いま、ローザの頭には、かつて自分を取り巻いていた日常がありありと浮かんでいる。
平和だった。安らかだった。ささやかな幸せ、だけどそれだけで十分だった。
そしてある日、粉々に砕かれてしまった。
何もかもが突然だった。いったい自分たちがなにをしたというのか。理不尽にも
彼女の当然は奪い去られ、あとには悲しみだけがのこされた。
けれど、まだ、一番大切な部分は壊されてはいない。誰にも壊せないのだ。
(カインなら、きっと私の力になってくれるはず────!)
ローザは必死だ。なぜなら、カインが自分を裏切れば、彼女がずっと守り続けてきた
ものがすべて嘘になってしまう。既に多くを失ってしまった彼女には、それが耐えられない。
だからローザはカインにすがる。自分に残された最後の真実を証明するために。彼女は
気づいていないが、それはもはやカインへの信頼という形を持っていなかった。
そうでなければ、彼女自身が壊れてしまいそうだけにすぎない。
しかし、すぐにそんな淡い希望を否定する言葉が彼女につき付けられる。
とても意外な方向から。
「下がるんだ・・ローザ!」
最終更新:2007年12月12日 04:18