オンリーワン×ナンバーワン

 まるでそれは崇拝のように。
 その造形もきわめて美しく、ひととなりは貴く、知性のかがやくあなたは常に
遠い星ぼしのように輝いていた。
 私はただ地にあり、それをみあげるだけの存在。
 その影に触れるだけでも出来ればと、力を尽くしたところで、ただひとつの才
のみを育てる事も満足に出来ず。しかしそれをうち捨てる事も出来ず。
 長く長く、ただひたすら、思いの丈をぶつけるように私は励んだ。やがてそれ
は形となり、人の知るところとなり。……それでも私は、満足のいく唯一つを、
見つけられずに。
 苦渋と研鑽のさなか、思い悩む私のもとに、あるときあなたはやって来た。

 君のその素晴らしい情熱に惹かれました、と。
 あなたは、そう言った。

 溢れる才気にひとつに留まる事のできぬあなたは、ひとつの事に打ち込み、そ
れを創り上げる私こそが羨ましいのだと、親しげな言葉をくれる。それは頂点を
極めてこその、苦悩であったろうか。
 あんなに輝いていた人にも、そんな風に悩みがあることを、私はそれで知った。
 星のように輝いていたあなたは今、私の隣に立って。同じように悩む青年の姿
で、私を、私の情熱をいとおしむようにして微笑んでくれる。
「たった一つだけに注がれる情熱は、まるで愛のようだね」
「……そのたった一つは、あなたに捧げる為のものでした。まだ、確かな形は出
来ていないけれど。あなたを知った時からずっと……いつかそれを、渡したくて」
 みあげる先にあなたの姿がある。あなたのその体温を感じる。ああ、ようやく。
私は求めるかたちを見つけられそうな気がして、ようやく告げた。
「あなたがこうして見つけてくれたから、私はようやくそれを、あなたに捧げる
ことが出来る」
 それはきっと思いの形で、たったひとつ、何もない私が差し出せるもので。
「ああ、やはりその言葉も、まるで告白のようだ」
 満足そうな笑みを浮かべたあなたがその次に言った言葉は、望外のもので。
「君の心の形をうつしたような作品を見た時から、俺は君に恋をしていた。たっ
た一つを求める君の心を占めるただ一つの存在になりたかったんだ」
 輝くような才気のひと。星のように輝くあなた。
「……けれどあなたは、私と同じものを探していたのですね」
「そうだ。そして同じ気持ちを持つ以上、私達は結ばれる事が出来るだろう」
 自然と手が触れ合った。次には肩。頬が触れ合うまではほんのわずか。きっと
その時、私もあなたとおなじように笑みを浮かべている。
 幸せな、気持ちで。

 星に手が届くなんて思ってもいなかった。
 ただその影に触れる事が出来るだけで良いと思っていた。けれど……。触れて
見ればやはり、生身の身体は温かくいとおしい。
 そうして私は、崇拝を恋情へと変えた。


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最終更新:2013年08月08日 06:00