二人暮らし

「家賃払えなくて追い出されちったてへ」
大荷物を持ち玄関先でそう言い放った友人を数日の約束で居候させることにしたのは一ヶ月前のことだ。
今、私は彼に侵略されている。

玄関を開けるといい匂いが漂ってくる。
「おかえりーぃ」
あるかなしかの廊下を通ってキッチンへ行けば友人が大忙しで腕をふるっていた。
「すぐできるから待ってて」
言い放って再び料理に向き合った友人に頷き、うがい手洗いをしてからリビングに座りテレビをつけた。
今、私は彼に侵略されている。胃袋を。
出来たよーと明るい声がしてエプロンをつけた友人がパエリアを運んできた。スープにサラダに何だかおいしい付け合せがどんどんテーブルの上に並べられる。
その料理を皿が見覚えのないものであることに気づき彼を見ると、悪びれなく言い放った。
「料理は相応しいお皿に載せてあげなきゃいけないんだよ」
そういうものだろうか。私は美味しければどんな皿に載っていたって気にしないけれど。
しかしこれでまたセットのものが増えてしまった。彼は居候になってしまってからこっち、こんな風にどんどんペアで何かを買ってくる。食器は勿論、歯ブラシなどの日用品やクッションに至るまでこまごまと。
最初はこんなものを買うくらいなら早く新しい家を探せとせっつきもしたのだけど、ここ最近強く言えないでいる。
「ど、おいし?」
にこにこと尋ねてくる彼に言葉で返す余裕もなく、頷いてご飯を平らげる。
こちらの好みをこれでもかというくらいついてくる味付けに箸がすすみ皿の中身はどんどんなくなってゆく。
「おいしそうに食ってくれるから作りがいあるわぁ」
おかわりは?と尋ねられ、二杯目のパエリアを所望した。

美味しいご飯とこの笑顔。
居候が二人暮らしになる日も遠くなさそうだが、まぁいいかと思っている自分がいる。


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最終更新:2009年03月29日 14:52