決戦7

「リディアを育ててくれた幻獣界にいっただろう」
地底世界での一幕。ふと立ち寄った彼女の故郷。人間とは強く関わりを持とうとしない幻獣たちであったが、リディアが帰ってきたものだとわかると
幻獣王はその力を貸すとともにセシル達を歓迎の姿勢で迎え入れた。
宴とともに沢山の餞別を貰った。回復薬や魔道具といった実用的なものから幻獣たちのささやかな気持ちの込められた記念的なものなどさまざまな内容であった。
その中に「鼠のしっぽ」とよばれるアイテムがあった。魔力を込められた鼠の尻尾。一説によると勇気の証とも呼ばれている。
それは一見セシル達には無用の長物とすら思えた。
「アガルトにいっただろう。その尻尾ほしがる人がいたんだよ」
その話はリディアにも覚えがった。
「あの小人のおじさん」
ミスリル鉱石の発掘などで栄える小人たちの島。その小さな島の離れ小島にある一際小さな島。
アガルト地方に存在する鉱山の中でも危険とされるアダマン鉱石のとれる島には貴重なアダマンタイト鉱石を発掘して息巻いている小人の男がいた。
その鉱石を独占せんとばかりに周りから人を追い出していた男であったがセシルの持つねずみの尻尾をみるやいなや譲ってくれと懇願してきた。
尻尾を特に必要ないと思ったセシルはこれに応じると男はアダマン鉱石を僅かであったがセシルにくれたのである。
去り際に男の娘とおぼしき小人の女性が教えてくれた。
(お父さんはね、珍しい尻尾を集めているの。また見つけたら持ってきてあげてね。そうね……今はピンクの尻尾っていうのが一番欲しいみたいよ)
「よい娘さんだったし、面白い親子だったな……ピンクの尻尾、もし見つけたら持って行ってあげないとね」
微笑しながら話すセシルはいつもの生真面目さがどこか抜けていた、どうやらセシルにとってアダマン島はとても気に入った場所のようであった。
「だからリディア。この剣には、今や父さんだけじゃない地上の……地底……幻獣たち、そしてあらゆる種族の想いがこめられているんだよ」
鞘をぎゅっと握り、感傷に浸るセシル。
「僕はパラディンとして、この剣に懸けて仲間を守ってみせる」
「セシル……」
暖と灯かりを兼ねた焚き火が二人を照らしている。かつての記憶がよみがえる
「あの時、ダムシアンで初めて野営した時を思い出すね……テラと一緒だった」
自分は疲れ果てて寝ていたなとリディアの照れた一言。
「テラに魔法を教えてもらえたから……白魔法の方はローザに任せるけど、セシルの役に立って見せるからね!」
先ほどのククロ達の話に負けじと、幼き無邪気さを思い出させる無垢な様子で意気込む。
「それに、カインにローザ、あのバカにも負けないようにセシルの役にたってみせるからね!」
「うんよろしく頼むよ……」
「じゃあ……私はもう寝るね」
セシルの言葉に安心したのか眠そうな顔でコテージの方へと帰っていく。
「セシルは寝ないの?」
「カインを待つよ」
二人で積もる話もあるのかな? ふとリディアは思った。
(この戦いが終わったらセシルとローザは……カインはどうなるのかな?)
勝った後の事を考えるのは良くないと思いながらも一瞬浮かんだ
(私もやっぱり幻獣界へ帰るんだよね……あいつとはエッジはどう思うかな……駄目こんな事を考えたら)
頭をめぐる考えを必死に追い出しながらもリディアは眠りについた。
(カイン)
一層静かになった野営地で、セシルは出口へと向かう深淵をいつまでも見ていた。

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最終更新:2021年09月24日 23:46
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