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1-
セッ! ハッ! フッ! ヤァー!!
まだ辺りに霧が立ち込めているなか、アグリアスは早朝から剣の鍛錬をしている。
毎日の朝起きたら素振りをする。
誰に言われたわけでもない。
自分のためだ。
特に最近は鍛錬をより厳しくした。
――まだ、足りない
――――もっと強くならなければ
だというのに、なぜだろう…?
最近、剣を持つ手が重いのだ…。


ある国(またはそれに準ずる地域)と別の国(同)との間で行なわれる商品の売買のことを貿易いう――
このイヴァリースにもいくつか貿易都市があるが、その一つにドーターと呼ばれる街がある。
陸路による貿易の中継地として発展した都市で、様々な人々が行き来する活気にあふれた町だ。
町人、商人、貴族、従者、護衛、農民など様々な身分の者達が行き来するが、当然その中には身分を明かせない者もいる。
闇商人や盗賊など・・・。それは好ましい状況ではないが、だからこそ彼らも街に入ることもできる。

「気分転換に儲け話でも行きましょうよ」
そう言ったのは元部下のアリシアだ。
「…無理に決まってる。私が儲け話に行ったら隊の守りが薄くなる」
誘いを断るのは元上司のアグリアス。
「え~、良いじゃないですか。アグリアス隊長が抜けったって大丈夫ですって。オルランドゥ伯もいらっしゃいますし…」
――痛いところをついてくる。
シド=オルランドゥが仲間になってから、アグリアスはあっさりNo1アタッカーの座を奪われた。
そのためアグリアスはさらに剣の鍛錬を厳しくしている。
「それに依頼って意外と良い訓練になるんですよ?ほら、以前の儲け話の時には――」
確かに話に聞けば、ゴーレムだのキマイラだの普段の戦闘では相手に出来ないような敵が居る。
「そうだな。確かに己を鍛えなおすいい機会かも知れん」
「ホントですか!?やったー!!」
「だが、ラムザに許可を取ってからだ。許可がでなければ――」
「なんの許可ですか?」
突然背後から声をかけるラムザ。
「な!…ラムザ、居たのか」
「居たのか?なんて酷いなぁ」
笑いながらアグリアスの隣に座るラムザ。
「で、何の話だったんですか?」
「あぁ、実は――」
依頼についての話をするアグリアス。
己を見つめ直すため、再び更なる高みを目指すため、依頼に行く事を許可してもらうよう話した。
ラムザは話を聞き、すこし考える。
やはり無理なのだろうか。
確かにアグリアスはシドよりは劣る。だが、いまだ主力メンバーの一人だ。
そう簡単に許可が出るわけが――
「良いですよ。許可します」
「ありがとーラムザ隊長~☆」
「い、良いのか?私の居ない間隊の守りは大丈夫か?」
喜ぶアリシアを余所に、意外にあっさり許可された事に動揺をするアグリアス。
「はい。どのみち4日間程度休養をしようと思っていましたし」
確かにここ最近は移動ずくめで皆つかれてい居るだろう。
だが、4日とは異例だ。今まで最長で2日だったものを大きく上回る。
きっと私の心情を読み取っての決断だろう。
「そうか。ありがとうラムザ。4日で終わるよう全力で頑張るよ」
心の中でもラムザに感謝をする。
「はい、頑張りましょうアグリアスさん」
―――は?
「僕も行きます。アリシアと3人で行けば何とかなるでしょう」
「ラムザも来るのか!?」
「はい、一度依頼に行ってみようと思ってたんですよ」

2-
チョコボ車に揺られドーター~ゴルランド間の交易路を移動するアグリアス。
ラムザも一緒に依頼に出るという、異例の事態となった。
ドーターに残してきたメンバーが気になるが…まぁ、大丈夫だろう。

隊を離れてはや3日――
早く終わると思っていた依頼も意外に時間がかかっている。
話を受け、依頼者のもとに行ってみればそこはバッカス酒造。
囮のために襲われた時と同じ荷物を貸してもらい、ドーターへと向かっている最中だ。
ゴルランドは雨季乾季に関わらず雪が降る土地なので、現在荷台の布を締めきっている。
そのため景色も見れないので、なんとなく依頼書に目を走らせる。


依頼名:交易路に現われる山賊団を撃退
内容 :最近、ドーター~ゴルランド間の交易路に山賊が現れるようになりました。
     しかも、狙われるのは我が社のチョコボ車だけなのです。これ以上被害の出ない内に山賊を退治してください。 ―――バッカス酒造


締め切っているおかげでチョコボ車の荷台には甘いアルコールの香りが立ち込めている。
出発した時はそうでもなかったが、時間がたち香りが強くなってきた。
初日は真剣な顔をしていたアリシアは積み荷の香りに機嫌を良くし、酒の詰まっている樽に凭れかかっている。
聞こえるのは地面をはしる車輪の音と、ゴルランドの寒風が荷台の帆を叩く音…それと寝息?
「アリシア、寝てるのか?」
一応確認をするアグリアス。
「ぇ……そんな事無ぃですょぅ……?」
スースーと寝息を立てるアリシア。
寝る前に酒を飲むと良く寝れると言うが、香りといえども油断できないものだ。
酒造からずっと御者をしているラムザに声をかけるべく外に出た。
外の空気は少し冷たく、いまだゴルランドの寒風が肌をさす。
雪は降っていないが、長時間外で御者をしているラムザは辛いだろう。
「ラムザ、そろそろ替わるぞ」
「大丈夫ですよ、アグリアスさん。防寒用のマントを3枚も羽織ってるんです。意外に温かいですよ?」
「そうか。だが、3枚も羽織っていたらだいぶ動きずらそうだな」
「そうですね。こんなところをモンスターに襲われたらちょっと危ないですね」
「ははは。確かに」
「アリシアはどうしてます?」
「アリシアは寝てるよ。中は酒の香りで充満してるからな」
「あはは。それじゃあ酒好きのアリシアは良い夢見てるでしょうね」
そんな他愛無い話を交わす。
そういえば、このところ教会やルカヴィ達との戦闘であまりゆっくり話している時間が無かった。
といっても今もあまり気を抜く事は出来ないが…。

少し沈黙が流れた後、アグリアスが言を発する。
「ラムザ」
「何ですか?」
「その…私のために無理に隊を休ませたのだろう?」
「ははは。やっぱりバレてました?」
笑みをこぼすラムザ。
「ありがとう、ラムザ」
「お礼を言われる事ではないですよ。それに、今までがちょっと急ぎ過ぎたかなて思ってたんです」

確かに気の休まる事のない長い旅だ。だが、ゆっくりもしていられないのも事実だ。
まだオヴェリア様のお傍に戻る事も出来ないし、アルマ殿もルカヴィ達に攫われたままだ。
きっとラムザは急く心を必死に抑えているのだろう。
「でも、依頼に行きたい言っいったのも事実ですよ?」
「…お前は強いな」
「いえ、そんな事は―」
「いや、お前は強いよ。常に自分以外の事にも目を向け、気を配り、戦ってきた」
―だと言うのに私はどんどんと弱くなっている。
あまりの自分の不甲斐なさに涙が出そうになる。
「すまん。愚痴を言ってしまったな」
やはり少し酒に当てられたのかもしれない。
「もう直ぐクルス山にさしかかる。クルス山の入り口で夜まで待つだろ?」
「はい、そのつもりです」
「では私は後ろに戻るよ。交代したくなったらいつでも声をかけてくれ」
「アグリアスさん」
「何だ?」
「僕はいろんな人に支えられてここまでやってこれたんです。ラッドやアリシアやラヴィアン…。
 でも一番支えられたのはアグリアスさん、貴女に支えられました」
「私にか?」
「はい、ゴルゴラルダ処刑場でアグリアスさんが僕を信じてくれたから…」
ゴルゴラルダ処刑場でアグリアスが言った言葉。
あの時は必至だったが、今思い出すと少し恥ずかしい。
「あ、あの…アグリアスさ――」

ガゴン!

ラムザの言葉を遮るようにチャコボ車が少し揺れた。
どうやら小石の上に乗り上げたようだ。
と、同時に荷台からゴッ!と音が鳴る。
『ぃった~ぃ。……あれ、アグリアス隊長は?』
荷台から場違いな声が聞こえてきた。
「どうやらアリシアが起きたようだな」
「…の、ようですね」
真剣な顔からいつもの笑顔に戻るラムザ。
「で、何だ?」
「は?」
「何か言い掛けていたではないか」
「い、いえ、何でもないんです!何でも…」
「?」
「まだ、寒いですから荷台に入ってください」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
先ほどまでの真剣な顔はいったい何だったのだろう。
気にしながら荷台に戻るアグリアス。
ラムザと話をして少しすっきりした。
到着まで少し寝よう。

地面を走る車輪の音と、ゴルランドの寒風が布を叩く音が聞こえる。
こころなしかさっきよりチョコボ車のスピードが上がったようだ。

3-
クルス山の麓にはすでに商用チョコボ車が何台か停まっていた。
ドーターの北に広がるゼクラス砂漠。昼間は摂氏50度にもなるかと思えば夜間は一気に氷点下まで下がる『死の砂漠』。
そのため、商人たちは商品の傷まないように日の入り~日の出の間に移動する。
ラムザ達は他のチョコボ車をまきこまないように少し時間を置いてから出発する事にした。
盗賊と戦闘するため、チョコボ車の布を全部空ける。
運のいい事に風も弱まり、空も晴れた。
ラムザ達の乗るチョコボ車を後ろから照らすように月も出た。
おかげで月の光が道を照らしてくれるので、戦闘になってもある程度は動けそうだ。
「しかし、意外に強い物だな」
「―え?何ですか?」
酒の香りで少し呆けていたアリシアが聞き返す。
「いや、香りがな。布を上げておいてもまだ香る」
「まぁ、天下のバッカスシードですから」
「バッカスシード?」
アグリアスは聞いた事のない言葉に興味を持った。
「はい。バッカス酒造の主力商品でバッカスリキュールと言う物があるのですが、そのリキュールに使われる果実がバッカスシードです。
 バッカスシードは決まった土地でしか採れないうえに、その香りは豊潤にして強烈な甘匂を発するんです」
「ほぅ、ではこの香りもバッカスリキュールから香っているのか」
「いえ、この香りはバッカスリキュールと言うか…きっとコレだと思います」
そういうとアリシアは背にしている木箱を叩いた。
「これはバッカスの酒と呼ばれる幻のワインなんですよ」
バッカスの酒…聞いた事がある。
たしか上級貴族ですら飲めることも稀だと聞く。
―だとすると、このチョコボ車が狙われるのはそこにあるのかもしれない
アグリアスが盗賊の傾向について思案していると、急にチョコボ車が止まった。
「アリシア、アグリアスさん」
御者をしていたラムザが言を発する。
「前方にミノタウロスと…ゴブリンが3体だな」
「盗賊の姿が見えませんね」
アリシアが辺りをキョロキョロを見回す。
「暗闇に紛れている可能性が高い。アリシアはチョコボ車を護衛しろ。私が前方の敵を倒してくる!」
「僕はアグリアスさんの援護ついでに、召喚獣を呼び出して盗賊を威嚇します」
「よし、では行くぞ!」
チョコボ車から飛び降りるラムザとアグリアス。
ラムザが召喚獣を呼ぶならばゴブリンは無視しても構わないだろう。
アグリアスは目標をミノタウロスに定め、夜の山を疾走した。

「風、光の波動の静寂に消える時 我が力とならん… シヴァ! 」
シヴァの放つ氷河の結晶がゴブリンとミノタウロスを凍らせていく。
『ゴブー!!!』
『モ゛!』
モンスター達は堪らず悲鳴を上げる。
ゴブリンはこれで倒せただろうが、ミノタウロスはまだ動けるだろう。
その体躯は見せかけではなく、繰り出される攻撃、攻撃に耐えうる体力量は脅威に値する。
実際この下位種である牛鬼と戦ったときも、初めはその体力量に軽い恐怖を覚えたくらいだ。
だが、それも簡単には倒れないと判っていれば、それに合わせて戦えばいいだけのこと。
アグリアスの予想道理、氷を砕きミノタウロスが動き始めた。

夜間の戦闘は普通ならば避けた方が良い。
何故なれば視界が悪いため、敵との距離を把握し辛いからだ。
だから、ナイトやモンクのように近距離から攻撃をするジョブには夜間はきつい。
また、周りの状況も判らないため自分の置かれている状況もわからない。
そういう意味ではアグリアス達は幸運だった。
月明かりが周りを照らし、昼までとは行かずともある程度、周りの状況を把握できるからだ。
そしてアグリアスは近距離からの攻撃をしなくとも相手を討つ事が出来る。

「命脈は無常にして惜しむるべからず… 葬る!
アグリアスの不動無明剣が敵を討つ。
『ブモ゛ー…』
一声を上げ、地面に倒れるミノタウロス。
同時に背後からアリシアの悲鳴が聞こえてくる。
「きゃー!」
―新手!?…いや本命の盗賊か!
踵をかえしてチョコボ車に向かおうとするアグリアス。
それを待っていたかのようにミノタウロスが立ちあがる。
さすがにしぶとい。
アグリアスは再び聖剣技を繰り出すために体制を整える。
ふいにミノタウロスの体が大きくなった―そんな感覚がした。
――まずいッ!!
アグリアスは咄嗟に盾を構える。と、同時にミノタウロスがツルハシを振り回し始めた。

ギンッ!ガガガッ!

ミノタウロスの全力を持って振り回されるツルハシは嵐のように、その範囲に居る者を薙いで行く。
ギリギリ範囲内に居たアグリアスは何とか盾で防ぐ。
これがもう少し近ければ暗い森の中に飛ばされていただろう。
またギリギリ範囲内にいると言っても少しも後退する事は出来ない。
アグリアスの全力を持って盾を支えなければ今にも飛ばされそうだからだ。

ガガガッ――!!ガッ!

こうなっては攻撃が止むまで耐えるしかない。
盾が削り取られているような不安を覚える。
昔、嵐が過ぎるまで怯えていた自分を思い出す。

ガッ!ガッ!ガッ!―ガッ!

少しずつ嵐が弱くなった。
ラムザの攻撃に、不動無明剣を受けているのだ。
残りの体力も少ないだろう。
それなのにこれほどまでの力を繰り出すとは、流石と言わざるを得ない。
この好機を逃すアグリアスではない。
防御から攻撃に転ずるため盾に伝わる音と衝撃に神経を集中させる。

ガガッ!―ガッ!―ガッ!――ガッ!

確実に遅くなってきた事を確認し、次の攻撃に備え剣を握る手に力を入れる。

―――ガッ!

ツルハシが盾に当たった瞬間、攻撃と同じ回転方向に体を翻す。
その反動を持って側面から攻撃をするアグリアス。
勢いを持った剣はミノタウロスの体に深々と沈む。
『グモゥ…』
アグリアスを横目に力尽きるミノタウロス。
ある意味モンスターだからこそ使えた手である。
人間が相手なら相手がタイミングを図っているのも判っていただろうし、またそれに合わせフェイントを繰り出してくる可能性もある。
ミノタウロスから剣を引き抜き、チョコボ車へと向かった。

4- (ちょっとラムザ視点です)
チョコボ車に駆け寄ると、馬車の近くで座り込んでいるアリシアがいた。
盗賊が近くに居ないか気を張り、アリシアに声をかける。

「アリシア、大丈夫!?」
「エヘヘ、ケーキかったらモルボル味でしたよ~?」

――は?
戦闘中に何を言ってるんだろう?っていうかモルボル味って??
もしかすると盗賊に襲われて軽い混乱状態なのかもしれない。
正気に戻すため、とりあえず揺すってみる。
「しっかりしてよ、アリシア!」
「いやん、ラムザ隊長ご~いん♪私はイイですけど、皆が見てますから――」
……駄目だ。完全に混乱してる。
ムスタディオやラッド相手なら殴ってるところだけど、相手はアリシア。
正気に戻すためとはいえ、殴ればあとで何を言われる(or 要求)されるか判らない。
ラムザは少し手間をかけてエスナを唱える事にした。
詠唱中にアリシアが騒いだり、殴ってきたりとなかなか詠唱が終わらない。
「―そを与えたまえ!エスナ!」
やっとの事で完成したエスナがアリシアを包み込む。
「この間、夜中にアグリアス様が一人で――アレ?」
正気に戻り、状況が判らないとばかりに目をパチパチさせるアリシア。
アリシアの話の続きが気になったが、今はその時ではない。
「ラムザ、賊は!?」
遅れてやってきたアグリアスが、盗賊の居場所を聞いてきた。
"―ゴトッ! バキッ!!"
荷台から物音が聞こえた。
アグリアスは荷台に乗りこみ、酒を飲んでいる人影に向かって斬りつけた。
「盗賊め、覚悟しろ!!」
が、剣は空を斬り、影は跳躍し荷台の屋根を突き破る。
影を追い表に出ると、月を背に酒をラッパ飲みしている女。

「キャっ」
「な、ななな…!!!」
「うわッ」

思わず声を上げる一同。
それもそのはず。その女はほぼ裸。胸と腰だけを隠す布を付け、手と足は黒く闇に融けている。
豊満な胸を隠す布も隠し切れているとは言えない状態で、下乳が見えている。
なにより一同を驚かせた事はその女の背中には黒い羽が生えていた。
「あーッ!私のお酒ぇ――ーッ!!!」
目の前で消えていく幻の酒に悲鳴を上げるアリシア。
いや、アリシアのじゃないし。
「ゴメンね。もう全部飲んじゃった☆」
空になった瓶をアリシアの前に投げる。
とうのアリシアは目の前で酒が消えた事に衝撃を受けて動けなくなった。
アグリアスも目の前に現れた女に動揺を隠せない。
「き、貴様!は、恥ずかしくないのか!?」
「ん~?何が恥ずかしいの?」
酒を飲んでいた女は首をかしげる。
「その格好だ!」
「あぁ、コレ!」
そういうと、完全に胸を隠し切れていない布を引っ張る。
「わ、ば、馬鹿者!そんな事したら…」
「私はこんな布いらないんだけど、こっちの方が燃えるらしいのよね。なんて言うの…チラリズム?」
「破廉恥な!女なら慎みというものを―」
「アグリアスさん、落ち着いてください。アレは人じゃないですよ」
「人だろうが、モンスターだろうが、慎みは必要だろう!!」
その考えだと、チョコボやウッドマンも服を着ろと言う事なのだろうか?
「とにかく落ち着いてください。アレは多分リリスですよ」
「リリス?―あの妖魔リリスか!?」
アカデミー在学中に読んだ文献によればそれは生命の母とも、最初の悪魔とも云われ、男性に対して害をなす存在だとか。
「あら、意外に物知りね。それに――」
フッと目の前から消えた。
「可愛いだけじゃない。…イイ男☆」
ラムザの側面に現れたかと思うと、突然抱きついた。
「き、きき、貴様ッ―!!ラムザに抱きつくとは命が惜しくないようだな、色魔め!!」
「私の名前はサロメ。そこら辺に居るサキュバス達と一緒にしないで」
「リリスってサキュバスと違うんですか?」
「そんな事も知らないの?失礼ね。…食べちゃうわよ?」
「何を平然と会話をしているのだ、ラムザ!」
「いぇ、そんなつもりは…」
「言い訳は良いから早く振りほどかんかッ!!!」
「は、はい!――あ、アレ?腕が」
リリスはただ抱きついただけでなく、左腕と剣を握っている右手を抑えていた。
「ダ~メ~。貴方の事気に入っちゃった☆」
それでもどうにか振りほどこうとするラムザ。
しかし流石は悪魔種。抑え込む力はとてつもなく、ビクともしない。
せいぜい動かせるのは肘くらいだが、しっかりくっつかれているため肘打ちもほとんど意味がなく、さっきから豊満な胸にポヨポヨと当たるのみ。
「あん☆私のおっぱい好きなの?直に触ってみる?気持ちイイよ~☆それとももっと気持ちイイことする?」
「な―!」
ラムザが驚愕の声を上げる。
当然、リリスの誘いを断ろうとするラムザ。
だが、その言葉が発するよりも早リリスがある言葉を紡ぐ。

「青き海に意識薄れ、沈み行く闇 深き静寂に意識閉ざす… 」

―これは夢邪睡符!?
気付いた時にはもう遅く、ラムザの意識は遠のいていった。

最終更新:2010年04月02日 21:22