休日街で偶然上司に会った ---- 師走の人ごみの中を歩いていた。休日の、お馴染みのコース。 なんとなく、いつもの店で冬物を眺める。 なんとなく、本屋でサブカル本をパラパラ見る。 なんとなく、雑貨屋の店内を一周したところで喉が渇いた。 (…今日は何の収穫もない予感…) コーヒーショップで軽く食事をして、来た道を戻る。まあ、よくある事だ。 街を歩く人は皆、キラキラした表情でどこかへ向かっている。 店頭のディスプレイも必要以上に瞬いている。 俺は無表情で駅へと向かう。これでも空腹が満たされて気分は良いのだけれど。 (さっきの本屋でなんか雑誌買おう…後は電気屋でプリンタのインクと…) 「・・・・・・・。」 ふと立ち止まって振り返る。知った顔はどこにも見当たらない。 これもいつもの事。なのに誰かをつい探してしまうのは、この寒さのせいなのか。 (やっぱクリスマスのムードって、すげーな…) なんとなく、心がざわついた。「いつもの」俺でいられなくなりそうで怖い。 足早に雑誌を購入し、大型電気店の前を素通りして駅横の駐車場へ向かった。 車に乗り込む、と同時にポケットの携帯が震えた。慌てて携帯を取り出すと、一気に力が抜けた。 『電気屋行くならお風呂場の電球買ってきてネ!』 ・・・母親からのメールだった。 「はぁぁぁぁぁぁ~期待した自分乙…」 力なく車を降り、電気店へと向かった。 (これが、俺の日常。いつも通り。何も起きないのがとーぜん。分かってるだろ) 「!!」 電球を購入して店を出ようとしたその時、その人の背中が見えた。 「や、(じま、かちょー?)」 言いかけて止めた。そんなラッキーな偶然あるわけない。でも。 少し白髪の混じったあの頭。ひょこひょこ歩く後ろ姿。ちらと見えた横顔が。 「やじまかちょうっ! こんっ、にちはっ!」 驚きと焦りでおかしな発音になる。くるんっと振り返ったその人はまさしく谷島課長だった。 「んおおうっ!おーー、白井くーん。どしたの」 「どしたのって買い物ですよw 課長こそ何買いにきたんですか」 「んーー、いろいろっ☆」 「よく来るんですか、ココ」 「あんまりぃ~。だって遠いじゃないの。今日はついでがあったから」 (なんだよソレなんでいるんだよなんで会えちゃうんだよ) 「これから何か用事あるんですか?」 「ん~ん、帰るだけ」 「じゃ、ご飯でも食べにいきませんかっ? 私今日車なんで送りますよ!」 「ご飯ねぇ…行こうか? でもいいの?送ってもらうなんて。 てゆーか白井君ち地下鉄の駅近いのに車? 駐車代もったいないよ~」 「運転好きですからね。ついつい…」 街で見る課長はいつもと同じで穏やかな顔をしていた。いや、もっとユルイかも。 「ハイ、お車代★ よろしくお願いしますね」 そう言って缶コーヒーを差し出す課長の顔。ふにっと上がる口角に、俺はつられて笑う。 笑いながら、心は忙しく駆け回っている。このチャンスにしがみついてシッポを振っている。 逃げないように、消えないように・・・。さっきまでの期待を殺した自分はどこかへ消えた。 どうすれば今日、長く一緒にいられるのか。俺は固まった頭を目一杯使って考えていた。 ---- [[極悪人と偽善者>17-969]] ----