268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:46:58.77 ID:+BVtJ5c7O
みどり「そりゃあ確かにあんたのポニーテールは完璧だし、ポニーテールに引かれるのもわかる。でもなんで私じゃなくあの人なのよ!」
ちょっと待ってほしい、わけがわからない。だがみどりさんはちょっとも待ってくれない。
みどり「ねぇ、私のポニーテールも素敵でしょ?触ってもいいから、あなたのも触らせて」
そう言いながら手を伸ばすみどりさん。嫌だ、怖い、誰か助けて。
269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:47:53.67 ID:+BVtJ5c7O
私の心の声に呼応するように、がちゃりとドアが開かれた。あぁ神よ、救いの手を差し延べてくれたんですね。入ってきたのはそう、……俊夫さんと透さんだった。なんで。
俊夫「みどり、どうしてここに……?」
みどりさんはじろりと俊夫さんを睨み返す。
みどり「あなたこそ、なんでここに来たのよ」
透「いや、その、決して憂ちゃんのポニーテールを二人で拝みにきた、なんてわけでは……」
完全にばらしちゃってるし。てかなんですかその理由は。
270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:48:23.11 ID:+BVtJ5c7O
当然みどりさんの剣幕は余計に激しくなる。
みどり「私というものがありながら!てか透くんはなんで!」
透「ま、真理にポニーテールにしてくれなんて頼めなくて……」
そんなにポニーテールが好きならなぜポニーテールでない人を好きになったのか。
俊夫「みどりだって、俺というものがありながらその子に浮気しに来たんだろう?俺はそれを止めに来たんだ」
みどりさんと私は同性です。てか止めに来たとか絶対嘘ですよね。
271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:49:01.39 ID:+BVtJ5c7O
みどり「そんなあからさまな嘘言わないで。ねぇ憂ちゃん、こんな人達ほっといて、私と一緒にイ・イ・コ・ト、しましょ?」
女同士のイイコトなんてごめんです。
俊夫「そんなこと断じて許さん。憂ちゃん、俺とポニーテールを絡め合おう」
みどりさんとそんなことしてるんですか?
透「二人とも結婚してるし、憂ちゃんは僕に髪を触らせてよ」
あなたも結婚してるでしょう。
みどり「さあ」
俊夫「憂ちゃん」
透「僕に」
も、もう……
憂「勘弁してくださーいっ!!」
272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:49:50.06 ID:+BVtJ5c7O
澪「二人ともおはよう、唯に、……あれ?」
朝、律さんとともに起きてきた澪さんが、談話室に腰かけている私達姉妹に声をかけてきた。
律「ゆ、唯が二人!?……なわけねーか」
唯「私は一人に決まってるじゃん」
律「いやそりゃそうなんだけど……」
律さんが私を、主に頭部をしげしげと眺める。澪さんは私とお姉ちゃんを交互に見比べている。
紬「あら、みんな揃ってるのね」
続いて、紬さんが梓ちゃんとともに階段を下りてきた。梓ちゃんは私を見るなり、少し驚いた様子で口を開く。
梓「憂、なんであんた、髪も結わずにヘアピンつけちゃったりしてるの?」
憂「はは、まあ色々と……」
終 ~俺も私も、ポニーテール萌えなんだ~
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:50:27.30 ID:HgzXi+tR0
ポニーテールなら仕方ないな
276 :>>1より分岐 2012/02/04(土) 18:51:59.63 ID:+BVtJ5c7O
唯「はぁ~るばる~きたぜはあっこだてー♪」
私は今、お姉ちゃんと一緒にスキー場へきている。
目の前は一面にそびえ立つ白銀世界。その根本に、私達がお世話になるペンションが見えていた。
ここで、一つ訂正。
憂「お姉ちゃん、ここは函館じゃなければ北海道ですらない、長野県だよ」
唯「いやー雪景色を前にしたらつい言いたくなっちゃって」
はっとした。私は、なんてダメな妹なんだろう。お姉ちゃんがせっかくいい気分で歌っているところに水を差すような発言。死んで償えるのなら死んでしまいたいが、余計にお姉ちゃんが悲しむだろうから、他の償い方を探さなければ。
278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:52:20.45 ID:+BVtJ5c7O
唯「ふいーやっとペンションについたね」
憂「荷物置いたら早速スキーに繰り出しちゃおっか」
言いながらがちゃり、と戸を開けると、からんからん、と鈴が鳴る。その音をきっかけに、
「やあ、いらっしゃい。ご予約のお名前は?」
とオーナーらしき人が奥から姿を見せた。
憂「平沢です。平沢……唯で予約したんだっけお姉ちゃん?」
いきなり自分に話を振られたせいか、少し驚きを見せるお姉ちゃん。
唯「えっそうなの?商店街の福引きで当たったんだから商店街の名前で予約入ってるのかと思ってた」
279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:52:53.42 ID:+BVtJ5c7O
「あっはっは、平沢憂さんのお名前で予約をいただいてるみたいだよ」
予約の名前まで商店街は面倒見てないよ、と言おうとするのを遮るように笑い声が響く。なんだ、自分の名前で予約してたのか。
それより、このオーナーらしき男の、お姉ちゃんを馬鹿にしたような笑い方に、思わず舌打ちをしたくなる。
「そっちのヘアピンを付けてるのが姉の唯ちゃん、ポニーテールが妹の憂ちゃんだね、……よし覚えたよ。ようこそ、ペンション『シュプール』へ!」
憂「はい、お世話になります」
唯「よろしくお願いしまーす!」
私達はきれいに揃ってお辞儀をした。こういう何気ないところでも息が合っちゃうのは、やはり類い稀なる姉妹愛のおかげだろう。お姉ちゃん大好き。
280 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:53:27.48 ID:+BVtJ5c7O
「透ったら、かわいい女の子の名前を覚えるのだけは得意なんだから」
お辞儀をしている間に奥から新たに女の人が現れていた。なかなか美人と言ってよさそうな顔立ちをしている。
透と呼ばれたオーナーらしき人は、女の人の急な登場で……というよりその言葉を発した顔が不敵に微笑むのを見て、明らかに同様している。
透「いやぁっ、そのっ、ほ、ほら、お客さんの顔と名前を覚えるのは大事じゃないか、真理もそう思わないかい?」
真理さんはその不敵な笑みを崩さない。
真理「ええそう思うわ。じゃあ昨夜泊まって今朝帰った、眼鏡の女性の名前は何だったかしら?」
透「えぇと、山口じゃなくて山本でもなくて……あんまりタイプじゃない人だったからな……あっ、えっ、じゃなくて!その!」
281 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:53:50.96 ID:+BVtJ5c7O
目が泳ぎまくりの透さんを尻目に、真理さんはこちらに向き直り、軽く礼をした。
真理「ようこそシュプールへ。私はここのオーナーの琴吹真理よ、よろしくね」
透「あっあぁ僕もオーナーでね、こほん。琴吹透です、よろしく」
そう言って透さんも頭を少し下げた。なるほどやはり透さんはオーナーで、真理さんと二人合わせてオーナー夫妻ということらしい。
……いや、そんなことより。
憂「あの、琴吹って、あの琴吹グループの方なんですか?」
唯「てことはムギちゃんの親戚?」
282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:54:17.53 ID:+BVtJ5c7O
珍しい苗字だしほぼ間違いないだろう。質問を投げかけられた透さん……ではなく真理さんがにこやかに回答する。
真理「もしかして、紬ちゃんのお友達かしら。紬ちゃんはね、私の遠い親戚なの。」
透「僕も真理も間柄を覚えてないほど遠ーい親戚だけどね」
まさかこんなところで知り合いの親戚に会うとは、世の中なんて意外と狭いものだ。
意外性という点ではもう一つあるけれど、それを指摘するのは野暮というものだろう。
唯「あれっ?真理さんが琴吹家の人ってことは、透さんは婿養子?」
あぁ、純粋過ぎるよお姉ちゃん。気になったことは聞きたいんだよね。でもそんなお姉ちゃんも好きだよ。
283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:54:52.24 ID:+BVtJ5c7O
透「そ、そういうことになるね。シュプールの所有権がブツブツ……ああそれよりっ!」
話を逸らしたげに、何か思い出した顔をして言う。
透「紬ちゃんも今夜ここに泊まるみたいだよ」
なんだって?そんな偶然がまさか、そう思いお姉ちゃんに目をやると、同じく私に顔を向けていた。
唯「偶然ってあるもんだねぇ~。ムギちゃんは一人で泊まりに来てるんですか?」
この問いに対し、真理さんは宿泊者名簿を見るでもなく、私達の後方を見ながら言い放った。
真理「いいえ、友達を三人連れてるわ」
284 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:55:18.00 ID:+BVtJ5c7O
真理さんの視線が気になり振り向くと、そこには見慣れたメンバーが揃っていた。
唯「ムギちゃん!それに、澪ちゃんりっちゃん!そしてあずにゃ~ん!」
梓「ちょっ、いきなり抱きつかないでくださいっ」
猫まっしぐらという勢いで、梓ちゃんの華奢な体はお姉ちゃんの腕に抱えこまれることとなった。いや梓ちゃんのほうが猫っぽいから猫まっしぐらという表現はややこしいので何か別の表現を――ま、そんなことはどうでもいいや。
それより、せっかくの姉妹水いらず旅行が成り立たないであろうことを残念に思う。ファック。
律「お、おう、唯に憂ちゃんじゃないか」
澪「こ、こんなとこで合うなんて、き、奇遇だな」
こうなったものは仕方ない、軽音部のみなさんと旅行に来たと思って楽しむほかないだろう。ただ。
憂「みなさん、こんにちは。今日はどうしてこちらに?」
一応聞いておきたい。なぜ軽音部が揃っているのにお姉ちゃんがその輪に加わっていないのか。
285 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:56:05.08 ID:+BVtJ5c7O
梓「それはその、えっと……」
梓ちゃんを初めとする全員が、ちらちらとお互いの顔を確認する。数秒後、律さんに視線が集中し、煽られるように口を開いた。
律「そ、そう!軽音部のみんなでどっか泊まりがけの旅行でも行こうぜってなったんだけど、唯は憂ちゃんと旅行だって言ってたろ?だから声もかけなかったんだ、うん」
唯「そっかー、迷惑かけてごめんね」
憂「でも他の日程にしてくれてもよかったんじゃ……」
私の発言に、律さんは明後日の方向を見ながら答える。
律「そ、それがだな、シュプールの都合上今日じゃなきゃだめでさー、ね、透さん?」
透「別にうちは……」
律「ねっ!透さん!」
透「あっ、ああ」
286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:56:43.24 ID:+BVtJ5c7O
怪しい。律さんの慌てぶりといい透さんとのやりとりといい、まるでお姉ちゃんを省いて旅行を計画したみたいじゃないか。
紬「唯ちゃん達もシュプールに旅行だったんなら、憂ちゃんも加えて6人招待されてもよかったわね」
唯「ま、私達は福引きで当たった旅行だから結局自腹は切ってないんだけど」
ふんす、と胸を張るお姉ちゃん。別に威張るところじゃないよ。
澪「福引きで旅行が当たるなんて、さすが憂ちゃんは日頃の行いがいいな」
唯「澪ちゃん私はー?」
律「いやあさすが憂ちゃん素晴らしい」
紬「いつも家事も勉強も頑張ってるものね」
梓「マイナス要素を乗り越えるほどの素晴らしさ」
唯「みんなひどいっ」
みんなひどいっ。あまりにもお姉ちゃんを小馬鹿にしすぎじゃあないか。それでいてへらへらと笑って……何がおかしいのか。
287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:57:24.40 ID:+BVtJ5c7O
「まいどー、邪魔するでー」
突然玄関から聞こえた陽気な関西弁に目をやると、そこには恰幅のいい中年男性が来たところだった。その頭は禿げ上がり、気休め程度の髪が寂しそうにある程度である。
透「どうも香山さん、お久しぶりです」
香山「あかんな透くん、そこは『邪魔するんやったら帰ってー』て言うてくれんと。そしたら『あいよー』言うてからノリツッコミするとこやのに」
香山と呼ばれた中年男性はわははと笑いながら自らの中にあったネタを口にする。それ、面白いですか?
290 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:58:13.88 ID:+BVtJ5c7O
律「香山さんっていうと、もしかして……」
律さんはそう口にしてから、はっと気がついたようにお姉ちゃんのほうに目をやる。
香山「もしかしてあんたらが放課後テータイムっちゅうバンドか?ひぃふぅみぃ……なんや数が多いみたいやけど」
律「そ、その話はまた後でじっくりと。と、透さん、部屋割りはどうなってます?」
何やら香山さんを知っている風な律さん。慌てて部屋割りの話に移行したのも、何かを隠しているようにしか見えない。
291 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:59:07.36 ID:+BVtJ5c7O
しかし透さんは何も気にしてない様子で、待ってましたとばかりにシュプールの見取り図を取り出す。
透「紬ちゃん達四人はここからここまでの四部屋、唯ちゃんと憂ちゃんはこことここの二部屋だよ。まあ自由に入れ替えてくれてかまわないけどね。香山さんは一番奥のここでお願いします」
差し出された見取り図はペンション二階のもので、階段を登った地点から左右に廊下が伸びている。左手前三部屋のうち手前から二部屋が私達の、その向かい側奥から四部屋が紬さん達の部屋だそうだ。奥から四部屋目だけは階段より右になる。
階段隣の部屋をお姉ちゃんが引き受け、私がその隣――つまり香山さんの隣――、向かい側奥から順に紬さん、律さん、澪さん、そして梓ちゃんと決まり、それぞれ自室へ荷物を置きに向かった。
292 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 18:59:36.08 ID:+BVtJ5c7O
こんこん。ドアをノックする音が聞こえる。しかしそれは私の部屋ではないようだ。
どこかでがちゃり、とドアの開く音とともに、陽気な関西弁が響く。香山さんの部屋だ。
香山「おー早速来たか。ま、立ち話もなんやし入ったらええわ」
透さんか真理さんが訪ねてきたのだろう。そう思ったが、聞こえてきたのは意外な――予想していないといえば嘘になるが――声だった。
律「失礼します」
今日会ってから常に挙動不審な律さんが、いったい香山さんと何の話をするというのか。悪いとは思いながらも、壁に耳を当てて会話を聞くことにした。
293 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:00:10.37 ID:+BVtJ5c7O
香山「どや、こないだ言うたデビューの話、考えてくれたか?」
デビュー?そういえば香山さんは放課後ティータイムを知っていたが、私が無知なだけで音楽業界の有名人だったりするのだろうか。
梓「もう一度だけ、条件を確認させてください」
梓ちゃんの声だ。もしかすると、お姉ちゃんを除く放課後ティータイムが勢揃いしているのかもしれない。
なら何故お姉ちゃんが除かれているのか。それは、すぐに明らかになった。
梓「澪先輩がボーカルで、唯先輩には辞めてもらうことが条件なんですよね?」
……なんだって?
294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:01:29.26 ID:+BVtJ5c7O
香山「名前は覚えとらんけど、平沢っちゅう子や。有名な占い師に聞いたら、その子が歌ってると売れないし言いよるからな、占い師だけに」
香山さんの馬鹿げた笑いが聞こえる。
澪「作詞作曲も自分達でできるんですよね。ただ、唯……平沢唯が参加できないだけで」
香山「そうや。君らは君らのやりたいようにやったらえぇ。わしが責任持って売り出したるさかいな」
梓「素晴らしい条件ですね、考えるまでもないです」
え――梓ちゃんは何を言ってるんだろう。
澪「同感です」
紬「わざわざこんなところに来て話すこともありませんでしたね」
律「満場一致、です。香山さん」
みんな、何を言ってるんだろう。お姉ちゃんがいなくても、デビューできればいい、そんな人達だったんだろうか。
295 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:02:03.07 ID:+BVtJ5c7O
こんこん。ノックの音で我に帰る。
唯「うーいー、スキー行こうよー」
お姉ちゃんだ。私は壁から顔を離すと、慌ててスキーの準備をしてドアを開けた。そしてそのまま、満面の笑みを浮かべるお姉ちゃんと一緒に、雪山へと出発した。
296 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:02:44.05 ID:+BVtJ5c7O
唯「あっ、あずにゃーん、他三にーん、やっほー」
何滑りかして再びリフトで山頂に登ると、お姉ちゃんを除く軽音部が揃っていた。
律「他三人ってなんだ、私達は梓のついでかよ」
唯「ごめんごめん。でもみんな私達を置いてスキー行っちゃうんだもん」
頬を膨らませて怒るお姉ちゃん。まさかみんなが、先にスキーに行ったのではなく香山さんの部屋にいたとは、思いもしないだろう。
澪「ま、まあこうやって合流できたんだし、楽しく滑ろうじゃないか。な?」
その後は澪さんの言葉どおり、みんなでスキーを満喫した。
……ようにお姉ちゃんの目には写っただろう。今日のお姉ちゃんは騙されてばかりだ。
297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:03:14.41 ID:+BVtJ5c7O
憂「律さん、どっちが早く滑れるか勝負しませんか?」
律「へっ、私?」
いざ滑り出さんとしたところに話しかけられ、きょとん、とした様子で聞き返してくる。
憂「はい、一番運動神経がよさそうなので」
この私の一言に、律さんはあっさりと上機嫌になった。
律「ふふふ、さすが憂ちゃんお目が高い。絶対負けないからなー!澪、スタートの合図を頼む」
澪「はいはい、二人とも気をつけてな。……よーい、どん!」
即席スターターの合図とともに、私達は滑り出した。
299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:03:46.34 ID:+BVtJ5c7O
私の視界に律さんの姿はない。なぜか。答えは簡単で、私が律さんより前を滑っているからだ。既にここの雪質にも慣れている分、私のほうが有利なのは明らかだ。
憂「悔しかったら追い付いてくださいよー」
律「なにくそ!引き離されてはいないんだ、もうすぐ逆転してやるからな!」
私は律さんと一定の距離を保って滑っている。あまりに離れ過ぎては意味がないのだ。
あらかじめ滑った地点を思い起こしながら、ある地点に辿り着いた瞬間、私は軽いミスを犯し減速した。
律「ひゃっはー隙あり!憂ちゃんさよならー!」
私を追い抜いた律さんは、私のほうへ振り向いて喋りながら少しの間滑り続け、
律「はっはっはっ……う、うああぁぁぁっ!」
崖の向こうへと飛翔していった。
300 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:04:47.07 ID:+BVtJ5c7O
憂「み、澪さぁん……うぐっ、ひぐっ」
なだらかなゲレンデに一人戻ってきた私は、澪さんを探し出し――紬さんでも梓ちゃんでもよかったが――話しかけた。
澪「憂ちゃん、いったいどうした?」
憂「ううっ、律さんが、律さんがぁ……」
澪「律?律がどうしたんだ!」
憂「つ、着いて来てください」
先ほど律さんが飛び立った崖へ、今度は澪さんを連れて行った。
そして
憂「律さん、ここから落ちちゃって……あそこ、覗いて見てください」
澪「なんてことだ。どれ……うわっ、あっ、あーっ!」
澪さんが律さんのところへ行けるようアシストした。
302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:05:30.96 ID:+BVtJ5c7O
あとは簡単だった。紬さんも、梓ちゃんも、澪さんを突き落としたのと全く同じ手順を踏み、みんな仲良く崖下に並ばせてあげた。もっとも、落ちたみんなは雪に埋もれたので、本当に並んでいるのかは知らないが。
憂「お姉ちゃん、そろそろ帰ろっか」
唯「あっ憂、もぅーどこにいたの?いつの間にかみんなもいないし、一人で寂しかったんだから」
その点は本当に申し訳なかったと思ってる。
憂「ごめんね。てかみんないないの?」
唯「滑ってるうちに迷子になっちゃったみたい」
憂「律さん私に負けてから『みんなと特訓して見返してやるからな!』って言ってたから、こっそり練習中かもね」
言ってない言ってない。
唯「もしかしたらシュプールに帰ってるかもね、私達も帰ろっか」
憂「うん!」
こうして私達は、シュプールへの帰路についた。空は、これから吹雪いてもおかしくない様子だった。
304 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:06:13.16 ID:+BVtJ5c7O
からんからん。シュプールの玄関を開くと、透さんが受付から顔を出した。
透「やあおかえり。もうすぐ夕食だから、着替えたら食堂においで」
唯「わーい」
憂「料理は真理さんが作るんですか?」
当たり前だと言われそうな何気ない問いに、意外な答えが返ってきた。
透「と、思うだろ?実は、僕が作るんだ」
どや顔で両手を腰に当てる透さん。
憂「へぇー意外です。見学してもいいですか?お姉ちゃんもどう?」
透「どうぞどうぞ。といっても、下ごしらえは既に終わっちゃってるけどね」
唯「憂が行くなら私も行くー」
こうして、私とお姉ちゃんは、着替えたあと厨房に集合することになった。
305 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:06:52.25 ID:+BVtJ5c7O
憂「失礼しまーす」
唯「ん~良い匂いー、つまみ食いしちゃいたくなるね」
キッチンにやってきた私達の鼻に届いたのは、なんとも美味しそうなビーフストロガノフの匂いだった。
真理「たっぷりあるし、少し味見するくらいならいいのよ」
憂「サラダも美味しそう。これ、あとは盛り付けるだけですか?」
透「そうだね、手伝ってくれるのかい?」
憂「そんなつもりじゃなかったですけど……じゃあお手伝いしまーす」
真理さんからお皿を受け取り、サラダを盛り付けていく。お姉ちゃんのは特別たくさん盛っちゃおう。
306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:07:33.86 ID:+BVtJ5c7O
真理「お待たせしましたー」
既に食堂で席についていた香山さんに私達が合流してすぐ、真理さんが前菜のサラダを運んできた。
香山「なんや、その子のだけやけに多ないか?」
お姉ちゃんのお皿を見て言う。
真理「手伝ってくれたサービスです。さ、皆さん召し上がれ」
唯「いただきます。……あずにゃん達まだ帰ってないのかな」
憂「みたいだね。うん、サラダ美味しい!」
真理「すぐにメインも持ってくるわね」
そう言うと、真理さんは厨房へと消えていった。
308 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:08:15.41 ID:+BVtJ5c7O
真理「お待たせ、ビーフストロガノフです」
言葉どおり、真理さんはすぐに次の料理を運んできた。
唯「あわわ、まだサラダいっぱい残ってるのに」
憂「私が盛り過ぎたからだね、ごめんお姉ちゃん。私もビーフストロガノフ食べずにお姉ちゃんを待ってるよ」
お姉ちゃんは急いで食べているようだが、それでも特盛サラダはすぐにはなくならず、なかなか主菜に踏み込めない。
結局、私達がビーフストロガノフに手を出せたのは、香山さんがデザートを食べている頃だった。
310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:08:58.71 ID:+BVtJ5c7O
カチャーン
食器の落ちる音。見ると、香山さんが食後に飲んでいたコーヒーのカップを足元に落とし、口を抑えて苦しそうにしている。
香山「うぐっ……ご……がっ……」
そしてそのままどさり、と椅子から倒れ落ちた。
私達のデザートを運んできた真理さんが、血相を変えて香山さんのもとへ走り寄る。
真理「かっ香山さん!どうしたんですか!?」
真理さんの呼び掛けに答えることはなく、びくびくと痙攣を繰り返したその体は、ついに動かなくなった。
311 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:09:49.90 ID:+BVtJ5c7O
デザート待ちぼうけをくらっている私達も、そんなことは言ってられず、香山さんのもとへ近寄る。
唯「し、死んじゃったの……?」
異変を察した透さんが厨房から現れ、香山さんの喉元に指を当てる。
透「そう、みたい、だね。真理、警察と救急に連絡をお願いしていいかい?」
真理「わかったわ」
そう言うと、真理さんは食堂から駆け出して行った。
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:10:34.02 ID:+BVtJ5c7O
翌朝やってきた警察に状況説明と称した取り調べをしばらく受け、私達二人は解放された。このときお姉ちゃんは、律さん達が戻っていないことを訴え、別個捜索隊が派遣されることとなった。
ちなみに、香山さんの死因は、タバコの誤飲による中毒死だそうだ。コーヒードリッパー上方の棚に保管しておいたタバコの吸い殻が、何かの拍子に落下したらしい。
憂「まったく、そんなとこに吸い殻を保管するなんて、ちゃんちゃらおかしいね」
お姉ちゃんはと言えば、シュプールから帰ってきて三日後に、軽音部の仲間が遺体――集団で吹雪の中遭難し、前方不注意で崖から落下したとの見方が有力――で発見されたと聞き、以来塞ぎ込んでしまっている。
憂「このままじゃお姉ちゃん出席日数足りなくて留年しちゃうよ」
憂「そうなれば同じ学年だね、嬉しいな」
終 ~歪んだ姉妹愛~
315 :>>295より分岐 2012/02/04(土) 19:11:44.76 ID:+BVtJ5c7O
こんこん。ノックの音で我に帰る。
唯「うーいー、スキー行こうよー」
お姉ちゃんだ。私は壁から顔を離すと、慌ててスキーの準備をした。だが、このままスキーになんて行く気分にはとてもなれない。
ドアを開けると、お姉ちゃんを尻目に隣の、香山さんの部屋の前に立ち、ノブに手をかける。
唯「う、憂、そこは香山さんの部屋だよ」
鍵がかかっていないことを確認すると、意を決してノブを回し、ドアを開いた。
憂「梓ちゃん!みなさん!さっきの話はいったいどういうことですか!?」
316 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:12:30.13 ID:+BVtJ5c7O
突然の乱入者に、部屋にいた5人全員がしばし固まる。
最初に口を開いたのは香山さんだった。
香山「なんや、急に入ってきて。もしかして人の話盗み聞きしとったんちゃうやろな?」
そう言われると少し心苦しいところがある。
梓「憂、そうなの?」
律「たはっ、参ったな」
何が参った、だ。問い詰めようと口を動かす瞬間、後ろからお姉ちゃんが姿を見せた。
唯「ねぇ憂ったら、いったいどうし――あれっみんな?」
317 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:13:13.63 ID:+BVtJ5c7O
よくよく考えれば、お姉ちゃんは自分がハブにされていたことに気付かないほうがよかったのかもしれない。ついカッとなって、そこまで気が回らなかった。
今からでも誤魔化せないか思案していると、それを妨げるように律さんが話し始めた。
律「唯もいるのか……知られたくなかったんだけどな。みんな、もう話しちゃっても仕方ないよな?」
澪さん、紬さん、梓ちゃんが顔を見合わせ、頷く。それを確認した律さんが、お姉ちゃんと微妙に視線を合わせないまま喋り出す。
律「実はな、唯。お前を除いたHTTでデビューしないかって提案されててだな……」
律さんの目が、にっこり笑ってお姉ちゃんを見た。
律「断っちゃった」
319 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:13:46.47 ID:+BVtJ5c7O
ことわった……?断った!?さっき壁越しに聞いてたときはそんなこと一言も……。
律「今日ここに来たのも、香山さんとデビューについて話をするためだったんだけどな。やっぱ、私達は唯と一緒じゃなきゃ嫌だ。」
お姉ちゃんはぽかんとした顔で聞いていたが、急にキッと目付きを変えた。
唯「そんなのダメだよ!せっかくデビューするチャンスなんだよ!?それなのに――」
澪「そう言うと思った!」
澪さんが声を上げる。
澪「唯ならそう言うと思った。だから内緒にしてたんだよ」
320 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:14:28.19 ID:+BVtJ5c7O
唯「でも……」
梓「唯先輩、私達の夢はただデビューすることじゃないんです。きっかり5人揃ってデビューしたいんです」
紬「だから、香山さんになんとか唯ちゃんも一緒にデビューできないか頼もうと思ってたんだけど……」
紬さんがちらりと香山さんを伺う。
香山「君らの友情が固いのはわかった」
律「じゃあ!」
全員の目が期待の色に染まる。
321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:15:03.58 ID:+BVtJ5c7O
だが、その期待が叶うことはなかった。
香山「わかったけどやな、ビコターケ丸亜?っちゅう占い師の言うことには背けへんのや。なんせ、あいつのおかげで無事夏美は成仏できたんやしな」
天井を虚ろに見上げる香山さん。もしかしたら変な宗教に入っているのかもしれない。
香山「そういうことやから、今回の話はなかったことにしとくれ。あとはシュプールでの旅行を楽しんだらええわ。料理も美味いしな」
唯「みんな……ごめんね」
梓「いいんですよ。さぁ!香山さんの言うとおり旅行を楽しみましょう!」
梓ちゃんの声掛けに、みんなが呼応する。
おーっ!
322 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/04(土) 19:15:45.50 ID:+BVtJ5c7O
シュプールへの旅行から数ヶ月。お姉ちゃんが雑誌のとあるページを見せてきた。
唯「ねぇ憂、これ見てよ」
そこには、『香山誠一プロデュース!KYM48のCDを買うと、お好み焼き半額券が付いてくる!』という字が躍っていた。
憂「香山誠一って……シュプールで会ったあの人だよね」
お姉ちゃんが曖昧そうに頷く。
憂「『責任持って売り出したる』なんて言ってたけど、こんな売り出され方するなら断って正解だったね」
唯「いやまあそんなことより……」
お姉ちゃんが私の手を取り訴えかける。
唯「お好み焼き食べたいなぁ……なんて、ね」
憂「え……。うん、よし任せて!今晩はお好み焼き作るよ!」
こんなにも純粋なお姉ちゃんが、汚い手法で売り出されることがなくなり、本当によかったと思うのだった。
終 ~愛しの純粋お姉ちゃん~