「セシル!
おい、セシル! 返事をせんか!」
呼びかけと同時に、強く体をゆすぶられる。衝撃で、セシルの手からクリスタルがこぼれ落ちた。
そのとたん光が弱まり、世界に輪郭が戻ってくる。
「……シド」
「どうしとったんじゃお前さん、ボーっとして!」
「どう、って……」
まるで眠りから覚めた直後のように、何かが突然、切り替わったように感じる。
セシルは大きく頭を振り、意識をはっきりさせた。
「僕は何をした?
ダークエルフを倒してから」
「特に、何も」
あらかた傷の癒えたヤンが、簡潔にまとめた。違和感が残るのか、しきりに治りたての手足を動かしている。
「そうか……
なら、いいんだ」
クリスタルをシドが拾い上げ、セシルに突き出す。ややためらった後、セシルは手を伸ばした。
受け取っても、恐れていたようなことは起きない。琥珀色の結晶の中心で、光は小さく瞬いている。
それは闇を突き刺すものでなく、木漏れ日のような、柔らかな輝きだった。
ヒソヒ草の向こうでは、まだ音楽が続いている。
──それも道理かもしれない。彼らはただ、歌うために歌っているのだから。
誰かが止めても、別の誰かがあとを継ぐ。今に伝わるすべての歌が、そうやって、時を渡ってきたように。
セシルはクリスタルルームを見渡し、床に落ちた小さな短剣を見つけた。
黒曜石の刃に、動物の角か骨で作った柄がかぶせてある。セシルたちの持ち物ではない。
拾い上げて裏返すと、浅く刻まれた鹿角のレリーフが現れた。
「……そうか」
面を虚空に向けたテラが、誰にともなくつぶやく。
「これが、お前の選んだ男か」
ちっぽけなヒソヒ草からあふれる歌は、広いクリスタルルームの中で幾重にも反響する。声と言葉と旋律は、終わりのない雨となって、セシルたちの頭上に降り注いだ。
最終更新:2007年12月14日 03:59