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殺して?

「やっぱりどうやって死ぬかってのはさー、人生の中で一番重要な事項だと思うんだよ」
酒が入ると彼は饒舌になる。
一緒に飲むのは久々だが、それは変わっていなかった。
今日のテーマは『死に方』。
俺が提案したテーマだ。
昔から、彼とは酒の席で「他人に言っても絶対引かれるような独自の理想」を良く話した。
まあ、彼の講釈を頷きながら聞いていられるのは、俺だけだったからかもしれないが。


「俺は病院のベッドの上で死ぬなんて御免だね!美しくない!」

今日は特に舌が回っている。
酒量も多目みたいだから仕方が無いかな。
こうなると彼は止まらない。
今の彼になにか意見をしても、翌日には忘れているはずだ。

「俺はさぁ、余命宣告とかされたら愛する人に殺してもらいたいねぇ」
「それだと相手に迷惑掛かるじゃないか」
「いやいやいや、あくまで理想!理想だからね!?」
「そうか…、理想としてならそれは良いかもしれないな」
「だろ?だろ?」

俺に肯定してもらって嬉しそうに笑う彼。

「あのさ」
「おう、何?あ、すいません焼酎ロックおかわりー」
「俺、実は余命三年なんだよね」

―ゴドン
彼が店員に突き出したグラスが落ちてカウンターを打った。

「だから、俺の事殺して?」

もちろん「殺して」なんて冗談だ。
どうせ明日には覚えてないんだから、ちょっと意地の悪い事を言って困らせてみたかっただけ。

でも。

彼がカウンターに突っ伏しておいおい泣き出したから、俺の方が困らされてしまった。
なだめる俺。
むせび泣き続ける彼。
大の男が泣き喚くカウンターに注がれる店中の視線。
そして焼酎のおかわりを出すべきか出さざるべきか途方に暮れる店員。

どうにか彼の肩を担いで、逃げるように店を出た。

夜空を見上げながら、俺にもたれてすすり泣く彼の声を聞いた。
…これじゃ、シラフの時に本当の余命の話なんてできそうにないか。

俺だって理想の死に方ぐらいある。

病院のベッドでもいい。愛する人に見送って欲しい。

「あんたに見送って欲しいんだよ」
彼に聞こえないように呟いたら、久しぶりのアルコールで焼けた喉が痛くて

少しだけ咳込んだ。



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最終更新:2011年04月17日 18:32