少年と少女がじゃれあっている、と。
そう呼べばこの場で起きている出来事も、他愛なく微笑ましいものに聞こえるだろう。
ただし少女は歪な翼を持った吸血鬼。
少年は同じく異形の翼を生やした怪物だった。
「あはははははは!!!!」
「おのれ娘、未だ天子を愚弄するか!!」
光弾が飛び、拳が飛び、周囲の建物が崩壊する。
部外者からは殺し合いにしか見えない光景だが、少女にとっては『遊び』の域を出ていなかった。
吸血鬼の館に四百九十五年ほど引きこもっていた吸血鬼、フランドール・スカーレット。
フランはこの聖杯戦争にマスターとして招かれた。
その彼女のサーヴァントがどこにいるのかと言えば、目の前。
彼女が弾幕攻撃を浴びせている相手こそがサーヴァント――バーサーカーである。
激昂したバーサーカーが拳で反撃するも、フランは舞い上がって軽々と躱した。
何故フランが自身のサーヴァントと戦っているのか。
時をわずかに遡る。
◆
五百年近い間、外に一度も出なかった。
出ようともしなかった。
「少々気が触れている」と言われても特に気にならなかった。
ところが近頃、姉は神社に入り浸っているという。
フランはそれを羨んで外に出たがったのだが、許しは出なかった。
退屈し、暇を持て余して屋敷を徘徊するうちに――屋敷のメイド長である十六夜咲夜から木片を渡された。
「外で拾ったので差し上げます」という程度の、軽いプレゼントだった。
フランはしばしそれを眺めていたが、遊び道具にもなりそうになかったので壊そうとした。
「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」。
簡単に言えば、手を握り締めるだけで対象を破壊できる能力だ。
きゅっとしてドカーン、というやつである。
しかしそれを行使しようとしたことが、引き金となった。
陽の光の下で、姉や従者や図書館の魔法使いと楽しく茶会。
幸せだった。
幸せだったが、物足りなかった。
その幸せで満足するには、フランはまだ幼すぎたのだ。
『遊び』を求め、フランは目を覚ました。
そこは求めていた外の世界。
階を十以上も連ねた縦に長い建物が立ち並び、空には煌々と照る満月がある。
そして目の前に、地面から湧き出るように気配が現れた。
「あなたが私のサーヴァントなの?」
純白の衣と純白の帽子の少年。
立っているだけでにじみ出るような高貴さを持つ、十代半ばほどの子どもだった。
しかし、フランにとって高貴さなど大して意味を持たない。
むしろ拍子抜けしてしまった。
「弱そう……」
館に引きこもっていたフランは、生きた人間を見たこと自体がほとんどない。
それでもこのサーヴァントの外見は、フランを失望させるに充分だった。
力強さには程遠く、強大な魔力も感じられない。
バーサーカーとは名ばかりの、ただのおとなしそうな少年に見えた。
「えい」
だからフランは戯れに、拾い上げた石を投げた。
可愛らしい掛け声とは裏腹に、その石の速度は音速に近い。
それを受けるのが生身の人間であれば、肉も骨も関係なく貫通するだろう。
だが世間知らずのフランに、そんな力加減ができるはずがなかった。
とはいえ、フランは馬鹿ではない。
情緒不安定、加えてあらゆる経験が不足しているというだけで、聖杯戦争の
ルールを正しく理解していた。
神秘性の欠片もない小石ではサーヴァントに傷をつけられない。
それを分かったうえで、相手を試す意味をこめて石を投げたのだ。
しかしフランの期待はさらに裏切られた。
「グレイズもできないの……」
バーサーカーは避けなかった。
否、避けられなかったのだろう、石はバーサーカーの顔面に命中した。
小さく細い体は軽々と吹き飛ばされ、ガラスや壁を破壊しながら建物の中へと突っ込んだ。
そのあっけなさに、フランは肩を落とす。
「これじゃ遊びにも――」
「けけけけけけ」
「え?」
のそりと、バーサーカーは緩慢な動作で建物から出てきた。
無傷なのは想定通り。
だが目が座り、瞳孔が開き、纏う空気が明らかに変質している。
「天子の身に土をつけたな、娘」
「あら、怒ったかしら」
フランの背筋にぞくぞくと痺れが走る。
フランには本気の殺気を向けられた経験すらない。
初めて味わうスリルに、興奮を隠せなかった。
宙に浮き上がり、スペルカードを読み上げる。
「禁忌『クランベリートラップ』」
バーサーカーの周囲に現れた魔法陣から、青と紫の二種の光弾が無数に吐き出された。
初見で避けるのは困難なスペルであり、弾は次々にバーサーカーに命中する。
だが今度は吹き飛ばなかった――先ほどは油断していたということなのか。
バーサーカーは平然とした顔で地面に踏みとどまり、ふわふわと浮かぶフランを睨めつけている。
「予こそは支配者、天子紂王なり。
マスターといえど、予の顔を知らぬというなら教えてやらねばならぬ」
バーサーカー、紂王の背中が波打つ。
そして背の肉を食い破り、大量の出血とともに異形の翼が突き出した。
「下々に飛べて、天子たる予に飛べぬはずはないっ!!」
岩から掘り出したような無骨な形をしたその翼は、紂王の身の丈の何倍にもなる。
二枚の翼を羽ばたかせ、高くそびえる建物群の上へと身を置いて。
異常な光を宿した目で見下ろしてくる紂王に――フランは笑った。
「はっ……あははははははははは!!!!」
この地には多くの参加者がいるようだが、どうやらまだ邪魔は入らないらしい。
ならばしばらくは、楽しく準備運動に勤しむのもいいだろう。
「お姉様なら何て言うかしら……そうね」
フランもまた宙を舞い、紂王よりもさらに月に近い場所へ身を踊らせる。
満月の夜。
吸血鬼にとって心地いい風が吹き抜けた。
「楽しい夜になりそうね」
◆
こうしてフランは自身のサーヴァントとじゃれあっていた。
紂王は本気なのかもしれないが、少なくともフランは遊び半分だ。
戦っているうちに分かったことだが、紂王は最初の小石を受けた時、油断していたわけではないようだ。
本当に避けられず、踏みとどまれず、吹き飛んだ。
しかしその後、弾幕をものともしなかったのは何故か。
それは「強くなっているから」だ。
崩壊した建物の破片を掴んで投げる。
大きさは人の頭ほどもあり、小石などとは比べ物にならない質量を持つ。
それを紂王はやはり顔面で受け止めた。
正確には、歯で。
「美味!!!」
噛み砕かれた。
どころか咀嚼され、飲み下された。
このように、紂王は召喚された瞬間とは別人のように強靭になっている。
フランの飛行を受けて翼を生やしたように、戦うほどに紂王の能力は増える。
攻撃されればされるほど、他人の戦いを見れば見るほど、紂王は強くなるのだ。
「高貴なる予が、これ以上の勝手を許すわけにはゆかぬ!!」
「許さないならどうするのかしら!?」
怒り狂った紂王の拳がフランの脇を掠める。
弾幕ごっこにはないスリルだ。
紂王に単独行動のスキルはない。
そのためフランは本気を出さず、あえて速度を落として付かず離れずで戦っている。
だがその手加減を差し引いても、吸血鬼の速度に追いつかんとしている紂王の成長はやはり異常だった。
その異常こそが、フランにとっては楽しい。
やがてフランに当たることなく標的を失った紂王の拳が、一つの建物の屋上に叩きつけられた。
屋上を突き破り、紂王は下の階層へ。
勢いは止まらず、さらに下の階層へ。
全ての階を破壊され、建物は轟音とともに崩れ去った。
後に残されたのは、瓦礫の上にたたずむ紂王。
その眼前に、フランは静かに着地した。
「ごめんなさい」
素直に謝り、ぺこりと頭を垂れる。
まだまだこの遊びを続けたいところだったが、この遊びには本番がある。
「試すような真似をしたことは謝るわ。
でもあなたも、私と仲良くした方がいいのは分かるでしょ?」
今まで憤怒を露わにしていた紂王だが、フランの殊勝な態度を前にして感情を鎮めていた。
聖杯戦争の趣旨、魔力供給による現界――サーヴァントとマスターの協力は不可欠。
バーサーカーであっても最低限の理性は保っているらしい。
紂王の瞳に落ち着きが戻った。
どうやら一度生えた羽は戻せないようだが、今はよしとすることにした。
「予は、殷に勝利をもたらさねばならぬ。
予が愛する、予を愛する殷の民のために」
「王様らしい願いね。
私は楽しむだけ楽しんで、あたなは願いを叶える。
悪くないお祭りだわ」
フランの口元が弧を描く。
民を想う紂王と同じく、フランは無垢に楽しみを求める。
「よろしくね、紂王様」
【クラス】バーサーカー
【真名】紂王
【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運E 宝具B
(現時点のもの。宝具の効果により変動する)
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
狂化:D
複雑な思考ができない。
また宝具の効果により、時間が経つと悪化していく。
【保有スキル】
カリスマ:A-
大軍団を指揮する天性の才能。
元は賢帝であり、妲己の誘惑後もその高貴さは失われていない。
精神異常:A
精神を病んでいる。
実の息子の顔すら判別できない。
神性:C
殷の初代国王・湯王は『神』と呼ばれ、紂王はその直系である。
湯王の力は『歴史の道標』女禍に与えられたものであって湯王自身は人間だが、伝説上神として扱われている。
【宝具】
失われた殷王家の力(下々に○○できて予に○○できぬはずはない)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:1人
弓に貫かれればその体は硬くなり、馬に追われればそれよりも速く走る。
戦えば戦うほど強くなる肉体そのものが宝具である。
湯王の力を妲己が改造によって再現したもので、際限はない。
パラメータが上昇するだけでなく、飛行など場合によっては相手の能力をラーニングすることも可能。
ただし以下のデメリットを持つ。
常時(戦闘中を除く)苦痛を伴う。
また増大した力と反比例して理性が失われていく。
よってパラメータの上昇とともに狂化のランクも上がる。
自分の意思では人型に戻ることができない。
【人物背景】
殷王朝の第三十代皇帝。
文武両道に長け、かつては賢帝として民から慕われていた王である。
妲己に誘惑されてからは治世を怠り国を傾けた。
長年のテンプテーションによって精神が壊れ、肉体も改造され、怪物に成り下がっていた。
民に愛されなくなっていたこと、民が見えなくなっていたことに気づいたことで自我を取り戻し、最期は周の武王によって首を刎ねられた。
妲己のことはテンプテーションに関係なく愛していたようである。
【サーヴァントとしての願い】
殷に勝利をもたらす。
【基本戦術、方針、運用法】
剣の扱いに長けていたが、狂化後は使用できない。
攻撃されても再生し、さらに強くなる。
殷の敵には容赦がないが、最低限のコミュニケーションは(現時点では)可能。
【マスター】フランドール・スカーレット
【参加方法】咲夜にもらった木片
【マスターとしての願い】遊びたい。
【weapon】
ただしスペルカードは「カード名を宣言して発動する」というルールがあるから使われているだけで、カード自体には何の力もない。
両端がスペードのような形をした棒状の何か。
これがレーヴァテインだという説もあるが、詳細・使用方法は不明。
【能力・技能】
全ての物質には、緊張が最も集まる『目』という部分がある。
その『目』を攻撃すれば物質を破壊できるのだが、フランは『目』を自分の手の中に移動させられる。
よって「手を握り締めるだけで無条件で対象を破壊できる」。
吸血鬼故に鬼の怪力と天狗の素早さを併せ持ち、回復能力もある。
ただし日光に弱い。
【人物背景】
紅魔館の主レミリア・スカーレットの妹。
少々気が触れており、屋敷から出ることはほとんどない。
世間知らずであり、霧雨魔理沙や博麗霊夢と会うまで人間を調理された姿でしか見たことがなかったという。
【方針】楽しめればいい。
最終更新:2014年07月19日 15:13