達を鼓舞するというより、自分に喝を入れるようだ。
先ほどからエッジはいつになく早口だ。
リディア達を置いてきた判断に未だに心の整理がついていないのだろう。
ましてやお互いに手を振って笑顔での別れといった感じではないのだ。

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最終更新:2021年09月19日 20:10
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