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 髪を切ろう。
そう思ったのは今朝の事だった。
いつものように早朝の日課である鍛錬を終た後、水浴びに行く途中で暑い風が吹いてきたのだ。

じわっと汗が噴き出る。
雨季から乾季に変わる時の季節風だ。
たまに夏と思わせるような風が吹いてくる。

頭が暑い。
風で噴き出た汗に加え、鍛錬で掻いた汗で首周りがべとつく。
いっその事切ってしまおうか。
うん。そうだ。そうしよう。
髪は女にとって特別だと言うが、私はそうは思わない。
別段綺麗な髪でもないし、今さら乙女のように容姿に気を掛ける必要もない。
この道を選んだ時から女としての道は捨てて来たのだから。
そう。だから別に髪を長くしている理由もないのだ。



「実はラムザ。髪を切ろうと思うんだが――」
「えっ!!」
驚愕の表情と共に椅子を蹴って立ち上がるラムザ。
「ぼぼぼぼ、僕何か悪い事しましたか!?それともFaith95!??」
「Faith? 何を言ってるんだ??」
「ま、ままま、待ってて下さい。今、信疑仰祷を――って算術も陰陽術も付けてない!??」
信疑仰祷?算術??
なぜプライベートな話から戦術論へ???
「そ、そうだ。解法すれば」
「…良く判らんが、落ち付けラムザ」
「いい、いいですかアグリアスさん。い、居ない居ない居ないんです。家畜にかm―――」
「熱き正義の燃えたぎる! 赤き血潮の拳がうなる! 連続拳!」
「グワバッ!!」


――――――。

「落ち着いたか?」
「は、はぃ…。 お手数お掛け致しました」
「何をそんなに慌ててたんだ?」
「僕たちと旅をするのが嫌になって修道院にはいるのかと…」
「早合点したわけだな?」
「はい…すみません。 でも、何で髪を?」
「長くなって来たからな。そろそろ切ろうと思ったんだ」
「…切っちゃうんですか?」
「うむ。戦いに髪の長さは関係ないからな。寧ろ動きやすくなるやもしれん」
「…」

会心のギャグを決めた積りだが、ラムザは無言か…。
ラヴィアンの言うスキンシップは難しいな。

「コホン。 そ、それに、直に乾季がやってくる。そうなれば涼しさを求めるのは当然だろ?」
「…」
「でだ。ラムザはどんな髪型が良いのかと………どうしたラムザ?」
「いえ、アグリアスさんがそれで良いのなら良いんですけど…」
「ふむ?」
「僕は髪が長いアグリアスさんの方が好きだなぁって」
「!」
「それに、髪解いた時、月明かりに照らされて…髪がキラキラ光ってて。 まるで教会の女神画のようでした!」

ラムザは子供のような満面の笑みでサラッと言ってのける。
め、女神?私を???女としての自分は捨てて来たのと言うのにそんなな私を女神と言うのかか?
せ、せせせ世辞だ。そうだ世辞に決ってるラムザは優しい人間だからなこんな女にも気を使ってくれているのだろうというか落ち付け!無駄に心拍数をあげるんじゃない!!!!
ま、まま、落ち付け落ち付けどんな時も冷静に対処すれば百戦危うからずさぁ落ち付け落ちち付け落ち付けけけ―――

「っと、すいません。勝手なこと言って。アグリアスさんの思うようにしてください。髪が短くなったら短くなったで、違うアグリアスさんが見れて僕は嬉しいですし」
「そ、そそそ、そうか。―――ん?」
「おい、ラムザ」
「はい?」
「さっき髪を解いた時って言ったな?」
「えぇ。今でも思い出せます。綺麗な満月の晩、女神さまになったような――」
「あのな、ラムザ」
「はい」
「私は普段三つ編みを解かない。解くのは寝る時と沐浴中だ」
「あ―――」
「さて…覚悟は良いな?」




サァっと風が髪を薙いでいく。
髪を短く切るのは止める事にした。
まだこんな私を女と見てくれる人のために暫くはこの髪型でいようと思う。
長くなった分をラヴィアンに短くしてもらっただけ。
予定では髪バッサリ短くする予定だったから逆に暇になってしまった。
さて、今日は何を―――

「お、今日もアグ姐ぇはエビフライだね。うははははっ」

             ――よし。今日の仕事はムスタディオの墓造りだな。



今日は日射しも暑い。

夏の到来を知らせる風が悲鳴と酸鼻をさらっていった。
                                               おしまい
最終更新:2010年07月23日 01:08