第二部 プロローグ

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第二部 プロローグ - (2006/10/31 (火) 23:35:13) の編集履歴(バックアップ)


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   プロローグ <攻奇心は猫をも生き返らす>

聖暦3354年 -神無月 九日-


男は、とてつもなく運が良かった。

男は他の“シミラー”(機械人)よりずっと恵まれた容姿をもって創られた。
これが第一の幸運である。

“司命工場”は世界の人口を保つため、数ヶ月に一度、数百体のシミラーを生産する。
しかし、経費削減が叫ばれる昨今の世、どうしても不良体は多くなる。
一体の美男子を創るコストと、百体の醜男を創るコストは釣り合うもので、
男もせいぜい中の上くらいの顔立ちをもって生まれて来るはずだった。

ところが蓋を開けてみれば、どう間違ったのか、
男はファッションモデルとして生産されたシミラーを凌ぐほどの
容姿と気品を備えていた。

いったんはその成人男性型に、当初とは異なる人生プランを与えようかと
管理側のシミラーも考慮したほどである。が、結局はその手間を惜しまれ、
「女型シミラーを視線だけで虜にする一般人」として、男は世に送り出された。

そんな男を指名購入したのは、五十歳を過ぎようかという成人女性型だった。
見た目は二十歳のままの彼女が、夫として生まれたばかりの男を選んだのは、
機械人社会では珍しくもないことである。
妻は夫を容姿だけで選び、後のことは何とでもなると考えていた。
それもまた、男にとっては幸運なことだった。

一年が過ぎ、二年が過ぎ、男の人生は豊かなものだった。
背景には第三の幸運がある。
いかにして自らの容姿を利用し、人を欺くか。
その術を早々に身につけ、良心などというものと縁を切ったのだ。
ただし、金づるである妻との縁は、あちらが望んでも切ろうとはしない。

うまくやっている。
全くもってうまくやっている。
順風満帆という言葉では表現しきれぬほど、男は悠々と日々を送っていた。
抱いた女型の数は三十を超え、そろそろ別の女型と関係を結ぼうと考えていた。

そこへ、とうとう第四の幸運が転がり込む。

ぶらりと立ち寄った“ラングフルク”の街で、男の理想通りの女型が通りを歩き、
路地裏へと消えて行った。
正確には少女型であろう。一瞬男と目を合わせた女は、実にあどけない笑みを浮かべていた。
男はそっと、後を追う。

宝石のように輝く緑色の髪は尻にかかるほど長い。
肩だけでなく、背中も露な黒のキャミソールの上から、白のボレロを羽織っている。
ベルトの色は赤い。
すらりとした長い両足は、白のパンツで綺麗に覆われている。
黒いブーツだけは男物のようだ。

流行からはいささかピントのズレたファッションであるが、男は彼女を視界に入れたまま放さなかった。
変な服装の女ほど、下着の趣味からして凝っているものだ。
ごくりと唾を飲み込み、うずく下半身を堪えながら、女とは慎重に距離をとって歩く。


(書きかけ...えらいとこで終わってんな)



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