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「隊長、これ、落し物みたいですよ」
そう言って白魔が持ってきたのは、だいぶくたびれた人形だった。
布と革、毛糸で作られた、素朴で可愛らしい人形。黄色の毛糸で作られた長い髪は三つ編みになって、
革で作られた服はどうやら騎士服を模しているようだった。
(これって……アグリアスさん?)
「ああ、分かった。これってどこに落ちてたんだい?」
「昨日泊まった宿の部屋です。宿の主人が見つけて届けてくれたんですよ」
「誰の部屋だったか分かるかな」
「アグリアスさんの部屋だったと思います。多分アグリアスさんの物だと思いますけど……」
そこまで言って、白魔はくすっと笑った。
「アグリアスさんにも、可愛いところがあるんですね。こんな可愛い人形を持ってるなんて」

その日の夜、野営のテント。
「アグリアスさん、よろしいですか」
「ん?ああ、ラムザか。構わない。入ってくれ」
「失礼します」

テントに入ってきたラムザが手にしている人形を見て、アグリアスはあっと声を上げた。
「そ、それは!」
「アグリアスさんの物でしょう。昨日泊まった宿に落ちていたそうです」
ラムザは両手で大事そうに人形を持って、アグリアスの前に差し出した。
「ああ、確かに私の物だ……大事な物なんだ。すまない、ありがとう」
アグリアスは壊れ物でも扱うように、そっと人形をラムザから受け取ると、そのままじっと人形を見つめた。
その瞳はキラキラと輝いていた。

「……本当に大事なものなんですね」
「ああ。そうだ。何かのはずみで、荷物の中から落ちてしまったのだろう。
気をつけてはいたのだが、申し訳ないことをした」
アグリアスは、人形についてしまった埃や汚れを丁寧に手で払っていた。
「……この人形は、オヴェリア様のお手製なのだ。私を模して、作って下さった」

オーボンヌ修道院。
「アグリアス、これが何か分かる?」
オヴェリアはにこにこと笑って、手に持った人形をアグリアスに見せた。
「これは……私、ですか」
「ええ、そうよ。アグリアスを作ってみたのよ。今回のは特別に可愛くできたわ」
「……恐れ多いです」
アグリアスは微笑んで、オヴェリアの差し出した人形を見つめていた。



辺境の修道院暮らしの退屈しのぎにと、オヴェリアが始めたのが手芸だった。
編み物、パッチワーク、人形作り。特に熱中したのが人形作りだった。
猫や犬、鳥などの動物、シモン先生やシスター、護衛のナイトたち、そしてアグリアス。
決して上手ではない。けれど、暖かなぬくもりの感じられる作り。
作っているオヴェリアも、作品を貰ったその人も、自然と笑顔になれた。

「……思えば、あの頃はオヴェリア様もよくお笑いになっていた。オヴェリア様にとって、
もっとも安らいでいたのが、あの頃だったのかもしれない」
人形を見つめながら、アグリアスは言った。
「この人形は、そんな思い出のある人形なのだ」
「そうだったんですか……」
「ああ……もう、二度とは返らぬ日々の思い出だ」
ふと、アグリアスの目が遠くを見る目になる。

「……人が、幸せに暮らすことが、何と難しい時代になったことか。
出来得るならば、その闇を払う剣となりたいものだな」
誰に言うともなく、アグリアスは呟いた。
それは権力闘争の渦中にある主、オヴェリアの境遇を嘆いたものだろうか。

「……少し喋りすぎた。感傷的になってしまったな。ともかく、すまなかった。
届けてくれた者に、感謝すると伝えておいてくれないか」
ふっと息を吐いて、アグリアスは微笑んだ。
「分かりました。もう落としたりしないようにしましょう」
ラムザはいたずらっぽく茶化した。
「ふふっ、分かっている」
アグリアスの微笑が苦笑に変わった。

その夜、天幕の中で眠るアグリアスの横には、あの人形があった。
アグリアスの寝顔は、安らかに微笑んでいた。
オヴェリアと過ごしたあの頃の夢でも見ているのだろうか。

おしまい
最終更新:2012年01月02日 18:57