魔物は、悪しきもの。 人食いの化物。 そう信じられていた時代がある。 人々は、魔物を排除しようとした。 ”魔物狩り”の結成。 ひとりの少女が、喜んで志願した。 今宵も、少女は魔物を追い詰める。 その魔物は、人の姿に化けていた。 狼狽した男の声と顔で、必死に訴える。 おれは、人なんて喰っていない! おれは人として生きてきた。 これからも人として生きて行く! 少女は、耳を貸さない。 魔物は人を喰う。 この世の誰もがそう思っているわ。 だから、わたしは人のためになることをしたいの。 構えられる太刀は、男の首筋を狙う。 男は懇願を続ける。 おまえは正気か? おまえだって俺と同じだろう! 俺と同じ存在なんだって、俺には分かる・・・ 少女はにやりと微笑んで言う。 だからこそ、でしょう? 振り下ろされる刃は、なおも喚き続ける男の顔を左右にわけた。 赤色の噴水を眺め、浴び、飲み干しながら、少女は充実を感じた。 それは殺戮に対してではなくて、自分の運命を。 魔物狩りの少女騎士、イシリア。 その名はやがて英雄の一人として連ねられ、彼女は死ぬまで人として生きた。 血塗られた裏切りは、彼女を誉め讃える、人々の声に消されていった。 彼女は、いつも笑っていた。 魔物は、悪しきもの。 人食いの化物。 今でも、そう信じられている。