「え~。でもさぁ、彼、ちょっと引っ込み思案じゃない?」
「分かってないなぁ~。だからアタシが何とかしなきゃって思うんでしょ?」
「あ~分かる~!母性本能、だっけ?」

きゃっきゃと楽しそうにお喋りする3人。女3人寄ればかしましい、とはよく言ったもの。
白魔道士のマリアン、話術士のスザンヌ、弓使いのバイオレットだ。

「こら、手が止まっているではないか。そんなことでは日が暮れてしまう」
隣で鎧の手入れをしているアグリアスが見かねて注意する。今日の武具の手入れの当番はこの4人なのだ。
「お喋りするな、とは言わんが、仕事はしっかりこなせ」
「は~い」
「頑張りま~す」
「え~んまだまだ終わんないよ~」
返事も軽い。やれやれ、とアグリアスは鎧に意識を戻す。

「そうだ、アグリアスさんは、恋人とかいます~?」
突然マリアンが質問する。思わず鎧の留め金を掛け違えるアグリアス。
「な、なんだ急に!」
「だってアグリアスさんって素敵だし~。恋人の一人か二人くらい、いるかな~と思って」
「ひ、一人二人……!」
顔を真っ赤にしてアグリアスがうろたえる。もともとこういった話題に全くと言っていいほど免疫がない。
さらにはその超真面目な性格である。
(そ、そもそも、恋人とはひとりだけの存在ではないのか!全てを捧げられる相手こそ、そうではないのかっ!)
そう言いたかったが、そう言葉にすること自体が恥ずかしいのである。

「ね~。アグリアスさんって素敵よね~」
マリアンは隣のスザンヌに同意を求める。
「うんうん!女のアタシから見ても、ばっちり合格点よね。ちょっと口惜しいけど」
「アカデミーとかでもモテたんだろうなぁ~。羨ましい~」
横からバイオレットが口を出す。

「知ってます?アグリアスさん。隊でも、アグリアスさんのファンって多いんですよ~」
「親衛隊隊長はムスタディオよね」
「あとはブルーノとかニルソンとかも」
「え~っ!ブルーノってちょっといいなって思ってたのに~。ショック~」
「そうそう、あいつ、ロングヘアの子が好きなんだって」
「そうなの?髪伸ばそうかなぁ~」
だんだん騒がしくなってくる。3人はアグリアスのことなどお構いなしに話を始めてしまった。
アグリアスは真っ赤になって、うつむいて鎧をいじっているしかなかった。

鎧の手入れは全く進まない。

「そういえば、ラムザ隊長って恋人いるのかな?」
バイオレットが言い出す。
びくっとアグリアスが反応する。一番聞きたい話が期せずして飛び出してきたからだ。
うつむいたまま、全身を耳にして3人の話に集中する。

「いないんじゃない?でも、隊長のこと好きな人は多そう」
「カッコイイもんね~。憧れちゃう」
「クールな感じだけど、気配りがすごいのよ~。この前アタシ声かけてもらっちゃった」
(ラムザは人気があるのだな……。しかし、ラムザのことを思う者とは誰なんだ……)

「隊長のこと好きそうな人か~。メリアドールさんとかそうかも。隊長を見る目が違うもの」
「あ~分かる~。普段厳しいのに、隊長の前だとちょっと雰囲気変わるよね~」
(メ、メリアドールか……確かに、最近ラムザのそばにいることが多いな)

「ラファちゃんもじゃない?あの子、隊長と一緒にいること多いのよ~」
「でも隊長の恋人、って言うにはちょっと子供すぎない?」
「一途な感じの子よね。ああいう子にころっと逝っちゃう男も多いかもよ~」
(そ、そうだ。ラファはまだ子供だから、ラムザが特別に気を配っているのだ。ラムザはそういう優しさがあるのだ)

「まぁ、隊長は隊のことで忙しいし、恋人作ってる暇なんてないのかもね」
「そうね。アタシ達で何かお手伝いできればいいんだけど……」
「アタシ達はアタシ達の仕事を頑張ることよ」
(そ、そうだな……ラムザは忙しいのだ。恋などにうつつを抜かしていたりはするまい。私がしっかり支えなければ)

「でもさ~、隊長、時々ぼーっと見てることがあるのよ」
(何をだ……)
「ね~。あれだけ分かりやすいと、ねぇ」
(……?)
「それに、その相手も、ねぇ」



くすくす笑い声がする。

はっとアグリアスが顔を上げると、3人が顔を揃えてアグリアスを見てにやにや笑っていた。

「隊長が見てるのは、アグリアスさん!!!」
3人が声を揃えて叫ぶ。アグリアスの顔がぼん、と真っ赤になる。
3人は、アグリアスが仕事をしているふりをして話を聞いているのを知っていたのだ。
そして、アグリアスがラムザのことを想っていることも。
知っていた上で、ラムザの話を出したのだった。

きゃはははっと笑い声が上がる。
「隊長が好きなのは、多分だけど、アグリアスさん!」
「おめでとう~アグリアスさん!」
「カップル成立~!いやっほう~!」

「ええい!く、くだらないことを言ってる暇があったら仕事をしろっ!」
たまらずアグリアスが裏返った大声を上げる。
「は~い!」
「あ~あ、怒られちゃった」
「うふふっ、照れちゃって~。アグリアスさん可愛い~」
3人は笑いながら仕事に戻る。

だが、頭の中はラムザでいっぱいのアグリアスの仕事は、やっぱりはかどらないのであった。
最終更新:2010年07月27日 01:09