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「恋は渾沌の隷也」(2017/05/09 (火) 18:59:42) の最新版変更点
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ここはF-6にあるブロック塀の家の中、現在の時刻は午前1時過ぎ。
そこには二人の男性が居た。
1人は40代後半の中年男性、岩井政隆は警察官である。
階級は巡査長と低いものの、義理堅く熱い心を持った男である。
そんな彼は勿論殺し合いに乗るはずも無く、一刻も早く殺し合いを止めねばと考えている。
ではなぜ政隆がこんな所に居るかというと、その理由は2つある。
「つまり、今俺の目の前に居るのはマジシャンズ・レッドっていう名前のスタンドとかいう奴なんだな」
理由の一つは政隆に与えられた異能、スタンド『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』にある。
「スタンド」とは「パワーを持った像」であり、持ち主の傍に出現してさまざまな超常的能力を発揮し、他人を攻撃したり持ち主を守ったりする守護霊のような存在である。
その姿は人間に似たものから動物や怪物のようなもの、果ては無機物まで千差万別であり、一言で言えば超能力が具現化したものである。(Wikipediaより引用)
この知識は、ジョジョの奇妙な冒険という作品を知っているなら誰でも持っている物である。
しかし、岩井政隆はこの作品について何一つ知識を有していなかったのだ。
だから最初にマジシャンズ・レッドが現れた時は、思わず敵だと思い支給品の銃を突き付けてしまったほどである。
まあ、しばらくほっておいても何もしてこなかったので政隆はマジシャンズ・レッドを敵だと思う事は無かったのだが。
「ええ、そうです……」
そして、政隆の自身の異能を把握出来ていないという問題はこの場に居るもう一人の男によって解消された。
その男の名前は四角渡、年齢は18歳。
白髪に猫背、右目に眼帯を付けた内気な高校生だ。
彼は最初、スタート地点になったブロック塀の家の中に閉じこもっていた。
電気もつけず、ただやり過ごせればいいと考えていた。
しかし、殺し合い開始30分ほどで岩井政隆がこの家に入ってきた。
渡は最初警戒し、心を開かなかったが政隆の熱い言葉による説得でとりあえず信用した。
まずは自己紹介。そしてお互いの異能の話になり、渡は政隆にマジシャンズレ・レッドについて教えたのだった。
「いや助かったよ、俺もうおじさんだから最近の漫画とかよく分かんなくてさ」
「そんな最近じゃないですけどね、ジョジョ3部は」
「そうなの?」
「89年から92年位だったかと」
「それだったら俺知っててもおかしくないよな……。雑誌何でやってたの? ジャンプ? マガジン?」
「ジャンプです」
「そっか、俺昔読んでたのサンデーだったし知らなくてもしょうがないか……」
「サンデー派だったんですね……」
「ああ、サンデー派だった。ら○まとか好きだったんだよ俺」
(知るかよ……)
政隆は渡が内心で呆れていることも知らずに話し続ける。
しかしこの話しはすぐに打ち切られることになる。
「っ!? 危ない渡君!!」
なぜなら政隆がいきなり渡を突き飛ばし、あまつさえ圧し掛かったから。
「な、何を……!」
するんですか、と言葉の後ろに付けようとする渡。
だがその瞬間にガラスの割れる音が聞こえ、渡は押し黙る。
「攻撃されてる……!」
そして政隆の言葉が、むなしく響く。
◆
時は少し遡る。
少女、月宮埜々香は愛に生きる女である。
月宮埜々香は愛するダーリン、天草士郎を優勝させる為に他の参加者を殺そうと頑張る女である。
その埜々香は殺し合いが始まってすぐに、F-5で殺人鬼に襲い掛かるものの返り討ちに遭い、紆余曲折の末殺人鬼と支給品をエクスチェンジしてこのF-6に逃げてきたのであった。
埜々香がこのエリアに来て最初に目を付けたのはブロック塀に囲まれた家。
その家の中に気配を感じた埜々香は足音を立てないように家の周りを歩く。
そして窓を見つけ、埜々香は覗きこむ。
幸いなことに、その窓にはカーテンがかかっておらず、中の様子を見ることが出来た。
中には男が2人。1人は埜々香と同じくらいの年代の男。もう1人は警察官の制服を着た遥かに年上の男。
これを見た埜々香は不意打ちならいける、と判断した。
そして持っていた如意棒を相手から見えない様に構え、小声でこう呟く。
「伸びろ如意棒」
その言葉のままに伸びる如意棒は、警察官の男の頭へ向かって突き進む。
だがしかし、如意棒が窓ガラスを割る直前に警察官の男が攻撃に気付き床に伏せてしまった。
それを見た埜々香は慌てて如意棒を元の長さに戻しながらこう言った。
「失敗した……!」
あの殺人鬼に続いて2回も失敗するなんて、と内心で悔いる埜々香。
その時に中から二人の男の声が響く。
「この部屋は危険だ、脱出するぞ渡君!」
「脱出!?」
「そうだ脱出だ、急げ!」
そしてバタバタと足音が響き、遠ざかる。
逃げられた、と埜々香は思うが次の瞬間それどころじゃないことに気付く。
「拙い……!」
割れたガラスの方向から攻撃してきた方向を読み解くくらい自分でもできる。
なら相手がそれをできない道理は無い。
「逃げなきゃ……!」
どこへ?
この家はブロック塀に囲まれている。
逃げるなら玄関前しかないが、そこへ至る道をふさぐことは十分可能だ。
何せ相手は二人だ。二手に分かれて片方ずつから攻め込めば逃げ場を奪うのは容易。
ならこの塀を乗り越える?
如意棒を使えばそう難しいことでは無いかもしれないが、それは瞬時に行えることではない。
「見つけたぞ!」
そうこう悩んでいるうちに、2人の男の内警察官の方が埜々香を見つける。
その男の手には拳銃が握られており、それは埜々香の方を向いている。
男は言う。
「その棒とデイバッグを捨てて手を挙げるんだ、そうすれば撃ったりはしない」
男の言葉を聞いて埜々香は考える。
どうする? 素直に言う事を聞くか、それとも抵抗するか。
素直に従うなら命は大丈夫だと思う。相手はおそらく警察官、そんな無闇矢鱈に容疑者を殺したりはしないだろう。
この状況だとその考えも甘いかもしれないが。
そして抵抗するならリスクは大きい。
問答無用で撃ってこなかった以上相手は殺し合いに乗ってないと考えていい。
とはいえ何かの弾みで引き金に手がかかれば躱す手段は自分にはない。
それ以前に勝てる可能性も少ない。
だったら
「分かったわ」
埜々香は男の言葉に答え、デイバッグと如意棒を地面に捨て手を頭の上に置く。
これは賭け、たとえこの男が私を殺す気が無くても、もう1人は殺そうとするかもしれない。
その時になったら武器も何もない私に出来ることは何もない。
だからこれは賭け、私が死ぬか生きるかの大博打。
そんな埜々香の内心も知らず、男は言う。
「抵抗しないでくれてよかった、じゃあ両手を前に出して」
その言葉に埜々香は素直に従う。
すると男は自分の持っていたデイバッグから手錠を取り出し、埜々香に掛ける。
「悪いが拘束させてもらう、異論はないな?」
「ええ」
そう会話した二人は、男の先導で家の中に入って行った。
◆
政隆が埜々香と対峙していた時、渡は玄関前に立っていた。
本来なら自分も反対側から向かおうと思っていた渡だったが、政隆が警官としての立場からか止めたのだ。
だから渡はこうしてやきもきしながら待っている。
そして少しすると、政隆が手錠のかかった少女を連れてきた。
その少女を見て渡が最初に思ったことは、不気味な女、だった。
服装はセーラー服と普通だ。
だが着ている本人が異様だ。
整っているように見えるが、だからこそ濃い目の隈が目立つ。
さらに言うなら見た目が昔テレビで見た貞○にそっくりなせいか、雰囲気が尋常じゃ無く薄気味悪い。
人づきあいが殆どなく、人を見る目なんてものに自信が無い俺ですらそう思う。
ならば警察官である岩井さんはどう思うのか、などと渡が考えていると政隆が話しかける。
「これからこの子と話をする、渡君も来てくれ」
「俺も、ですか?」
表向きは疑問を呈するような言い方だが、渡としては正直行きたくなかった。
異様な雰囲気を持つ人間と好き好んで話をしたいとは誰も思わない。
とはいえその辺りの心の機微を政隆は察している様だ。
「渡君の言いたいことは分かる。だから話をするときは俺の後ろに居てくれ。
だが俺としては君を一人にするのは論外だし、かと言ってまだ子供のこの少女を見捨てる気は無いんだ」
「分かりましたよ……」
政隆の説得に折れた渡は一緒についていこうとする。
しかしその前にあることを尋ねた。
「ところで岩井さん」
「何だ?」
「話しって、どこでするつもりですか?」
「そうだな、この家の二階が妥当なところか」
「分かりました」
そう言って二人は少女を引き連れブロック塀の家に入り、2階の部屋に付く。
そこで少女を床に座らせ、2人は立ったまま少女を見る。
そして政隆が口を開いた。
「まずは、君の名前は?」
「……月宮埜々香」
「埜々香ちゃんか。
じゃあ次の質問はこれだ、何で俺達を殺そうとした?」
政隆が語りかけ、埜々香は言葉を少なくして答える。
それを見て渡は、こいつ案外普通だなと思う。
いまだに薄気味悪いが、それは見た目だけかもしれない。
だが次の瞬間にその評価は一転する。
「愛よ」
「……は?」
埜々香の言葉に思わず声が出る渡。
その対応が気に入らないのか、さっきまでの静かさとは打って変わって埜々香は声を荒げる。
「愛よ! 私のダーリンへの愛の為にあなた達には死んでもらわなきゃ困るのよ!」
「何故そこで愛ッ!?」
「だってダーリンは人殺しなんか出来ないもん!
ダーリンは優しくてかっこいいから絶対殺し合いなんか乗らないもん!
でもあのナオ・ヒューマに勝つ手段なんて見つからないし、じゃあダーリン以外殺すしかないじゃない!!」
当然のことのように言い切る埜々香。
それを見て渡は言葉を失った。
一方、政隆は何とか絞り出すかのように問いかける。
「その、ダーリンってのは月宮ちゃんの言う様な方法で生き残って、喜ぶような奴なのか?」
「喜ぶわけないでしょダーリンを馬鹿にしてるの!?
ダーリンが人の死体の上で生きて喜ぶような人なわけない!!
むしろ悲しくて目一杯泣くに決まってるわ!!
でも生きていて欲しいもん! 例えダーリン以外の全てが地獄に落ちてもダーリンだけは守りたいの!!」
「……」
埜々香の余りにも覚悟の決めた言葉に、今度は政隆も言葉を失う。
そんな2人の態度を見て埜々香は一言。
「何? 文句なら聞くわよ。改めないけど!
だって愛は何よりも尊いから、素晴らしいから。
法律よりも倫理道徳よりも人命よりも優先されて当然でしょ?
どこかで人の命は地球より重いって聞いたけど、それならダーリンは宇宙の全てより重いわ」
「イカれてやがる……」
埜々香の想像外過ぎる言動に渡はやっとまともな言葉を発する。
その言葉に埜々香は心底不思議そうな態度でこう返した。
「あなた、人を好きなったことないの?」
「……あるさ、だったらなんだよ」
「じゃあ分からない? 大事な人がこんな危険な場所に居たら絶対守らなきゃって思わない?
その結果好きな人に嫌われるかもしれないけど、だからといってみすみす死にそうな方向に行かせるのはおかしいって気づかない?」
「そんなの……」
その言葉を聞いて渡が思うのは数日前に出会った少女、名前は天草ゆたか。
全く見知らぬ自分の荷物を拾ってくれた優しい女の子、そしてラブレターを渡そうと思ったけど渡せていない女の子。
こんなことになるならちゃんと渡しておけばよかった。
そう思ってしまう物の、今はそれどころじゃ無い。
そしてもう一つ、俺はこの月宮埜々香がちょっとだけ羨ましい。
例え俺は天草ゆたかの名前が名簿に浮かび上がっても、こいつと同じ行動はとれないだろうから。
なぜって、俺には人を殺せる気がしないから。
「……」
「渡君、一旦部屋の外へ行こう」
自分の思考に囚われていた渡に政隆は声をかける。
そして二人は埜々香を置いて部屋の外へ行き、1階と2階をつなぐ階段に二人して座り込む。
「なあ渡君、これまで俺は警官としてそれなりに自信があったんだ」
「はぁ……」
「自慢じゃないけど地域住民にそれなりに慕われてさ。
時には銀行強盗を説得したことだってある」
「それは、すごいですね」
「でも俺は埜々香ちゃんを説得できる気がしない」
政隆の口から弱音が飛び出し、渡は一瞬だけ驚くがすぐに納得する。
何せ相手が悪い、これを岩井さんの力不足とするのは間違っている。
そう思い渡は何とか慰めようとした。
「岩井さんのせいじゃありませんよ。
あんなのは一部の例外です。BA○ARAXならオクラみたいなものです」
「すまん、その例えはよく分からない」
「ですよね」
そんな会話でほんの僅かだが和やかになる2人。
しかし雰囲気はすぐに戻り、渡は政隆に問う。
「それで、どうします月宮を? この家に縛って置いていきます?」
「いやそれはダメだ。この家に他の人が来た場合の事を考えるとな。
それにこのエリアが禁止エリアになったら埜々香ちゃんが死んでしまう」
「……改心させられないと思っている相手でも、見捨てないんですね」
「ああ、俺は警察官だからな」
政隆の迷いのない断言に、渡は思わず感心する。
「だがずっと見張っているわけにはいかない」
「それは、まあ……」
そうなのかもしれない、と渡は思うが同時にこうも思った。
この殺し合いの中に月宮以上の危険人物がいるとは思えない。
その思いを政隆に告げたら帰ってきた答えに渡は驚愕する。
「いや、ひょっとしたらこの殺し合いには殺人鬼が潜んでいるかもしれない」
「殺人鬼!?」
そして政隆は語り始める、聞くもおぞましいある事件を。
16年前、当時12歳の少年が1人の教師と4人の同級生を殺害する事件が起きた。
しかもそれは1人づつ殺害されており、更には解体されていた。
その事件は計画的なもので、当時のニュースや新聞を賑わせた。
「そしてその犯人、網空仙一を逮捕したのが俺なんだ……」
「すごいですね、ってまさか……!」
「ああ、居たんだ。16年前と変わらない姿であそこに!」
「は?」
予想通りの言葉と、予想外の言葉が同時に飛び出てきて語彙力を失う渡。
それでも必要なことはちゃんと聞いた。
「え? 同じ姿? 16年前ですよね?」
「ああ、だから俺も別人かもしれないと思っているんだが……」
「だが?」
「別人と決めるにはあいつは同じすぎる……!」
「……探します?」
政隆の思いつめたかのような態度に、渡は思わず捜索を提案してしまった。
一方の政隆はそれを聞いて頷く。
「そうだな、探そう。
もしいれば捕まえるし、俺の思い違いならそれでいい。
渡君もついてきてくれるか?」
「勿論、こんな状況で一人になるのは嫌ですから」
「ありがとう渡君。じゃあ早速埜々香ちゃんを呼んできて出発しよう」
やっぱり連れて行くのか、その言葉を渡はかろうじて飲み込んだ。
しかし、不安げな表情は隠せなかった。
◆
一人部屋に残された埜々香は、声に出さないものの小さな笑みを浮かべていた。
まだよ、まだ私は生きている。
なら十分。これならまだ私はダーリンへの愛を貫ける。
……とりあえず、まずはこの手錠を外す方法を考えなきゃ。
月宮埜々香は諦めない。
例え他の何かで妥協したり、退くことはあっても己の愛を貫くことだけは諦めない。
ダーリンへの愛がある限り、月宮埜々香は不屈なのだ。
「それにしても」
何であの2人、私がダーリンへの愛を語っただけで私を化物を見るみたいで見るのかしら。
あの腐れ殺人鬼は、そんなことなかったのに。
「殺人鬼の方が会話が通じるなんて、世も末ね」
そして月宮埜々香は気づかない。
自らの歪みに、自らの危険性に。
【一日目・2時00分/F-6 ブロック塀の家の中】
【岩井政隆@魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)/ジョジョの奇妙な冒険 Part3スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~1)、如意棒@ドラゴンボール、月宮埜々香のデイバッグ(基本支給品、不明支給品(0~2))
[思考・行動]
基本方針:警察官としてナオ・ヒューマを逮捕し、殺し合いを終わらせる
1:渡君と埜々香ちゃんを連れて、網空仙一を探す。居ないならそれでいい
2:埜々香ちゃんを改心させられる気がしない
[備考]
※自身の異能を把握しました
※網空仙一(丹美寧斗)を目撃しましたが、別人の可能性も考えています
【四角渡@三つのしもべの召喚と使役/バビル二世】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品(1~3)
[思考・行動]
基本方針:岩井さんと一緒に行動する
1:岩井さんが心配
2:月宮埜々香がちょっとだけ羨ましい、が一緒に居たくはない
[備考]
※岩井政隆の異能を把握しました
【月宮埜々香@ペテルギウス・ロマネコンティの怠惰の権能と憑依能力/Re:ゼロから始まる異世界生活】
[状態]:健康、手錠を掛けられている
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針: どんな手を使ってでもダーリンを守る
1:諦めない、まずは手錠を外す方法を考える。
2:あの殺人鬼の方が会話が通じるなんて、世も末ね
[備考]
※天草士郎の参加を把握しています
※笹原卓の名前を知りません
|[[さあここに築いて見せろ 天に届く死体(ヒト)の山を]]|時系列順||
|[[さあここに築いて見せろ 天に届く死体(ヒト)の山を]]|投下順||
|&color(blue){GAME START}|岩井政隆||
|&color(blue){GAME START}|四角渡||
|[[愛のままにわがままにこの二人は自分の都合しか考えない]]|月宮埜々香||
ここはF-6にあるブロック塀の家の中、現在の時刻は午前1時過ぎ。
そこには二人の男性が居た。
1人は40代後半の中年男性、岩井政隆は警察官である。
階級は巡査長と低いものの、義理堅く熱い心を持った男である。
そんな彼は勿論殺し合いに乗るはずも無く、一刻も早く殺し合いを止めねばと考えている。
ではなぜ政隆がこんな所に居るかというと、その理由は2つある。
「つまり、今俺の目の前に居るのはマジシャンズ・レッドっていう名前のスタンドとかいう奴なんだな」
理由の一つは政隆に与えられた異能、スタンド『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』にある。
「スタンド」とは「パワーを持った像」であり、持ち主の傍に出現してさまざまな超常的能力を発揮し、他人を攻撃したり持ち主を守ったりする守護霊のような存在である。
その姿は人間に似たものから動物や怪物のようなもの、果ては無機物まで千差万別であり、一言で言えば超能力が具現化したものである。(Wikipediaより引用)
この知識は、ジョジョの奇妙な冒険という作品を知っているなら誰でも持っている物である。
しかし、岩井政隆はこの作品について何一つ知識を有していなかったのだ。
だから最初にマジシャンズ・レッドが現れた時は、思わず敵だと思い支給品の銃を突き付けてしまったほどである。
まあ、しばらくほっておいても何もしてこなかったので政隆はマジシャンズ・レッドを敵だと思う事は無かったのだが。
「ええ、そうです……」
そして、政隆の自身の異能を把握出来ていないという問題はこの場に居るもう一人の男によって解消された。
その男の名前は四角渡、年齢は18歳。
白髪に猫背、右目に眼帯を付けた内気な高校生だ。
彼は最初、スタート地点になったブロック塀の家の中に閉じこもっていた。
電気もつけず、ただやり過ごせればいいと考えていた。
しかし、殺し合い開始30分ほどで岩井政隆がこの家に入ってきた。
渡は最初警戒し、心を開かなかったが政隆の熱い言葉による説得でとりあえず信用した。
まずは自己紹介。そしてお互いの異能の話になり、渡は政隆にマジシャンズレ・レッドについて教えたのだった。
「いや助かったよ、俺もうおじさんだから最近の漫画とかよく分かんなくてさ」
「そんな最近じゃないですけどね、ジョジョ3部は」
「そうなの?」
「89年から92年位だったかと」
「それだったら俺知っててもおかしくないよな……。雑誌何でやってたの? ジャンプ? マガジン?」
「ジャンプです」
「そっか、俺昔読んでたのサンデーだったし知らなくてもしょうがないか……」
「サンデー派だったんですね……」
「ああ、サンデー派だった。ら○まとか好きだったんだよ俺」
(知るかよ……)
政隆は渡が内心で呆れていることも知らずに話し続ける。
しかしこの話しはすぐに打ち切られることになる。
「っ!? 危ない渡君!!」
なぜなら政隆がいきなり渡を突き飛ばし、あまつさえ圧し掛かったから。
「な、何を……!」
するんですか、と言葉の後ろに付けようとする渡。
だがその瞬間にガラスの割れる音が聞こえ、渡は押し黙る。
「攻撃されてる……!」
そして政隆の言葉が、むなしく響く。
◆
時は少し遡る。
少女、月宮埜々香は愛に生きる女である。
月宮埜々香は愛するダーリン、天草士郎を優勝させる為に他の参加者を殺そうと頑張る女である。
その埜々香は殺し合いが始まってすぐに、F-5で殺人鬼に襲い掛かるものの返り討ちに遭い、紆余曲折の末殺人鬼と支給品をエクスチェンジしてこのF-6に逃げてきたのであった。
埜々香がこのエリアに来て最初に目を付けたのはブロック塀に囲まれた家。
その家の中に気配を感じた埜々香は足音を立てないように家の周りを歩く。
そして窓を見つけ、埜々香は覗きこむ。
幸いなことに、その窓にはカーテンがかかっておらず、中の様子を見ることが出来た。
中には男が2人。1人は埜々香と同じくらいの年代の男。もう1人は警察官の制服を着た遥かに年上の男。
これを見た埜々香は不意打ちならいける、と判断した。
そして持っていた如意棒を相手から見えない様に構え、小声でこう呟く。
「伸びろ如意棒」
その言葉のままに伸びる如意棒は、警察官の男の頭へ向かって突き進む。
だがしかし、如意棒が窓ガラスを割る直前に警察官の男が攻撃に気付き床に伏せてしまった。
それを見た埜々香は慌てて如意棒を元の長さに戻しながらこう言った。
「失敗した……!」
あの殺人鬼に続いて2回も失敗するなんて、と内心で悔いる埜々香。
その時に中から二人の男の声が響く。
「この部屋は危険だ、脱出するぞ渡君!」
「脱出!?」
「そうだ脱出だ、急げ!」
そしてバタバタと足音が響き、遠ざかる。
逃げられた、と埜々香は思うが次の瞬間それどころじゃないことに気付く。
「拙い……!」
割れたガラスの方向から攻撃してきた方向を読み解くくらい自分でもできる。
なら相手がそれをできない道理は無い。
「逃げなきゃ……!」
どこへ?
この家はブロック塀に囲まれている。
逃げるなら玄関前しかないが、そこへ至る道をふさぐことは十分可能だ。
何せ相手は二人だ。二手に分かれて片方ずつから攻め込めば逃げ場を奪うのは容易。
ならこの塀を乗り越える?
如意棒を使えばそう難しいことでは無いかもしれないが、それは瞬時に行えることではない。
「見つけたぞ!」
そうこう悩んでいるうちに、2人の男の内警察官の方が埜々香を見つける。
その男の手には拳銃が握られており、それは埜々香の方を向いている。
男は言う。
「その棒とデイバッグを捨てて手を挙げるんだ、そうすれば撃ったりはしない」
男の言葉を聞いて埜々香は考える。
どうする? 素直に言う事を聞くか、それとも抵抗するか。
素直に従うなら命は大丈夫だと思う。相手はおそらく警察官、そんな無闇矢鱈に容疑者を殺したりはしないだろう。
この状況だとその考えも甘いかもしれないが。
そして抵抗するならリスクは大きい。
問答無用で撃ってこなかった以上相手は殺し合いに乗ってないと考えていい。
とはいえ何かの弾みで引き金に手がかかれば躱す手段は自分にはない。
それ以前に勝てる可能性も少ない。
だったら
「分かったわ」
埜々香は男の言葉に答え、デイバッグと如意棒を地面に捨て手を頭の上に置く。
これは賭け、たとえこの男が私を殺す気が無くても、もう1人は殺そうとするかもしれない。
その時になったら武器も何もない私に出来ることは何もない。
だからこれは賭け、私が死ぬか生きるかの大博打。
そんな埜々香の内心も知らず、男は言う。
「抵抗しないでくれてよかった、じゃあ両手を前に出して」
その言葉に埜々香は素直に従う。
すると男は自分の持っていたデイバッグから手錠を取り出し、埜々香に掛ける。
「悪いが拘束させてもらう、異論はないな?」
「ええ」
そう会話した二人は、男の先導で家の中に入って行った。
◆
政隆が埜々香と対峙していた時、渡は玄関前に立っていた。
本来なら自分も反対側から向かおうと思っていた渡だったが、政隆が警官としての立場からか止めたのだ。
だから渡はこうしてやきもきしながら待っている。
そして少しすると、政隆が手錠のかかった少女を連れてきた。
その少女を見て渡が最初に思ったことは、不気味な女、だった。
服装はセーラー服と普通だ。
だが着ている本人が異様だ。
整っているように見えるが、だからこそ濃い目の隈が目立つ。
さらに言うなら見た目が昔テレビで見た貞○にそっくりなせいか、雰囲気が尋常じゃ無く薄気味悪い。
人づきあいが殆どなく、人を見る目なんてものに自信が無い俺ですらそう思う。
ならば警察官である岩井さんはどう思うのか、などと渡が考えていると政隆が話しかける。
「これからこの子と話をする、渡君も来てくれ」
「俺も、ですか?」
表向きは疑問を呈するような言い方だが、渡としては正直行きたくなかった。
異様な雰囲気を持つ人間と好き好んで話をしたいとは誰も思わない。
とはいえその辺りの心の機微を政隆は察している様だ。
「渡君の言いたいことは分かる。だから話をするときは俺の後ろに居てくれ。
だが俺としては君を一人にするのは論外だし、かと言ってまだ子供のこの少女を見捨てる気は無いんだ」
「分かりましたよ……」
政隆の説得に折れた渡は一緒についていこうとする。
しかしその前にあることを尋ねた。
「ところで岩井さん」
「何だ?」
「話しって、どこでするつもりですか?」
「そうだな、この家の二階が妥当なところか」
「分かりました」
そう言って二人は少女を引き連れブロック塀の家に入り、2階の部屋に付く。
そこで少女を床に座らせ、2人は立ったまま少女を見る。
そして政隆が口を開いた。
「まずは、君の名前は?」
「……月宮埜々香」
「埜々香ちゃんか。
じゃあ次の質問はこれだ、何で俺達を殺そうとした?」
政隆が語りかけ、埜々香は言葉を少なくして答える。
それを見て渡は、こいつ案外普通だなと思う。
いまだに薄気味悪いが、それは見た目だけかもしれない。
だが次の瞬間にその評価は一転する。
「愛よ」
「……は?」
埜々香の言葉に思わず声が出る渡。
その対応が気に入らないのか、さっきまでの静かさとは打って変わって埜々香は声を荒げる。
「愛よ! 私のダーリンへの愛の為にあなた達には死んでもらわなきゃ困るのよ!」
「何故そこで愛ッ!?」
「だってダーリンは人殺しなんか出来ないもん!
ダーリンは優しくてかっこいいから絶対殺し合いなんか乗らないもん!
でもあのナオ・ヒューマに勝つ手段なんて見つからないし、じゃあダーリン以外殺すしかないじゃない!!」
当然のことのように言い切る埜々香。
それを見て渡は言葉を失った。
一方、政隆は何とか絞り出すかのように問いかける。
「その、ダーリンってのは月宮ちゃんの言う様な方法で生き残って、喜ぶような奴なのか?」
「喜ぶわけないでしょダーリンを馬鹿にしてるの!?
ダーリンが人の死体の上で生きて喜ぶような人なわけない!!
むしろ悲しくて目一杯泣くに決まってるわ!!
でも生きていて欲しいもん! 例えダーリン以外の全てが地獄に落ちてもダーリンだけは守りたいの!!」
「……」
埜々香の余りにも覚悟の決めた言葉に、今度は政隆も言葉を失う。
そんな2人の態度を見て埜々香は一言。
「何? 文句なら聞くわよ。改めないけど!
だって愛は何よりも尊いから、素晴らしいから。
法律よりも倫理道徳よりも人命よりも優先されて当然でしょ?
どこかで人の命は地球より重いって聞いたけど、それならダーリンは宇宙の全てより重いわ」
「イカれてやがる……」
埜々香の想像外過ぎる言動に渡はやっとまともな言葉を発する。
その言葉に埜々香は心底不思議そうな態度でこう返した。
「あなた、人を好きなったことないの?」
「……あるさ、だったらなんだよ」
「じゃあ分からない? 大事な人がこんな危険な場所に居たら絶対守らなきゃって思わない?
その結果好きな人に嫌われるかもしれないけど、だからといってみすみす死にそうな方向に行かせるのはおかしいって気づかない?」
「そんなの……」
その言葉を聞いて渡が思うのは数日前に出会った少女、名前は天草ゆたか。
全く見知らぬ自分の荷物を拾ってくれた優しい女の子、そしてラブレターを渡そうと思ったけど渡せていない女の子。
こんなことになるならちゃんと渡しておけばよかった。
そう思ってしまう物の、今はそれどころじゃ無い。
そしてもう一つ、俺はこの月宮埜々香がちょっとだけ羨ましい。
例え俺は天草ゆたかの名前が名簿に浮かび上がっても、こいつと同じ行動はとれないだろうから。
なぜって、俺には人を殺せる気がしないから。
「……」
「渡君、一旦部屋の外へ行こう」
自分の思考に囚われていた渡に政隆は声をかける。
そして二人は埜々香を置いて部屋の外へ行き、1階と2階をつなぐ階段に二人して座り込む。
「なあ渡君、これまで俺は警官としてそれなりに自信があったんだ」
「はぁ……」
「自慢じゃないけど地域住民にそれなりに慕われてさ。
時には銀行強盗を説得したことだってある」
「それは、すごいですね」
「でも俺は埜々香ちゃんを説得できる気がしない」
政隆の口から弱音が飛び出し、渡は一瞬だけ驚くがすぐに納得する。
何せ相手が悪い、これを岩井さんの力不足とするのは間違っている。
そう思い渡は何とか慰めようとした。
「岩井さんのせいじゃありませんよ。
あんなのは一部の例外です。BA○ARAXならオクラみたいなものです」
「すまん、その例えはよく分からない」
「ですよね」
そんな会話でほんの僅かだが和やかになる2人。
しかし雰囲気はすぐに戻り、渡は政隆に問う。
「それで、どうします月宮を? この家に縛って置いていきます?」
「いやそれはダメだ。この家に他の人が来た場合の事を考えるとな。
それにこのエリアが禁止エリアになったら埜々香ちゃんが死んでしまう」
「……改心させられないと思っている相手でも、見捨てないんですね」
「ああ、俺は警察官だからな」
政隆の迷いのない断言に、渡は思わず感心する。
「だがずっと見張っているわけにはいかない」
「それは、まあ……」
そうなのかもしれない、と渡は思うが同時にこうも思った。
この殺し合いの中に月宮以上の危険人物がいるとは思えない。
その思いを政隆に告げたら帰ってきた答えに渡は驚愕する。
「いや、ひょっとしたらこの殺し合いには殺人鬼が潜んでいるかもしれない」
「殺人鬼!?」
そして政隆は語り始める、聞くもおぞましいある事件を。
16年前、当時12歳の少年が1人の教師と4人の同級生を殺害する事件が起きた。
しかもそれは1人づつ殺害されており、更には解体されていた。
その事件は計画的なもので、当時のニュースや新聞を賑わせた。
「そしてその犯人、網空仙一を逮捕したのが俺なんだ……」
「すごいですね、ってまさか……!」
「ああ、居たんだ。16年前と変わらない姿であそこに!」
「は?」
予想通りの言葉と、予想外の言葉が同時に飛び出てきて語彙力を失う渡。
それでも必要なことはちゃんと聞いた。
「え? 同じ姿? 16年前ですよね?」
「ああ、だから俺も別人かもしれないと思っているんだが……」
「だが?」
「別人と決めるにはあいつは同じすぎる……!」
「……探します?」
政隆の思いつめたかのような態度に、渡は思わず捜索を提案してしまった。
一方の政隆はそれを聞いて頷く。
「そうだな、探そう。
もしいれば捕まえるし、俺の思い違いならそれでいい。
渡君もついてきてくれるか?」
「勿論、こんな状況で一人になるのは嫌ですから」
「ありがとう渡君。じゃあ早速埜々香ちゃんを呼んできて出発しよう」
やっぱり連れて行くのか、その言葉を渡はかろうじて飲み込んだ。
しかし、不安げな表情は隠せなかった。
◆
一人部屋に残された埜々香は、声に出さないものの小さな笑みを浮かべていた。
まだよ、まだ私は生きている。
なら十分。これならまだ私はダーリンへの愛を貫ける。
……とりあえず、まずはこの手錠を外す方法を考えなきゃ。
月宮埜々香は諦めない。
例え他の何かで妥協したり、退くことはあっても己の愛を貫くことだけは諦めない。
ダーリンへの愛がある限り、月宮埜々香は不屈なのだ。
「それにしても」
何であの2人、私がダーリンへの愛を語っただけで私を化物を見るみたいで見るのかしら。
あの腐れ殺人鬼は、そんなことなかったのに。
「殺人鬼の方が会話が通じるなんて、世も末ね」
そして月宮埜々香は気づかない。
自らの歪みに、自らの危険性に。
【一日目・2時00分/F-6 ブロック塀の家の中】
【岩井政隆@魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)/ジョジョの奇妙な冒険 Part3スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(5/5)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~1)、如意棒@ドラゴンボール、月宮埜々香のデイバッグ(基本支給品、不明支給品(0~2))
[思考・行動]
基本方針:警察官としてナオ・ヒューマを逮捕し、殺し合いを終わらせる
1:渡君と埜々香ちゃんを連れて、網空仙一を探す。居ないならそれでいい
2:埜々香ちゃんを改心させられる気がしない
[備考]
※自身の異能を把握しました
※網空仙一(丹美寧斗)を目撃しましたが、別人の可能性も考えています
【四角渡@三つのしもべの召喚と使役/バビル二世】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品(1~3)
[思考・行動]
基本方針:岩井さんと一緒に行動する
1:岩井さんが心配
2:月宮埜々香がちょっとだけ羨ましい、が一緒に居たくはない
[備考]
※岩井政隆の異能を把握しました
【月宮埜々香@ペテルギウス・ロマネコンティの怠惰の権能と憑依能力/Re:ゼロから始まる異世界生活】
[状態]:健康、手錠を掛けられている
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針: どんな手を使ってでもダーリンを守る
1:諦めない、まずは手錠を外す方法を考える。
2:あの殺人鬼の方が会話が通じるなんて、世も末ね
[備考]
※天草士郎の参加を把握しています
※笹原卓の名前を知りません
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|&color(blue){GAME START}|岩井政隆||
|&color(blue){GAME START}|四角渡||
|[[愛のままにわがままにこの二人は自分の都合しか考えない]]|月宮埜々香||