両片思い

大城と出会ったのは大学の入学式の時。俺は一目惚れだった。
天然というか頼りないというか、大城は都会に慣れていない田舎もの丸出しで、
気になって何かと世話をやいていたら、俺を慕ってくっついてくるようになった。
俺に気がつくと嬉しそうに俺の所にかけよってくる。誇らしかった。
でも、男同士なんて保守的な田舎育ちのコイツにはありえない。一緒にいられればそれでいいと思ってた。
だが、こいつと同郷の女が同じ大学にいて、俺と親しくなるよりも明らかに早く大城と親密になってから、何かが狂った。
俺のわからない方言で早口で話す二人。俺といない時はほとんどその女といる。俺は面白くなかった。
「俺といる時と別人みたいだな」と嫌みを言ってしまったり。
女に取られるなら、酒に酔わせてやっちまおうという気にさせた。
もう親友なんてどうでもいいという自暴自棄になっていた。

翌日、俺の腕の中で抱き枕になっている大城がいた。
状況がわからずパニックになりながらも、酒に酔ってグダグダになった所までは思い出した。
予想外に大城が酒に強くて俺が先につぶれたのも思い出した。でも、それ以上の記憶がない。
「おはよう…」と大城が目を開けた。俺は慌てて手を離した。
傷ついた顔を見せたから、確実に何かやばいことをしたのだろう。
大城を帰した後で、背中に赤い線を見つけた。
キスをしたような感覚も戻ってきた。俺は血の気が引いた。

翌日、即座に謝った。
「酒に酔ったらキス魔でゴメンな」とごまかすしかなかった。
こうなるとどうでもいいと思っていた親友の座がどうにも惜しかった。
「大丈夫」という大城の顔が全然大丈夫じゃないと言っている。だが、まだ俺は側にいたい。
友情の一線は越えるわけにはいかないのだ。



清水君と初めて会ったのは大学の入学式だった。
芸能人みたいな人がいるので、さすが東京だと思った。

東京の人はみんな冷たいと聞いていたけれど、清水君はそうじゃなかった。優しい人だなあと思った。
清水君は方言で話す俺が好きじゃないらしくて、香苗ちゃんと話していると機嫌が悪かった。
香苗ちゃんは自分達を田舎ものだとバカにしているのだと言った。
それは違うと思ったけれど、彼に嫌われるのが怖くて方言を使うのはやめた。
香苗ちゃんは怒っていたけれど、やっぱり清水君が嫌なことはしたくなかった。

清水君が久しぶりに飲みに誘ってくれたので、俺は嬉しくて、ペースを考えずに飲んでしまった。
清水君は意外と酒に弱かった。ほとんど意識がなくなっていて、ベッドまで連れて行こうとしたけれど、俺より一回り大きくて大変だった。
清水君は俺ごとベッドに倒れこんだ。
「大丈夫?」と最後まで言い切るまえにキスをされた。驚いた。
口をこじ開けられて、舌を求められた。何度も何度もキスされた。
こんなことがあっていいんだろうか。酔っていてわからなくなっているんだろうかと不安になって、
「俺のこと好き…?」と聞いてみた。
「好きだよ」と返ってきた。
嬉しくて「俺もずっと前から好き」と答えた。
彼の舌が首筋から下に移っていくのを体に感じた。こんなに幸せでいいのかなと思った。
自分からも体をからませた。彼の背に爪の跡をつけた。口を吸い、体を舐めた。

翌日、彼の腕の中で目が覚めた。
服は着ているような着ていないような状態で、明るい所ではやっぱり少し恥ずかしかった。
「おはよう…」と言ったら、手を即座に離された。しまったという顔をされた。
俺は泣きそうになったけれど、これで離れていかれるのはもっと嫌だったので我慢した。
彼は何も覚えていないと言う。ベッドに運ぼうとして途中で力尽きて倒れたまま寝てしまったのだと嘘をついた。
昨日の事は俺だけが覚えていればいいと思った。
次の日、「酒に酔ったらキス魔でゴメンな」と頭を下げられた。
なんでそんなことをわざわざ言ってくるんだろう。わかってるのに。
俺とお前は友達なんだとそんなに言い聞かせなくてもいいのに。

「大丈夫」と答えたけれど、今度も泣かずにいられただろうか。自信がない。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年10月15日 14:05