氷の墓標 一柳和、3度目の受難
【こおりのはか いちやなぎなごむ、さんどめのじゅなん】
ジャンル |
本格推理アドベンチャー |
機種 |
PSP |
発売元 |
日本一ソフトウェア |
発売日 |
2010/03/06 |
メディア |
DVD-ROM1枚 |
プレイ状況 |
バッド含め全エンディング制覇 |
総合評価 |
E |
推理は連鎖する
主人公「一柳和」は、友人で俳優の「高遠日織」とある城を訪れる。
ルロイ伯爵家の遠縁に当たる伯爵家のその城では、3人の相続人候補者が集っていた。
湖に浮かぶ館を舞台に、3度目の事件の幕が上がる。和と相棒の日織はすべてを知ることが出来るのか?
システム
「好感度」
シリーズおなじみのシステム。冒頭で各キャラクターと会話する機会があり、その会話の結果(つまり第一印象)によって、一度の自由行動で「会話」出来る回数が変化する。好感度が低くなると、立ち絵もバストアップから全身と距離感のあるものになり、台詞も突き放したものに変化。必然的に得られる情報量も減る。
「展開、犯人が変わる」
展開により、和と推理するパートナー、犯人が変わる。シナリオは選択肢、フラグにより分岐する。
「アクションゲージ」
自由時間に移動、会話、調べるなどの行動をすると「アクションゲージ」が消費される。ゲージが無くなると自由行動が終了し、ストーリーが進む。
移動は、見取り図から行き先を指定する「MAP移動」と、3Dマップ上を自分視点で移動する方式2種類。
調べる行為については、画面上のカーソルを動かして箇所を指定する方式。
「キーワード会話」
キャラクターとキーワードを選択して会話、情報を引き出すことができる。キーワードは展開や調査などで入手できる。キャラクターが教えてくれる情報は和への好感度によって左右される。
「情報整理」
調査や会話などで入手した情報は、「和メモ」に登録されていく。また、フリー移動中にいつでも「アリバイ表」に情報を記入できる。証言を基に各キャラクターの行動を記入。正しく記入すれば犯人の特定はもちろん、証拠として使用できるようになる。
問題点
高速スキップ(選択肢で停止)は確かに高速だが、「次の選択肢まで飛ばす」ことができない。推理ものでこれはきつい。チャート機能もまともに使えないし。
捜査期間が3日で、約一週間だった前々作や前作より大分短い。
1日目に小さな事件とかクローズドサークル化とか死ぬほど前振りがあって終了。2日目からやっとまともな捜査ができうようになる。しかし、2日目すら「キーワード会話」で分岐条件満たすの必死になって終わってしまう。しかもそのフラグ立てが稀に見るほどシビアで、シリーズ恒例のくだらないこと聞いたりして遊ぶ余裕なし。ちょっと間違ったキーワードで会話しただけで時間が足りなくなるとか、会話可能回数が足りなくなるとかザラ。計算し尽くして巡回しなきゃいけない。キッツキツのスケジュールに追われフラグをギリギリで立てなきゃいけないとか苦行以外の何者でもない。
分岐が前作より大幅に減った。
キャラ数も日程も減っているので仕方ないのかも知れないが、劣化もいいところ。また、フラグ立てが殆ど「2日目」に行われるため、各ルート入りフラグがそれぞれかぶってたり、逆に満たしてはダメだったりと、攻略を見なくてはまず不可能な理不尽さ(例えば1ルートと2ルートに入るフラグAは共通だが、3ルートではAを満たしてはいけないとか)。それぞれ全然絡まない条件でシンプルに各ルートに入れるようにすればよかったものを。
ちなみにどのルートの分岐条件も満たしてないと、3日目に意味もわからず強制終了。しかもこの場合、イージーモードオンにしてると出るゲームオーバー後のヒントがまったく役に立たない。見当はずれのフラグについてしか言及しない。製作ミス?
大体フラグ立て条件の捜査が「2日目」ってどうなのか?登場人物の人となりを知る前に、事件につながるキーワードを絞って質問しろ!!という無茶ぶり。周回プレイ前提なんだろうか?ふざけてるとしか思えない。
今回のキャラはいまいち魅力に欠ける。キャラゲー的な一面を持つこのシリーズでは痛かったと思う。ゲーム内の日数が少ないので描写不足+ギスギス設定なので悪い面ばかりが目に付く、という状態に陥っているためと思われる。よってそいつと組むルートに入っても嫌悪感がだけが募る。
そもそもストーリーが微妙。せっかく殺人事件が起きても、話の流れ的に犯人が丸分かりで推理する必要すらないって…これは推理モノとしてどうなのか?
各キャラルートは「死人なしグッド」と「殺人のあるバッド」に分岐する。さらにバッドからさらに「ゲームオーバー」と「バッドエンド」とに分岐する。
ネタバレをできるだけ避けて書ける範囲で書くが、この「殺人のあるバッド」だと、話の流れで明らかに怪しい奴がいる。状況的にも挙動的にも犯人確定。怪しいそいつを追い込むために、殺人後一日、またはその日の午後のみを使ってキーワード会話しまくる。つまりただそれらしいキーワードをいろんな人にぶつけて会話するだけ。で、犯人選択で追い詰め推理・・・って推理してねえじゃん!!!
つまり何が言いたいかというと、推理要素については奈落より酷い、ということ。
奈落はラストのオチが非難されたが、それなりに推理ものしてたと思う。しかし今回のは推理するまでもないのである。正直推理ものを名乗るのもおこがましいと思う。散々煽ってた新システム「分岐によって犯人・被害者の関係が変わる!」ってこれかよと。要するに、ただ誰と組むかが分岐で変わり、グッドとバッドが選択で変わるだけ。ちなみに被害者加害者はルートで固定。
個人的に最も痛かったのが、シリーズ伝統、「連続殺人が起きる中、次の犠牲者を助けて犯行を阻止!」って売りが消滅。連続殺人自体が発生しない。予想要素も阻止要素もなし。推理も前述の通り作業に過ぎない。
良い点
システム面は前作から大進歩。格段に快適になった。
なんと、証言が自動でメモされていく(和メモ)。前作が「画面のこっち側で実際にメモを取らせる仕様」だったのに比べて素晴らしい進歩!!!メニューからいつでも確認可能。
また、攻略が格段に楽になる(ペナルティーなし)イージーモードを初搭載。イージーだと
●ゲームオーバー後にヒントメッセージが出る
●キーワードの重要度によって、色が変化するので(状況によりきちんと変化)どれがフラグなのか目安になる
●現場調べの時に、重要な物証にカーソルを合わせるとカーソルの色が変化するので、基本的にはこちらのモードでプレイするとストレス無しでプレイ可能
全ルートクリアで前作に引き続き、劇中に登場かつ前作の鍵でもある「北速水」シリーズという探偵小説シナリオがプレイできる。
相変わらずクオリティが高くまじいい話。これで元を取ったようなもん。
アリバイ表が「雨格子」くらいには書き込みやすく戻った。前作「奈落」の一分刻みの曖昧証言が嘘のような親切さ。その決断、イエスだね!
前作(別名暗号ゲーとも)の鬼のような暗号は改善され、ちょっと頭をひねればわかる程度のものに変更された。その上一個しかない。推理ゲーなので一個で十分。ええ。暗号なんて一個で十分です。
和のキャラは本人の成長に伴い所謂「ウザさ」は改善されたと思う。第一作から比べると彼も凛々しくなったもんだ。口調も少しは大人っぽくなった印象。
シリーズ伝統の3D迷路と3D迷路酔いから解放!!!されたのは喜ぶべきことだと思う。
総評
評価E。
システム面は改善されたが、肝心のシナリオの完成度の低さとボリュームダウンが痛い。また、これまでの二作にあった斬新さもない。システム面も完璧かと言うと穴がある。証言の書かれた「和メモ」はアリバイ作成画面では呼び出すことが出来ない。だからせっかく証言が自動でメモられていても、アリバイ表作成画面を行ったり来たりするか、和メモを自分がメモし直すかしなくてはならないのがもどかしい。証言見ながらアリバイ表作らせて欲しい。また次の選択肢までのスキップもない。なぜ流行り神みたいに3でシステム完成に持っていけないのか。
キーワード会話が少ない。というか、会話自体にお遊びが少ない。このゲームの肝だと思うんだけども・・・。お遊びワードも少ない。せっかくイージーモード搭載して、有用キーワード絞れるようになったんだからお遊びワードガンガン増やしちゃえばいいのに。
マリモとかあやしいカップ麺とかアメフラシ戦記について熱く語りたいんだよ!!お貴族様の優雅な日常を拝聴したいわけじゃないんだよ…。
また、舞台が『奈落』から引き続きヨーロッパ。その上前回と違い今度は日本人はいないし、登場人物は貴族ばっかだだしで親近感ゼロ。「ああ別世界の人間だな」って思うばかりで面白くない。ディルクの「エリノア」とかアデーレの「結婚」とかアヒムの「学校」とかは正直不愉快。何故外国にこだわるかな。雨格子みたいなゲームがやりたいだけなのにな。そろそろ舞台を日本に戻してくれないだろうか。日本が恋しい。
そもそもシナリオが全体的にミスってる印象。前作、前々作のライターさんは監修だけなのでこんなことになったんだろうか。今までの流れとしては
●雨格子→主人公が「予定外」の闖入者。あとは全員芝居のために集められたお互い顔見知り程度の役者同士。それまで和やかだったが事件発生で全員ギスギスに。だが、なぜか一人が部外者である自分に味方してくれ主人公は疑心暗鬼に…。生き残り脱出するためにそいつと協力し合い解決を試みる。
●奈落→招待された主人公だけが初対面。あとはみんなが親戚だったり懇意だったりで自分だけ外国で蚊帳の外。その上序盤で相棒が行方不明の孤立無援状態\(^o^)/で事件発生。みんな仲良しなので誰を疑っていいものやら…。だが行方不明の相棒を見つけるためにも勇気を出して解決へ乗り出す。
こんな感じだから不気味だったのに、今回は
●墓標→主人公と相棒は奈落の時の友人に招待されて遺産相続者の見定めへ。当然二人は遺産相続候補ではない。そして他は全員がお互いほぼ初対面でメイン3人が全員遺産相続候補者。最初から(一人除いて)全員でドロドロギスギスみんな怪しい…。なにかしでかされちゃたまらないし、流れ的に各事件の犯人を探すことに。
こんな状況。こんな状況なので、ぶっちゃけ事件が起きても驚かない。
これまでのシリーズでは「なぜ殺されなくてはいけないのか」「こんなに和やかなのになぜ事件が起きるのか」わからないまま連続殺人が起きて、仲の良かった人たちが無残な死体と成り果てていくのがショックで怖かった。みんな結束してるはずなのに、事件は止まらないところが不気味で精神的に追い詰められたのだ。
しかし今作にはそれがない。
悪意が主人公たちの方へ向いてないのが明白である。主人公は「乱入し理由もなく巻き込まれる」のでもなく「覚悟して解決に乗り出して巻き込まれに行く」のではない。単に「財産や家柄目当てで群がるバカどもの争いに巻き込まれる」だけなのである。最悪である。
真犯人の動機も共感できない(これは個人差があるとは思う)。多分自分が日本人かつ一般市民だからだと思うのだが…。しかし日本人の一般市民向けのゲームで「へえ~そうなんだーそりゃあ大変っすね~( ´_ゝ`)」とかしか思えない動機にしてしまったのは明らかに失敗かと思われる。動機に関する伏線も一~二本だっただけに、なんで犯人があんな考えに行き着いたのか理解できない。
また、各ルートバッドの場合、推理→追い詰めは今までのシリーズと同じだが、追い詰め成功してもいいこと何一つ無いのが気分悪い。犯人が殺されたり、真犯人逃亡だったり発狂だったり。前々作、前作バッドでは「しかし全員は救えなかったが、あの人は助けられた」という達成感と、好感度の高いキャラからの手紙などのフォローがあったし嬉しかった。しかし今作は基本的にひたすら後味が悪いだけ。ある程度の救いは欲しいところ。
このゲームで一番面白かったのが、某人物バッドエンドの逃走ミニゲームだったなんてのが笑えない。そこだけは本当に面白かった。クロックタワー好きな身としては嬉しくてたまらなかったんだが、笑えない。
好きなシリーズだけに残念。今後に期待。
売り上げが右肩下がりなので厳しいのかな。
最終更新:2012年02月26日 20:47