機械化

僕は此処が大好きだ。

時折流れる機械音、鼻を突く薬品の匂い。
壁際に乱雑に置かれた、試作品達。

外ではいつも“独りきり”であったが、この部屋に帰ると組み立てた機械が、「おかえり」と言ってくれているような気がする。
そして、最近僕の帰りを待ちわびる子が一人増えたんだ。


「…おかえり」

ほぉらね、この子はちゃんと僕の事を待っててくれている。
最初はなかなか素直になってくれなかったけど、一度関係ない所を弄ってやったら大人しくなった。


「ただいま、愛しい実験体。身体の調子はどうだい?」

僕は荷物をそこら辺に投げ、可愛い可愛い機械を見つめた。
うん、いい具合に顔色が悪いじゃないか。でも昨日組み入れた機械は正常に動いている。

やっぱりアレかな、機械になりかかっているとはいえ半分は人間なんだし、ちゃんとご飯もあげた方がいいのかな。
でも必要な栄養は点滴で補給させてるんだけどなぁ。


「…おい」
考え込んでいた僕に、半分機械の子が呼び掛ける。

「…今日は改造しないのか?」
遠慮がちな声。僕はすぐさま首を振った。


「ううん、今日も改造してあげる。期限が近いからね、早くしないといけないんだ。
本当はもっと、君の体調を見ながらゆっくり仕上げたかったんだけどね」

「でも、珍しいねえ。君が催促するなんて」
僕がそう言うと、もうすぐ機械になる少年は不快そうにそっぽを向いた。


「別に…早く機械と化してしまった方が、お父様は喜ぶからな」
少年はそっぽを向いたまま喋る。
えらく辛そうだ。


「うん、依頼人のお父様ね。確かに、早く仕上げた方が嬉しがるからねえ。
…でも、君のお父様も馬鹿だよね。息子が病気で死ぬ姿なんて見たくないからって、何処の人間かも分からない僕に、機械にしてくれだなんて頼むなんて」

「確かに、機械になったら“永遠”を手にいれる。
でも、形ある物はいつか壊れるよ。いくら手間かけたからって、すぐ壊れて終わりさ」

あー、おかしい。
いくら天才の僕でも、壊れる事のない機械を造るなんて無理だよ。所詮、永遠なんて手に入らないのさ。


クスクス笑う僕に、気分を害したのか少年は眉間に皺を刻みながら吐き捨てた。


「分かっている。…だが、お父様が死ぬまでは持つようにしてくれ。
そのあとは壊れてもいいから」

――あらあらまぁ、どうしても大好きなお父様を悲しませたくないんだね。

しょうがないから、何十年も持つように頑張ってあげましょ。
永遠は無理でも、それなら天才の僕ならいけるでしょ。


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最終更新:2009年03月29日 15:53