思わず詰め寄るジェシーに、長老はついに怒鳴りつけた。
「まだ分からぬか! お前をあの場に置き、わしがあの男に試練と告げた意味が!!
あの子らだけではない! これはわしを含め、この国の全ての民に課せられた試練なのじゃ!!
ジェシーよ! お前とて、変わらねばならぬのだ!」
先ほどの憤慨の比では無い。
その猛然たる勢いは、少女の熱情を縮み上がらせるに十分すぎるものであった。
「………」
「わしは間違っていると思うか、ジェシー?」
「………………いいえ、……でも」
長老は、暇を許さず問いかける。
彼女にそれに耐える力は残されていなかった。だが、どれほど長老の言葉を理解したところで、
やはり彼女の心はそれを受け入れることは出来なかった。
「わたしは……あなたのように強くはなれません」
それだけ、精一杯に絞り出した声を残して、彼女は長老に背を向けた。
「……強いのではない。それが、わしの務めなのだ。……………娘よ」
父と呼ばれなくなったのはいつの頃からだろうか。記憶に美しく残る、幼い娘の姿が懐かしい。
だが、当然の結果である。長老はよく自覚していた。娘ひとりの心を解き放つことも出来ない
自分に、父と呼ばれる資格はないということを。
無力な老人は、しかし彼の愛する人々のために、その弱きを隠し続ける。偽りが、やがては
真の強さへと変わってくれることを望んで。それが淡い望みだと知った上で。
長老は双瞼を抑え、ひとり暗闇の中で、失ってしまった人々に思いを馳せた。
最終更新:2007年12月13日 04:55