砂浜近くの木陰で寝転がっていると、黒いセパレート水着姿の変な女に声をかけられた。
「あなたはあと、2時間で死ぬわよ」
「…人だ。すいません、食べ物を分けてもらえませんか?」
「ごめんなさい、私は人じゃない、死神なの」
空腹が過ぎて幻覚が見えるようだ。いや、この女が変なのだろうか。
「その死神さんが何か用?」
「とりあえず、このストップウォッチを押してみて。話はそれからにしましょう」
渡されたストップウォッチを押してみる。まずは空腹が止んだ。そして辺りを見渡すと、
風が消えた。海の波が動かない。死神と名乗った女も動かない。立ち上がろうとすると、
急に空腹が戻ってきて体から力がぬけた。再び木陰で寝転がることになる。
「そのストップウォッチは30秒だけなんだけれど、時間を止めることができるの」
「…うん、それは分かりましたが…30秒で何ができるんでしょう?」
「それは自分で考えなさい。とりあえずここに9個置いておくわ」
手の届くところに9個のストップウォッチを置いた。
死神と名乗った女は、隣に腰を下ろした。体育すわりで海をずっと見ている。
「何を見ているんですか?」
「流されてる」
「…え?」
「いや、私の連れがね」
「…?」
首を少し傾けて、海の方を眺めてみた。
人が沖のほうに流されていた。
「助けなくていいんですか?」
「…まぁ、いいわ。自力で何とか…」沖へ流されてる人は、必死に手をバタバタしてこ
ちらに救難サインを送っている。「…なる…でしょう」無理でしょう。
「それよりも、どうするの?あと9個ストップウォッチがあるけれど?」
溺れている人はスルーされた。
「そうですね…」少し、考える。「困った、何もすることが無いなぁ」
「…でしょうね」
第一、30秒時間を止めたところで、何をすればいいのだろう。
「普通なら、このストップウォッチをどう使うんですか?」死神女さんに聞いてみる。
「そうね…」死神と名乗った女は少し考える。「一番多いのは私を犯すことに、かな」
「なるほど」
確かに、この女の人も綺麗だからなぁ…。
「最後に人と話せて楽しかったわ。ありがとう、死神女さんと、死神男さん」
二時間後、親の借金でヤクザへ売られて売春婦となり、最後に島へ流されたその女は
安らかな顔で死んだ。ストップウォッチはまったく使わなかった。
「お墓を作ってあげましょ」私は言う。
「そうだね、このままじゃ可哀想だ」
木陰に穴を掘り、痩せ細った女の遺体を埋めてあげた。
死神二人で、彼女の冥福を祈った。
「さて、せっかく海に来たんだから、もう少し泳いでいこう」
この男は先ほど溺死しかけたことを忘れているようだ。
「あなたはそこで砂のお城でも作っていなさい」
「ひどいよ、デス…」
と言いつつも、お城を作り始めた。
さて、私も少し泳ごう。少しは気分が晴れるかな。
最終更新:2007年04月30日 03:05