アットウィキロゴ
慟哭

最低の人だった。
俺のことは、商品としてしか見ていなくて。
「どうしたらあなたがもっと輝くか」とか歯の浮くようなことを、毎日毎日考えて。
俺のために身を粉にして営業して、仕事をひとつでも多く取ってきて。
いい大学出ているのに、中卒の俺の言うなりになって、頭下げて。
俺が仕事が多いからと機嫌を悪くすれば、何時間でも俺のワガママにつきあって。
俺が寝ている間も、経費削減とか言って、衣装をアレンジするのに徹夜したりして。
ラジオの時間姿が見えないと思ったら、車の中で聴衆者のふりして応援メール送ったりして。
「売れないアイドル」だった俺を、「世界一のアイドル」にすると息巻いていた人だった。

「俺のどこが好き?」と聞くと「全部」と言うくせに、俺の仕事しか見ていなかった。
「俺を俺自身として見てよ」というワガママに、いつも困っていた。
俺のワガママで、彼女と別れさせた。俺しか傍にいなくなれば、俺のこともっと見てくれると
思ったから、一人暮らしさせた。無理やり体もつなげてみた。
でもそれら全て怒らなかった。拒否もしなかった。ただ困った顔をするだけだった。

そんな彼に耐えかねて、マネージャーを変えてもらったのが、俺の最後のワガママだった。
彼は嫌がって泣いたと聞いた。
最後に挨拶に来た時も、俺は耳をふさいで顔も見なかったから、彼が最後に俺に何を伝えた
のか、知らない。手紙も渡されたが、破って捨てた。

まさかその彼が、こんなあっけなくいなくなるなんて。

「脳溢血ですって。大家さんが部屋に入ったら、もう冷たくなっていたらしいわ。
 …あの病気、若い人もなるものなのね」
新しいマネージャーは、淡々と事実を俺に伝えた。
俺はその間、ただ自分が彼にやったことだけを、考え続けていた。
俺のことばかり考えていた人。彼の手を離したのは俺。
ひとつも本心を見せない人。その最後の抵抗として、傷つけたのは俺。
彼の気持ちばかり気にして、自分の気持ちを伝えなかった俺。
「…一人で逝っちゃうなんて、寂しいわね…。あんな良い人だったのに」
あんなに良い人だったのに。その言葉が、胸を鋭角にえぐった。
信用できないなんて、心底思ったわけじゃなく、ただ否定してほしかっただけで―――
ただ俺のことだけを考えて、愛してると言ってほしかっただけで。

『どうしたら、あなたに信じてもらえるんでしょう。こんなにあなたを愛しているのに』

いつか言われた、彼の困り顔とその声が頭に響いた。
俺は、喚いていた。そうしないと、もう耐えられなかったから


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年02月09日 17:50