Z:第一章

「Z:第一章」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

Z:第一章 - (2007/01/05 (金) 03:58:18) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**[[BACK>その他の小説]] ----   『いずれ、太陽の出ている時間が完全に無くなるのではないか?』 そんな報道がニュースキャスターの口から飛び出して、 居間でテレビを見ていた両親はシュンとなったみたい。 「これから……この国はどうなるのよ」 「夜になるまで、精々がんばって働くしか無いだろうな……」 「何を言ってるの!あなたはもっと自分の心配をして。それに……あたしは嫌ですからね。会社でゾンビに混じって働くなんて」 「別に、身体の弱いおまえにまで働けとは言わないよ」 ただ夜が長くなるだけなら、まだ救いはあったのに。 政治家や、あるいは科学者の皆様方がなんなりと対処しましたでしょうよ。 ところが、夜間に『ゾンビ』がはびこるようになったからさあ大変。 昼から夜への移り変わりは、現実がファンタジーへ傾く現象となりました。 これじゃどこも慌てるばかりで、まだまだ政府もろくに援助してくれない。 対策が追いつかないのも納得です。   それでもまだ、夜は増していく。 病的な勢いで黒い時間が増えていくから、世界も人も、病んだだけ。 そう。ゾンビというのは差別用語で、所詮は思いっきり病んでしまった人のこと。 眼球が飛び出し、肉がただれ、皮膚が緑色になって理性が幾らか飛ぼうと人は人でしょう。 そう。彼らが人であるから問題なのよ。 もはや傾く、なんて言葉では生温かった。 少しづつ日常が取って代わられる感触、それがわたしには心地良いのだけど、ね。   「いいか。『腐臭病』は完治しない病気じゃないんだ」 「そう言うあなた自身、政府を信じているようには見えないけど……」 「信じるしかないじゃないか!」 「……ごめんなさい。そうね、きっと治るわよね。個人差があるもの」 眼鏡をかけてちょっぴり禿げ気味なのがうちの父で、ゾンビ候補のほう。 痩せて、鬱気味なのがうちの母。 二人は居間の質素なソファに座っている。どっちもまだ若いのに、このところ情緒不安定。 つまり、いたって正常なの。 ゾンビが日常的に現れる社会でまともだったらまともとは言えないでしょう。 わたしは少し離れた食卓の椅子に座り、左手にもったフォークで突き刺した海老フライをくわえ、両親のやり取りをじっ、と見ていた。   母がついに『ゾンビ』という単語を口にしたのが何より新鮮。 『あんな状態』の男性は、そう呼んでしまったほうがしっくりくるのだ。ついに認めたか。 さらに愉快なのは、夫もそうなるかもしれないのに、ってこと。 わたしはニヤリと独りで笑う。本当は声をあげて笑いたかったけれど、 哀れみのある目で見られるのはこの上も無く癪。それなら笑う労力ってものが惜しい。 わたしはぺっと、たいらげた海老の尻尾を皿へ吐き出した。そのまま窓のほうへ視線をもっていくと、 外がもう薄暗くなってる。居間の天井近くにある時計はまだ午後三時だっていうのに。 あ、そうか。もう三時なの。 ややあって、美人のニュースキャスターは緊張気味に喋り出した。 「間もなく、夜時間となります。『腐臭病』の恐れのある成人男性の方は、  最寄りの『聖診病院』へと足を運んで下さい。繰り返します、腐臭病の恐れのある……」 母は苛立気味にリモコンでテレビの電源を消し、それを合図に父が立ち上がる。 電話が鳴る頃だ。 リリリリリ リリリリリ 我が家では、テレビの上に置かれている電話。そいつがけたましく鳴り出す。 恐らくはお隣の山田さん宅も、そのまた隣の佐藤さんだったか鈴木さん宅もそうであり、 今頃は電話がうるさく鳴っているはず。 電話の音は不吉の調べ。これに出さえすれば、政府の人の指示がある。 父は電話に出ると、はい。はい。と、数回頷いた。 そして受話器を置く。 ガチャリ、再び静けさを取り戻した居間に、父の言葉が響いた。 「……病院に行って来る」 父の言葉は重い。溜め息まじりだろうとそれは仕方の無いこと。 「いってらっしゃい。……ちゃんと戻ってきてね」 そんな父に外套を着せてやる母の言葉には、いつものことながらほのかな愛情がこもっている。 おえぇぇ。 わたしは盛大に顔をしかめた。 だってさ。以前は考えられなかったもの、こんな光景。 わたしには外でゾンビ達がうごめく事態より信じられない。 父と母は玄関へ向かう途中に、食卓のわたしに声をかける。 「照美。父さん、行って来るから」 「…………」 わたしは空になった皿を無表情で見つめたまま、顔も合わせてやらない。 「テルも病院まで来る?」 母の言葉は見送りに来い、という催促です。 いいや、いかない。 病院の人に、ついでに母まで軟禁してくれるように頼んでいいのなら考えるけど。 わたしは片手を左右に振って、無言で愛想の無い返事をつくる。 この行動が仇になったか、母はまたわたしへの評価を低くしたようだ。 母は忌々しく溜め息をついた。残念ながら、彼女はわたしの感情が分からないらしい。 「しかたないさ。照美は照美で、蔵土が死んでまだ立ち直れてないんだろう」 父が困ったフォローを入れてくる。 それを聞いたわたしは、思わず狂ったように笑い出してしまう。そして、叫んでいた。 「兄さんは死んでないわぁ! 死ぬわけないじゃない!」 半年前の『あの日』を境に、愛しの蔵土兄さんは居なくなった。 病死した兄さんの死体が、搬送先の病院から消えた。 だ・か・ら・こ・そ、よ。根拠として、わたしには充分過ぎる。 死んでも死んでいない、すなわち生きていると仮定することになんの問題があるでしょう。 わたしのほうに問題ありとする時点で、この両親は確実に狂っている。 あれほど愛し合った兄妹の片割れの想いが届かないなんて、口には出さないけどありえない。 こんなやり取りしたあとは、両親は決まって困ったような顔をして笑う。 そして、会話は切り上げられる。 なにせ父も母も、自分たちのことで精一杯。 だからこそ、かつては離婚だのなんだの騒いでた家庭が。 ほら。手を繋ぎ合って、お互いの心配をしあうほどに回復している。 そもそも一歩この議論に足を突っ込めば、じゃあ夜時間の父(など)は「生きているのかどうか?」と、 専門家が繰り広げている無駄なカオスの繰り返しになっちゃうから。   ところが、この日の両親はしつこかった。 母は突然思い出したように手を叩くと、にこやかに微笑む。 「そうね。クラも、病院に居るかもしれないわ」 「!」 たったその一言でわたしは。全身が凍るような心地になった。 母が言うところは要するにこうだ。最近になって完成したゾンビ収容兼・保護施設である『聖診病院』、 そこに兄さんが居るんじゃないか。ということは即ち。 「兄さんが……ゾンビになったっていうのッ?」 わたしは次の瞬間には身体中の血が沸き上がっていた。 椅子を蹴るようにして立ち上がると、母を睨みつける。 「兄さんは生き返った!どうして……ゾンビにならなきゃいけないのよ!ゾンビは、生きた人間がなるものよ!」 わたしの考えを母は、ちょうど先ほどのわたしのように片手でいなすと、こう続けたのだ。 「テル。母さんもね、クラが生きているとしたら素晴らしいことだと思う。クラが帰ってこないのも、 本当に何か事情があるのかもしれないわ。最悪の可能性は、テルがいま言ったように、クラは悪い病気になってる」 悪い病気とは、もちろん『腐臭病』のことだ。 わたしは歯軋りしながら聞いた。 「でも、一番いい可能性だってある。クラは病院でいまも治療を受けていて、  本当はかなり回復してるかもしれないじゃない。テルの願い通りにね」 「そうだな。母さんの言う通りだ。照美、病院に来れば何か分かるかもしれないよ」 父が駄目押しをし、不覚にもわたしはちょっと考え込んでしまう。 わたしが、兄さんがあの綺麗な姿のままでどこかで生きている、そう信じ込んでいるのは 絆による推測でしかない。そんな推測に絶対の自信があるのなら、 絶対をさらに確かなものにするため、病院くらいは見学しに行ってもいい。 わたしが絶望してしまうケースは億に一つも無いのだから臆すことは無いじゃないか。 「いいわ。わたしも行く」 少し間をおいて、わたしは承諾してしった。 「ありがとう」 両親の嬉しそうな顔がにくい。 別に、あなたたちを喜ばせるためじゃないんだからね。 「わたし、着替えてくるから。ちょっと待ってて」 そう言って自分の部屋へ行こうとするわたしに、また母が余計な一言。 「ところでテル。右手にまいた包帯はなんなの?」 「……ちょっとね。怪我をしたの」 そそくさと自室に戻るわたし。 別に、勘付かれたわけでは無さそうだけど。 本当に病院へ行かなければならないのは、わたしだってことにね。 (書きかけ...) ---- **[[BACK>その他の小説]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: