その瞳に映るもの
あいつはよく哀しそうな顔をして俺に言う。
今の世の中が辛い、と。
欲望、混沌、狂気。
そんなものに染められた現代社会が、耐え難いほど辛いと。
――人は人としての生き方を、なくしちゃったのかもしれないね。―
あいつの何気ない一言が、いまだに俺の胸に突き刺さっている。
『人としての生き方をなくす』というのは、俺の事も指しているのだろうか。
人が恋心を抱く相手は、普通は異性と決まっている。
そうでなければ、人は子孫を遺す事ができないから。
同姓であるこいつを愛した俺は、こいつがいう所の『人としての生き方をなくした』人なのかもしれない。
こいつの瞳は、同姓を愛した俺をどう映すのか。
そんな事はこいつに聞いて見なければ分からないが、聞く勇気は俺にはない。
俺と同じく同姓を愛した自分に対する自嘲の言葉だったなんて、そのときの俺には分かるはずもなかった。
最終更新:2011年04月17日 11:12