そろそろ手袋買わなきゃなぁ
「そろそろ手袋買わなきゃなぁ」
色付き始めた、ケヤキの並木道。
そこを幼馴染みの彼と歩いている時に、耳に独り言のような言葉が滑り込んできた。
視線を向けると、彼は寒そうに首を縮め、手に息を吹き掛けている。それに微笑ましいものを覚える。
「お前って、手冷たいもんな」
「だから、冬って嫌いなんだよ‥‥‥。霜焼けとかなるしさ」
寒さで赤くなった頬とか、鼻をすする仕種とか、そんなのを可愛いって思ってるなんて、お前は知らないんだろうな。
息を吹き掛けつつこすり合わされる手を掴み、ダッフルコートのポケットの中に引き込む。
「こうすれば、暖かいだろ」
びっくりしたようにこちらを見ていた彼は、はにかんだように微笑み
「うん」
と、短い返事を返してくる。
そうして半ば強引に、家に帰るまでポケットの中で手を繋ぎ続けた。色付いた葉よりも赤い、彼の耳たぶを見つめながら。
最終更新:2010年05月24日 22:59