アットウィキロゴ
点と線

今、俺の斜め向かいで、ゼミの助教授が講義をしている。
左手で専門書を押さえ、右手の人差し指でテーブルの端を叩きながら、
小難しい顔で小難しいことを朗々と話している。

周りの奴らはそれに聞き入っていたり、ノートにペンを走らせていたりしている。
俺もノートを広げて講義に聞き入っている……振りをしている。
ノートには、講義の内容など一文字も書かれていない。

斜め向かいに視線をやって、俺は軽くため息をつく。

そりゃ、ね。
確かに俺は、周りにバレないようにしようと言いましたよ。

俺はいいとしても、向こうは社会的地位とかあるわけで。
大学で教鞭とってる人間が教え子と付き合ってるなんてバレたら、色々と問題があるし、
しかも、俺は男で相手も男なわけで、危険度は更に倍率ドン。

ところが向こうはそういうものに頓着がなかった。なさすぎた。
ゼミが終わった直後に「今日はどうする?」と聞いてこられたときは本気で眩暈がした。
本人曰く、「そうなったら、そうなったときに考えればいいだろう」とのことだったが。

「あんたはそれでいいのかもしれないけど、俺が良くない。
 あんたの講義が受けられなくなるのは嫌だ。平穏無事な学生生活が送りたい」

とか色々言って、頑固な相手にとりあえず一つ約束させた。
周りに大学関係者がいるときに恋人という立場からの呼びかけ・発言はしないこと。

とは言っても、今日の予定とか飯とかその他諸々、ちょっとした用事はお互いに出てくる。
大学にいる間、その手の用件にまで口を閉ざすのは難しいだろう。
そういう話に展開した。

俺は携帯のメールでやり取りすればいいと普通に考えてた。

だが甘かった。
俺が好きになってしまった相手は、何かが致命的にずれていた。



今、俺のノートには点と線が羅列されている。
小難しい顔で小難しいことを話している助教授の、人差し指。

(モールス信号案却下……さて、どうやって説得するかなぁ……)


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年02月09日 18:24