LOG

LOG内検索 / 「みつのぶ1」で検索した結果

検索 :
  • みつのぶ1
    みつのぶ1 主人の部屋は清める必要を感じないくらい清潔なのにどこか暗い。 加えられたばかりの小姓の少年は我らが主にまつわる雑事は仲間うちで特に慎重にことをすませるようにと言い含められていた。 存在していたことも悟られないくらいに慎重に、少年は掃除を進める。 几帳面な一面もある主は文箱やら文献やらは整然と並んでいる。 文机の上にあった開きっぱなしの本が不自然なことに少年は気づかなかった。 つい、何だろうとのぞきこんでしまった。 『○月○日 ×の刻 私がいれた茶が温いと椀を投げられた。火傷少々。顔面に打撲一カ所。苦痛。』 『△月□日 ○の刻 臣下一同に南蛮の酒がふるまわれた。私の杯にだけ軽い毒が入っていた。全身に痺れ、食欲減退。傷にならない。』 … 『今月の公のお振る舞い。擦過傷五、打撲二〇、創傷七。痛みが足らない。公の苦痛を猶欲する…』 「おっと手が」 「!?」 背後を悟...
  • みつのぶ2
    みつのぶ2 まったく風のない静かな夜にどこからともなく虫の声。夏の夜には押し込められていた鬱憤をはらすように元気だ。 「ここのところ、退屈でしてね」 私も得物も喉が乾いてくるのですと光秀は囁いた。猟奇の性さえなければ玲瓏な彼から発せられるどんな言葉も睦言のように聞こえるだろうに。ただただ狂気をひそめた毒があたりにしたたる。 「ついついこうして忍んで参るくらいです、信長公」 「…くだらぬわ」 「あなたのほうは…これからがお楽しみといったところでしょうか」 鎧も具足もない夜着だけの信長は頼りない白い布地だけの守りとは思えぬ存在感を醸す。 天下人とはやはり常なるものとは違うのだ。 「そんなに暇なら草でも刈っておれ」 「おや、その草、悲鳴や血を私に捧げてくれますでしょうか」 光秀は濡れたような唇を自らの舌でなめずり蛇のごとき笑い声をあげた。 「この私に、耐え難いほどの苦痛を与えて...
  • バサラ
    バサラ 奥州-こじゅまさ 収穫 プラスちか1 パーリィin奥州 チェンジ 苦渋 合戦準備 牙を研ぐ 庶民派 大阪-たけとみ 温泉 どっち? 恩賞 帰還 繕いもの 睦言 蜘蛛の宴 小田原-こたうじ ぼらんちあ あいらぶゆう うぉーたー たがために にがみばしり りすきー きがのよる るーずに にしゃたくいつ つかのま まおとこ こよ よびかけ けわしきよでも ものいえるみならば ばんり りち ちかく くったく くもなし しゅうや やくじょう うえをみよ ようようはるのごとし しろくおいたねこ こどくのほし しじまのつき  こたとゆかいな北条家 1 2 3 4番外編 氏政様の守人 1  2 中四国-ちかなりちか 捏造過去 ひとさらい 奥方様 ハンドメイド くもりのち ふこふこ 厳島 with鸚鵡 補給部隊へ 手習いに 家族の肖像 厳島にて 安土-みつのぶ 日記  草葉 甲斐-...
  • ちかなりちか8
    ちかなりちか8 「チカー!チカー!モトチカー!」 元親の肩でわめく鳥を元就は睨みつけた。 「やかましい」 「珍しいだろー人の言葉を覚えるんだぜ」 眩しい黄色の羽根をばたつかせ、なおも鳥は「モトチカー!」と鳴く。 「こいつの躾は信がやってなぁ。言葉もスラスラ覚えさせるんだぜ」 「ふん」 信親の名前を聞いて、元就の目がすぅっと細くなる。信親は実父より長身でさわやかな好青年だが、元就を見る目はアニキ親衛隊が浮かべるものと大差ない。 「この世で海が似合うオトコは?」 「モトチカー!」 「よーしよく出来たなー。な!すげぇだろ元就!」 「ナリ!」 鸚鵡はバサバサ飛んで元就の前に飛んでくると一言言った。 「カバチタレ!」 「!?」 「お、おいおい」 「ナリ!カバチタレ!イナカモン!」 「貴様…今すぐその舌を引っこ抜いてくれる!」 「うわ!元就!やめやがれ!」 なぜ鸚鵡が元就にそんな...
  • 識柚7
    識柚7 あめ いくら髪を逆立てて、いくらものすごい眼力で睨みつけてる一見怖そう(に見えると俺は言うが信じてくれる人は少ない)に見える師匠だが。 「あめちゃん食うか~?」 この瞬間に癒される。ちゃんって……! 大阪よ師匠を生んでくれてありがとう。 あめちゃんて可愛いよね。自分でも言ってしまう今日この頃。
  • 九龍独白
    独白 闇は深く絡みつき、気づけば自分と闇との仕切りが取り払われるような、そんな畏れを覚える。 それは一度は取り込まれてしまった自分を知っているからだろう。そしてそのたった一度の過ちが、これから生きていくなかでいかにそれが愚かだったかと思い知る。 もう過去の自分には戻れない。脆く自分を闇に明け渡してしまったことを、忘れることもできない。 けれど、もう取り込まれることはないだろう。 導いてくれた、君の輝きがそばに在り続ける限り。
  • 葉取3
    葉取3 あめふるよる ※某所の「鎌治の心の闇の部分は人格をもって鎌治の中で存在する」という個人的萌えに乗っ取って、闇取手×表鎌治プラス葉佩という話ですご注意ください。 (いやなんていうか葉取←闇取な感じかもしれない) 息苦しい… 意味もなく首元をまさぐり、しかしそこはもう今朝から始まる息苦しさからとっくに一番上のボタンは外されていたのを思い出す。 微熱に似た気怠さが体中を支配し、静まりかえって安息を得るはずの自室に圧迫感を感じる。 ベッドに横たわったままの鎌治は、ぱたりと首から腕を落とす。 …雨のせいだろう… 薄闇の中、閉め忘れたカーテンから濡れた空が見える。 しとしとと降り大気を濡らす雨を見るにつけ、鎌治のつく息は浅く、しめやかだ。吸っても吐いても、湿気がまといつく感覚。 電気を灯せば気分も変わるかもしれないのに、それすら起こる気になれない。 (…こんな夜には…) このよう...
  • こたうじ21
    こたうじ21 精を出していた書き物に手をとめる。 詰めていた氏政の息がついと漏れた。外は厳しい寒さのはずだが、火鉢のもたらすぬくもりで室内はほどよく暖まっている。 傍に控えている、稚い小姓は主の深夜までの勤めとぬくもりにうつらうつらと船を漕いでいた。それを怒るのも起こす気もなくなってしまった。 氏政のそばで気を遣うはずの小姓が居眠りをしているというのに、火鉢の炭はたっぷりと置かれ、氏政が筆を置くのを見計らったように火鉢の陰で小さな盆が添えられていた。 「ふむ」 強張った肩を自分で揉みつつ盆を引き寄せてみた。入れたての茶はほのかに湯気をあげ、どこから手に入れたのか小さく切った干し柿がちょんと盛られている。 あやつ、気の回し方が小姓より巧くなった。 おそらく今も天井裏か、氏政の気づかないような近くで姿を潜めているだろう。 氏政は人知れず皺の奥で笑ってから、茶と干し柿をつまんだ。あわい甘...
  • こたうじ4
    こたうじ4  春日山は忍が多くて困る。相手が同業者だけに痛いところをついてくることもしばしば。それでも歴戦の忍は乗り越えてただひたすら駆ける。春日山のあちらこちらにある戦火…いやこの場合は戦氷をみつけてはしまう。 ただこの酷暑に疲労する主のために。 「ごろうたいにこのあつさはこくでしょう」 懐の氷塊を気にしていて気配を読み違えた。軍神と美神がそろっている。 小太郎は珍しく奥歯を噛みしめた。 顔面に感情が出ぬ訓練をしても軍神を前にすればその覇気に僅かながら畏れを抱く。 「わざわざぬすびとのようなまねはせずともいってくださればよういしたものを」 「謙信様…あの風魔が氷だけのためにこの城に入るのは思えません」 同じ氷を扱えど、小太郎の主は自らの涼のために先祖伝来の妙技は使わぬ。 だが一国一城の主が水盥に足だけをつける姿をみていてもたってもいられなくなった。 忍にあらざる私情が小太郎を...
  • 識柚24
    識柚24 ※私は識が好きですよ?下品につき注意 どうも。最近、「おまえの妄想キモイ喋るな」と師匠になまぬるい顔で虐げられている識です。ああそんな顔しないで師匠、可愛い顔が台無しだから! さて節分です。俺の頭の中ではしましまぱんつでなまめかしい姿の赤鬼が金棒持ってグラビア真っ青の挑発ポーズでいらっしゃいます。どうせ握るなら鬼の金棒を握ってほしいですね。伸縮可能です。どちらかというと膨張が得意ですよ。 やはり角は性感帯ですよね。こう、頭から生えたちっちゃなそれを指で撫でたり嘗めたりしたらビクビクしながらギリギリ睨みつけてきたりして…あの目は本当くせ者で、みる者を虜にしてやまない。虜一号としては師匠が心配で心配でたまりません。いや全身いやらしいオーラに満ちあふれてる師匠なんですがね、特に腰から下は18禁だと信じてますよ。ええまったく俺の金棒をギュッとね、引き絞って吸いついてくるような… ...
  • たけとみ7
    たけとみ7 酒宴の場には蜘蛛の巣が張られている。繊細な綱渡りを一匹一匹の蜘蛛たちがなし、ひとたび足運びを間違えれば一瞬にして食われる側に転落だ。宴は楽しむものではない。単なる駆け引きだ。 「浮かない顔だな」 「元々、こういう顔だよ」 一献注ぐ前に秀吉は特大の杯を空にする。巌の酒量は計り知れない。 「宴に人はいらぬもの」 ひとつの杯 ひとつの月 「それだけで足りる」 秀吉の眼差しには、おまえはそれでは不足なのだろうと語っている。
  • ニクシロ3
    ニクシロ3 鍋 「鍋しよう、鍋」 無邪気に誘う士朗の言葉にうっかり乗って、エレキと同居だというアパートにやってきたのはいいが。 玄関で猫同伴で笑顔で迎えてくれるポニーテールは俺も大歓迎だが。仏頂面で迎えるマゲはいらない。 「誘ったのはあいつだぜ? いい加減兄離れしろよ」 「うるっせぇんだよ!」 ムキになって俺に噛みつくエレキの頭をぽんぽん叩いて俺は玄関をあがった。嫉妬と羨望の視線は気持ちがいいもんだ。 鍋はサイレンが少ない食料をやりくりしてウマいことやってのけるので、俺にはけっこう馴染みが深い。どっぷり濃い味で育った俺には薄味なのは否めないが風味の良さというのが最近わかるようになってきた。あくまで気のせいの範囲だが。 「肉入れるぞー」 「こら、豆腐が崩れる」 「タレどこだタレ」 思えば珍しい構図だ。この兄弟の人の出入りはあって、招かれたのが俺だけっていうのは初めてじゃない...
  • 悪魔6
    オリジナル 悪魔6 【君は人魚】 人魚姫は愚かであるとセイレーンは嗤う。 「喰っちまえば良かったんだよ」 性欲と食欲が極端に近い人魚種は愛情は欲情であり食欲だ。食欲に支配されているというとヤジフーもそうであるが、暴食のヤジフーと人魚種は違う。 「綺麗な鰭も綺麗な声も失うことはなかったんだよ。愛しい相手は喰う。これに限るね、我が身の血となり肉となり至上の交わりとなす、だ」 愛情が湧かない相手にはセイレーンは誘惑の美声どころかこうした擦れた娼婦のような口ぶりだが、ひとたびそれが意中の相手となれば麗しいオペレッタとなる。 「それで?アンタが来たのは何の御用だい」 「単に使いだ。我が主から海王殿へ」 セイレーンは海面より岩場に立つ血涙の悪魔を見あげる。両目を閉じ、頬を血で濡らす他にはこれといって平凡な悪魔である。蝙蝠の翼、黒衣。 「密書かい? アンタの主は炎魔様と仲がよろしいって...
  • QMA4
    QMA妄想4 レオン&タイガ【モノクロの温もり】 「くそ…っ!」 がつっと壁に拳を叩きこむ。 学院の石造りの壁は古くとも特殊な魔法がかけられているので爆破魔法をかけられてもびくともしないのだと聞いたことがある。 年に一度学内全員が掃除にかかっても剥がれ落ちることのない時の匂いが染みついているように、壁は堅牢だ。 人気のない鐘楼への階段の踊り場。そこは、レオンの隠れ家のような場所だ。滅多にないが落ち込むことがあったりすると、自分を見つめなおすためにここへやってきて時を過ごす。 今日はいつもと少し違う。 「くそ……」 拳が真っ赤になるまで痛めつけてからずるずる壁に座り込む。 今日は本当に散々で、最悪だった。 事の起こりは一学年上の先輩魔法使いとの授業だった。その日レオンはいつになく調子が悪く、振り分けられた課題の半分もこなすことができなかった。だがそれはレオンだけには留まらず、組の半...
  • ギガ1
    ギガデリック1 【墓堀り人の憂鬱】  この世界の負が増えるたび、澱みは此処へ流れ込む。  腐った感情の匂いも饐えきった怨嗟も飽き飽きた。 「此処はどれほど深くなるンだろな」  少年はひとりごちる。  世界の底は彼の玉座であり墳墓。  もう充分だっつの、と呟いたところで闇は払拭されるわけもなく、今日もかの牙城は深く深くなってゆく。
  • 識柚19
    識柚19  ※わんにゃんより派生。ふつうの人間飼い主の識と耳尻尾つきのゆずにゃん妄想 「…どうしようかな」 腹の上でぬくぬくすやすや安眠をかます子猫を見おろした。生後一年も経っていない子猫は軽くて、まさにぬいぐるみを乗せているような気持ちになる。 「んぅー…」 ぽてりと頭がずりおちても眠気に勝てないのか絶妙のバランスを保ちながらまだ目をあけない。 「もしかして俺のこと、エサくれて構ってくれるクッションくらいにしか思ってないんじゃないのか…」 ソファに自然にもたれていた体を持ち直すと「いやいや」とばかりに服にちっちゃな爪をたてて体勢を保とうとする。 「やれやれ」 体を腕で支え直し、さわさわと撫でてやると猫はふんにゃりと口元をゆるませた。 いつのまにか同じように俺もやにさがっていた。
  • ちかなりちか1
    ちかなりちか1 捏造上等の過去話 その昔、超絶かわいい子をみかけた。 厳島神社の平行する廊下と廊下で父親とその家臣について歩いてる子だった。 一応神域であるので、お互いの敵国武将たちはあからさまに目をそらしている中、そのこの目はまっすぐで輝いていた。 どうにも初めての場所にきょときょと目を泳がせていてその様も可愛い。白い髪と肌がやけに目に残る。 「あれらは長曾我部の…」 「いずれ若殿とあいまみえることになりましょうな…」 「まあ何ともひ弱そうな若子だが…」 後ろについてくる家臣を切り捨てたくなった。 姫若子と呼ばれていた初恋の人とでも言うべき相手が長じていつのまにか鬼若子と呼ばれることになろうとは露知らぬ毛利の若様だった。 捏造チカナリチカ。 どこかでそんな出会いがあればいい
  • デニク2
    デニク2 一万ヒットリクエストありがとうSS リクエスト匿名さま:デニク ※匿名さまのみ、ご自由にお持ち帰りください。 『タトゥー』 「ニ、クス……その腰の、なに?」 「ああ?」 がんがんに冷えるクーラーをかけながら、デュエルの部屋に居座るニクスの腰に変なものを見つけた。ジーンズと下着に隠れつつ、腰骨の近くに黒々と刻まれたトライバル風のタトゥー。それはほんの小さなものだったが、ローライズなものを穿くと見えてしまいそうだ。 「何だ、今まで気づかなかったのか」 「いやっ別にそんなんじゃなくて」 いっぱいいっぱいで見えてませんでしたとは言えない。 このヘタレめ、と視線で言いつつ、ニクスは懐かしそうに「これはな、」と話し始めた。 「パーティーで薬でキメててハイになってた時にやった奴がいれてくれた」 「…………はいぃぃぃ?」 『やんちゃ』をしていたのはデュエルも一緒だがニクスのほう...
  • ダークエッジ6
    ダークエッジ妄想6 吉白4 燃やせと呼ぶ声が 燃やせ。燃やせ。燃やせ。燃やせ。 いつの間にか昼になっていた。確か校門に滑り込んだのはきちんと朝だった筈なのに。 いつものように授業が進み、なにげなく昼が来ていた。 「吉国、あんた寝過ぎ」 「寝不足なの?吉国君」 「どーもしねー……」 最近つるむようになった赤坂と清水がそろって、そお?という顔をしながら弁当片手に教室を出て行く。 「吉国」 ふっと目の前を過ぎる黒。 「っ!」 思わず後退った。 「え、どうしたんだ?」 ほんのり刻まれた笑み。 ブレザーの中にあって、学ランは異様。それなのに、教室の中に溶け込んでいる。 高城九郎。 「西脇が飯食わないかって」 「……俺いいわ。煙草吸ってくる」 食欲ねえし、と言い訳を口の中でしながら教室を出た。 いつもの教室。いつもの昼。いつもの壁。いつもの異状。 燃やせ。燃やせ。燃...
  • こたうじ10
    こたうじ10 帰る処はない。ないと思ってきた。 「おお小太郎、ご苦労じゃった」 最近めっきり冷え込んで、火鉢の炭を掻く氏政の姿は小田原城では見慣れた風景だった。 北条の紋がはいった火鉢にあたたまる氏政は孫の話をせがむが如く忍の報告を聞いた。聞くといっても主に配下が用意した文書と補足をつける者がいるので小太郎自身がなにか喋るわけではなかった。 「雪深くなれば北はしばらく静かじゃわい」 ひとまず安堵をもらす氏政は労いつつ小太郎以外を下がらせた。 「それで小太郎、此度は何を持ち帰ったのじゃ」 小太郎はこっくり頷いて隠しからばらばらと様々なものを落とした。いつのまにか小田原を出ぬ主にかわって小太郎が差し出すようになった「土産」である。 拒もうとすると、冷酷無比なはずのこの風魔小太郎ががっくり肩を落としてしまうので、以来素直に受け取るようにしている。 「先日のかき揚げもうまかったが...
  • こたうじ20
    こたうじ20(語り手かすが) 南に下り続けて数日、空気が変わった。同じ海に面した国であっても越後と相模では寒さの質が違った。 ふたつの国の境でかすがは足を止め、相手が訪れるのを待つ。 「来たか」 「……」 さほど時もかからず、かすがの前に影が落ちる。相模は小田原、北条氏政につかえる風魔小太郎は目深に被った兜の奥からかすがに用件を伝えた。 「謙信様より文だ。以後も越相互いに恙無くあらん…と北条の主に」 「……」 かすがの持ってきた文箱を受け取り、小太郎は頷く。長年にらみあう甲斐と越後にとって隣国相模は味方にして越したことはない。北条は、どちらにも縁が深い。今は上杉方の北条だが釘を指すことに無駄はない。 「風魔…氏政殿は健在か」 任務以外には口をきかないくの一の呼びかけに小太郎は応えた。音はないけれど。 小さく、唇の端で笑った風魔忍びの長はそのまま風と闇に掻き消えた。 「…お...
  • こたうじ17
    こたうじ17 小田原城は華やかな桜に彩られており、今生にて一度は目にしておくべしなどという言葉が出回るほど美しい。 特に小田原北条一族でも趣味人と名高い氏政は各地からその道の大家を招いては教えを請うている。 「佳いものをみる目は佳いものを見なければ養われぬからの」 遠く異国から渡ってきたという茶器や名画に囲まれる氏政は悠々自適な楽隠居を楽しむ老人にしか見えない。 「小太郎も佳いものをできるだけみるのじゃ」 「…?」 果たして美を見極める目が忍びに必要なものか否か。それは間違いなく後者なのだが。 「我らが北条一門の栄光の礎には、ご先祖様は勿論のこと、名もなき者らの力によって支えられておること、心せよと亡き父上はよく仰っておった」 そして己が目を曇らせることあたわず、とも。 「儂の目が曇り迷うことは即ち栄えある北条家の道を危うくさせることも同じじゃ」 袱紗に茶器を納めた氏政...
  • 学園バサラ4
    学園バサラ 鬼と竜 そろそろ次のしけこみ場所を探さなくてはならない。 人気がないとはいえ、屋上のコンクリートに直に座るのは寒くなってきた。 「よう」 「おう」 錆びた扉を半ば蹴り開けるようにやってきた元親を政宗は見やる。お互い、目立つので顔見知りだ。 なんとなく広い屋上で隣あってフェンスを背にする。 暮れ始めてオレンジ色の太陽がものさみしい光に照らされる。 「あのよ」 「なんだ」 「今日、てめぇんちに泊まらせてくれ」 「それ、人に物を頼む態度かあ?」 にやっと笑った元親が煙草をくわえ、政宗の隻眼が一本寄越せと訴える。 「泊めてやりたいのはやまやまなんだがな、…俺もちっとばかり、家にいたくなくてな」 実家の親父がやってくるんだわと煙草もついでに渡して言う。 「…奇遇だな。俺もそうだ」 元親の父親は、近所でも有名な「綺麗なお母さん」だ。趣味と実益をかねた女装がすっかり板につ...
  • ゼファ仮2
    ゼファー仮名2  ※わたつみが勝手に考えたゼファ妄想です。名前も公式が出るまでの仮名だと思ってください。  補足・ピンク髪さんは男です。ピンク髪×青い人でよろしく。ゼファー本編より前の話っぽく。  今回は、緑子ちゃんと青い人。ピンク髪さんが来る前。 『雨』が降る。 この世界にあって、この世界でない次元である『時計台』のある空間には便宜上、『雨』と呼ばれる現象が起きる。 真白い屑星の光が上から下へ、落ち続ける情景をセラがいつのまにか『雨』と呼んでいたのだ。実際、雲から落ちる水分というわけでもないが、雹のような白いものが降るゆえ台座の近くに住まうには粗造りの家が存在する。 「雨、やまないね」 「今日は一日じゅう、雨のようだな」 「…つまんない」 黒い針のような剣を磨きながら、ナフトは答える。青い衣に、老いを感じさせない白髪…生まれながらの色彩であるのだろう。 整った顔立ちをグラスで...
  • 葉取2
    葉取2 夜の底 夜に潜む闇は深いけれども、すべてが人の心に牙を剥き襲うわけではない。 なぜなら眠りの腕に誘うのは紛れもない優しい闇なのだから。 「え、飲み会…?」 今夜も探索なのだろうと思いながら寮の玄関口にやってきた鎌治に、葉佩はどんと紙袋を押しつけて「今夜は飲み会すっぞー」と言った。 「は、はっちゃんお酒なんてどこから…!」 もちろん校則で禁じられている。教員とてバーで飲む以外のアルコール類は生徒の目につかないようにと言い渡しされているほどなのだ。 けれども鎌治の腕の中では一升瓶やら缶チューハイという文字の躍ったアルミ缶がぎっしり詰まっている。 「一升瓶はまりりんがくれたんだぜ! なんか調合とかで使えって言われたんだけどコレ、いい酒だからさ!せっかくだから今日は探索休んで鎌治と飲もうと思って!」 同じように真理野から振る舞われた一升瓶で男子寮のいくつかは酒盛り状態であ...
  • ダークエッジ2
    ダークエッジ妄想2 吉白1   佐藤の声が遠い。 聞く気がないためかそれは低いBGMとなって吉国の耳を流れる。 大きくとった教室の窓からはその分だけおとなしく切り込まれた蒼がある。 いい天気だった。 次はフケるか、と決意する。 「いい天気だぜ、遠山白右」 墓場に突出した扉を背に預けながら呟いてみる。 「また来たか」 「来ちゃ悪いか」 沈黙。 否定も肯定もなし。 感情の欠落した遠山には取り繕うための口も突き放すための口も持たないからか。 「…授業があるんじゃないのか」 「次は土屋なんだ。あいつの言ってること半分もわかんねえなら、ここで空でも眺めてても同じだろ?」 相手はどっちも死人だし、と揶揄しても沈黙。 「ま、おまえにゃ興味ない話だろ」 「いや…」 今日初めての話のつなぎ。扉の向こうから遠山の声が聞こえる。 「本をよく読んでいた、知識を吸収するのは好きだったようだ。感...
  • ダークエッジ4
    ダークエッジ妄想4 吉白2 【炎の殺人】  ここ最近、昼間は閉ざされている墓室の扉の前には訪問者が居座っている。 「おい、遠山白右」  微かに漂う匂いから、彼は煙草を吸っているのだろう。 「一本やろっか」 「いいや」 「吸ったことねぇの?」  忌々しいレメクの構築した制限から、この扉は昼間は開くことができない。何かの拍子で入り込めたとしても、使い魔が勝手に処理をしてくれる。  そんな扉の向こうから、彼…吉国紘一がどうやって煙草を放り込むというのか少しばかり興味はあったがすぐにそれは、風に吹き消される蝋燭の炎のように消えてしまう。不死族になるということは、同時に人間をやめることであり、己を一度殺すことだ。復活した自分自身には、以前ほどの感情の起伏も、またそれへの関心も薄れていた。 「どうだろうか…天野は与えなかった気がする」 「…確かにあのジイさん謎な感じだけど、そういうイケナ...
  • こじゅまさ3
    こじゅまさ3 生誕記念 パーリィin奥州 いつでもテンション高めの伊達軍だが今日は天井知らずの様相だ。 「筆頭ー!誕生日おめでとうございますー!」 「おう!」 「筆頭!俺ら死ぬまでついていきますぜ!」 「そいつは頼むぜ」 誰が何を言っても政宗は飽きずに応えた。不器用な連中の心尽くしの言葉は何よりの贈り物だ。 「政宗様、北から米が届きました」 「いつきからか?あいつらも大変だろうに…」 「あと長曾我部軍より船五隻分の魚が」 「はは、…返礼の文頼むわ小十郎」 伊達政宗、性格は好戦的だが人間が悪いわけではない。少なからず交流のある武将からも種々祝い物が届く。 「あと甲斐より…」 「あん?」 甲斐といえば虎、虎といえば暑苦しい、暑苦しいといえば真田幸村。奴からも何か届いたらしい。 「『燃えよ闘魂、お館様ファンクラブ謹製風林火山グッズ』が」 「……どーしろってんだよ、これ武田軍の旗...
  • さゆき3
    さゆき3 「佐助、狡いぞッ」 やけにご立腹だなあとのんびり構えていたら幸村にいきなり絡まれた。絡まれた、というか…一方的に詰られている、というか。 こりゃお館様関係かな、また目の前しか見えてないよとすごまれているのに佐助は心配になった。 「なぁにが」 「某の知らぬところでお館様の鍛錬のお相手をつとめたと聞いた!」 「あー…、そういえば」 なんかぼーっと木にぶらさがってたら突然あのでっかい斧を振るわれて、『弛んでおるぞ佐助ェエ!!』といきなり鍛錬とはとうていいえない殺し合いにもつれ込んだのは、つい先日。 「旦那、あれは鍛錬じゃないよ…お館様の暇つぶし」 「ぬぅ!それでもこの幸村、お相手仕りたかった!」 旦那にとっちゃお館様相手なら何でも喜んでやりそうだな。紙一重で庭石砕いた一撃を思い出す佐助はかすかにため息をついた。 「俺様繊細だからお館様みたいな豪快な相手の修練には向いてな...
  • こたうじふぁみりー1
    こたとゆかいな北条家1 北条氏康の子は長子氏政を筆頭に十人いる。この時代、子沢山は珍しくないが、このうちの八人までが同母の兄弟なのはなかなか珍しい。そんなわけで小田原城内を歩いていれば、氏政の弟や甥と一日に一回は出くわす。 初めの頃こそ「風魔の忍びとはいかに」と遠巻きにされていたが最近は会う度に気安い声を小太郎にかけてくれる。 「見れば儂の倅と変わらぬわ」と氏政のすぐ下の弟(年長組)は言い、末の弟ら(年少組)は「忍び忍び」と当初から親しい。年少組にとっては小太郎は弟扱いだ。ただし年少といっても皆程々に良い年だ。 「忍び、団子は食うか」 「忍び、干菓子をやろう」 小太郎はその度に遠慮するがいつのまにか彼らが去る頃には手に持たされている。まるで北条の人間だけがもつ忍術かと見まがうほどだ。 「よいよい、貰われてやるのじゃ」 とうの氏政も小太郎を茶室に呼んでやったり宴に控えさせたりする...
  • 識柚18
    識柚18 姉神4 師匠に姉、師匠に姉…というか家族がいたのか。弟子失格みたいなことを識は考えたが、ユーズが進んで家族のことを話すシーンが、そういえばなかった。 「相変わらずきっちゃない部屋やねえ」 「男の一人暮らしなんやから当たり前や」 「残念やわあ、お姉ちゃんゆんちゃんの彼女がいて鉢合わせしてもたらどないしょって思ってたんやで」 玄関先の騒動から数分後、ユーズの姉はすっかりその場になじんでいた。肉親の強さとでも言うべきなんだろうか。 「鉢合わせしたんが識君でよかったわあ」 「はあ…」 「識、コーヒーいれてや」 「まっ!ゆんちゃん人様を顎で使たらあかんでしょっ」 「ええねんコイツはわいの下僕なんやから!」 キッチンに立った識は曖昧な苦笑で三人分のコーヒーをいれる準備を始めた。 いや今更下僕扱いされても構いませんがね、愛が、愛が見えないよ師匠… 「あ、姉ちゃんのは専用があるから...
  • 葉取6
    葉取6 ヒロシマリアン3 ※前回はアロマにつきまとってキャンキャン言ってた(ようにみえる)葉佩ですが、葉取バージョンではいかがなものか!?  ここでは鎌治→「心の支え」→葉佩。葉佩→「ぶち支えちゃる!(愛)」→鎌治でお願いします。  珍しく取手鎌治の部屋のドアがノックされた。 「…はい?」  特に誰何もせず、鎌治は扉をあけた。時計はもう午前をまわっている。こんな時間にやってくるといえば… 「…はっちゃん? 今日の探索はもう終わったんじゃ…」 「鎌治…」  ついさっきまで一緒に地下に潜ったはずの葉佩はどんよりとした顔で鎌治を見据えた。ついさっき部屋の前で「じゃ、また明日!」と手を振って別れたはずだが…いつものアサルトベルトと暗視ゴーグルを頭に乗せたままの葉佩は突然ガバッと鎌治に抱きついた。 「今日一晩泊めてェやー!」 「なっ、は、はっちゃ…!?」  ここ天香學園の学生寮...
  • 火龍と藤
    オリジナル 火龍と藤 【僕の火種】 「どうしても許してくれないのか?」 「断る。新参者、私はおまえが来るよりも前からここに植わっているのだ」 「そうは言ってもナァ」 頑固に言い放つ少年に鋭い視線を投げかけられながら男は所在なげに頭を掻いた。燃えるような赤い髪と朱色の派手な柄の着物が、深閑な森にはひどく不釣り合いだった。 「龍の連中は無礼だ。この地に住まう我らに立ち退けだと? この地から生まれ育ち、枯れるのが身上。どうしても私を動かすというのなら殺せばいいさ。根の一本も残さず燃やせばいい」 対する少年は、男の肩ほどまでしか背丈がないというのに溢れんばかりの矜持と存在感を纏わせている。萌葱色の着物に白い肌はよく映え、紫がかった黒髪が高貴な雰囲気をもたらしている。 湖畔を縄張りとし、枯れた巨木に緑の蔓を這わす藤の精、紫芳(しほう)は怒りの眼でその薄紫の双眸を炎のように光らせた。 「落...
  • 4/12
    葉皆 4/12 別に祝われたいと思うわけでもないのに、自分の生まれた日は勝手にやってくる。 幼稚園や小学生のガキじゃあるまいし、盛大なお誕生会なんてまっぴら御免だ。やりたい奴だけやっておけばいい。 そう思って今日は一日自主休校。落ち着いていれば、今日なんて言う日はさして特別でもなく来たときと同じように勝手に過ぎ、終わっていく。 俺にはそれがちょうどいい。 「…そういえば今日はあいつからメールこねぇな…」 いつもは一日に一回はメールが来て、『今夜は一緒に遺跡に行くぞ!』などと、誘いというよりは強引な呼び出しがかかるもんだが…今日に限って俺の携帯は机の上で沈黙している。 まぁ、他の誰かと一緒なんだろう。地下に潜れば電波なんて問答無用に届かないわけだし、あいつが俺に何かメールを送ったとしても届くわけもない… 「…だりぃ」 つらつらそこまで考えて俺はやめた。焚きしめた匂いに包まれるとぼ...
  • 悪魔8
    オリジナル 悪魔8 【心、失せてしまった】 その昔、異界の秘術を用いてこの世のすべての真理を知った賢者がいた。 知りたいという欲から芽生えた願望は実を結び、彼は世界の成り立ちから悪魔の王の真実の名前、星の彼方に描かれているという運命の行く末すら全てを知った。 だがその瞬間から、彼は知りたいと思うものがなくなってしまった。 もはや彼にわからぬことはなく、それと同時に彼が人間である必要もなくなったのである。すべての答えを知った彼は人間という有限の肉体を永遠に保たせる方法まで知ってしまった。 そして彼は「答え」になったのだ。 「ナガガミ」 そこはどこにあるとも知れない荒野。生き物の気配のしない寂しい視界が広がる。唯一の色彩を持つのは、痩せた大地に巨大な根をはる紅い巨木だった。 本来の植物が持つ瑞々しさとは程遠く、枯れ果てた老人の肌のような地面に貼りつき、空にまで歪んだ悪意を押しつけてい...
  • ゼファ仮3
    ゼファー仮名3  ※わたつみが勝手に考えたゼファ妄想です。名前も公式が出るまでの仮名だと思ってください。  補足・ピンク髪さんは男です。ピンク髪×青い人でよろしく。ゼファー本編より前の話っぽく。  針と守り人。金髪赤男くんと金髪少女さんについて。 不可侵の針と針。そして時計台。台座にある針は一つだけであり、短針が欠けている。それはいつの時代からか伝えられてきた戒律により、短針を持って「生まれた」者は永遠に彷徨う宿めを負うことになる。 守り人は世界の命数を縮めると言われる「時計台」と、その針を近づけまいとする者たちの総称である。悪しき意思に惑わされぬよう、またその針を監視しながらも守り抜くよう訓練された者たち。とある適正のもとに集められ、幼い頃から教育し気の遠くなるような修業と星を掴むような確率で、針を持つ者の守護者となりうる。 短針は常に移動し、長針から遠ざかるべき存在だ。だが長針の...
  • 宝探し屋に50の質問
    宝探し屋に50の質問 ※1・2周目では若干データの違いがありますので注釈ついてます。(1)=1周目 (2)=2周目 1:貴方のお名前を教えてください   葉佩九龍。 2:失礼な事を聞くようですが、それは本名ですか?   …どこから情報が漏洩したんだ!? 宇宙刑事か!? 3:生年月日、本籍を教えてください   7月14日。広島のヒロシマリアン(1)、大阪(2) 4:身長と体重を教えてください   175cm・55kg(1)←すいません大分夢見ていました。177cm・66kg(2) 5:視力はいくらですか?   1.5(1)、1.0(2) 6:得意学科を教えてください。   国語(1)、地学(2) 7:ついでに、不得意学科もどうぞ。   …数学。鎌治に助けられて追試を免れました。 8:所属部はなんですか?   剣道部(1)、帰宅部(2) 9:貴方がトレジャーハンターになった...
  • ホリチュン2
    ホリチュン2 【ミザントロープの夕暮れ】 俺は健やかに寝息をたてるアーミーとグラビティに毛布をかけ直してやりながら考える。アーミーはどちらかといえば浅い眠りを繰り返すタイプで俺が身動ぎするだけでも反応する、ブレインタイプとしては過敏な反応を返すが、連日難解なプログラミングに取り組むせいかここのところは熟睡している。 こちらが気持ちがいいほど爆睡してくれるのはグラビティ。寝起きの重力制御の暴走が堪らないが、寝付きの良さはピカイチなうえ、疲労を数時間の深い眠りで解消してしまうのは実戦投下型の性質なのかもしれない。 かく言う俺は、充電が必要とされるまでは眠らなくてもいい。こいつらが安眠できるように寝ずの番ができるし、きちんと電力消費のスケジュールをたてておけば昼間俺が眠っている間に二人が活動したり、その逆ができたりとなかなか都合がいい。 よくも悪くも俺達は均一とまではいかないが、バランスのと...
  • 悪魔10
    オリジナル 悪魔10 【気狂いの引き算をしようか】 ごう、と海風が血涙の悪魔をなぶる。髪が外套が容赦のなく弄ばれるのも気にせず、彼は波が削っていった海岸線のそばを飛んでいた。冬を迎えた海は暗く沈んだ紺色で白く砕ける波と相まってうら寂しい情景を見せている。そこに一際、海に突き出た岬があった。剣の切っ先めいた鋭い先端には断崖にもかかわらずぽつりと人家があった。大きなものだが、木造で丈夫そうには見えない家だ。 「あそこか」 悪魔はそこに降りたった。びょうびょうと吹く風はやまず、彼の目の前に建つ家もそれにあおられ小刻みに震えているような気がした。 真実、そうかもしれない。ただしそれは風に家が震えているのではなく、内側のものによって。 「エスタローザ」 血涙の悪魔は盲目ではない。瞼と皮膚が縫い止められたように開かず、その奥に隠された瞳が何色であるか、またそれが眼球としての役割を果たしてい...
  • @wiki全体から「みつのぶ1」で調べる

更新順にページ一覧表示 | 作成順にページ一覧表示 | ページ名順にページ一覧表示 | wiki内検索