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 「僕は……まだ生きているのか………」

何もない空間をラムザ・ベオルブは漂っていた。
イヴァリースの命運をかけた戦いがあった。
死都ミュロンドに飛ばされたラムザ達は、飛行船の墓場で統制者ハシュマムと聖大天使アルテマを倒し、ルカヴィの野望を見事阻止した。
ラムザがアルテマに止めを刺し、そのアルテマから放出された光に飲み込まれ、気がつけばこの空間へと飛ばされたのだ。

天も地もない空間。頬を撫でる風もなく、降り注ぐ光もない。
普通の人間なら「ここはどこなのか?」「どうすれば脱出できるのだろう」と考えるところだ。
あの爆発の中心に居て命があっただけでも僥倖だというのに、ラムザにはその考えはなかった。
むしろ、絶望していた。

自分の短慮によって起きてしまった様々な出来事。
みんなを巻き込んでしまった不甲斐なさ。
アルマを助けられなかった情けなさ。

そして
何よりも、誰もよりも生きていてほしかったアグリアスの死。


ラムザはそっと目を閉じる。
そして思い浮かぶあの衝撃。

アルマに迫るルカヴィの爪
その爪を庇い受けるアグリアス
倒れ込み、地に広がる血だまり

それは一瞬の事だが、とても長い時間に感じられた。





 ――突然、耳鳴りの様な音が聞こえ出した。

『…何を望む』

耳鳴りの次は幻聴か
しかし、それは懐かしい…。
昔、どこかで聞いた事のある声に似ていた。


…やり直したい

もし、昔に戻れたら、もうこんな結末は迎えないのに

だけど、もう、どうでも…いい……
やり直す事なんて出来はしないのだ


ラムザはゆっくりと闇に意識をおとしていった。




突如、悲鳴が聞こえてきた。

「離しなさいッ!」
「しまった!!」

その声で意識を覚醒させるラムザ。
目を開けると、建物に走って行く金色の髪。

――え?

それはもう二度と聞く事の出来ない声。
美しく、愛おしい人の姿。

「ア…アグリ…アス…さん?」

驚きで上手く言葉が出ない。
また、急ぐ身には届かなかったのか、アグリアスは止まる事もなく建物に入って行った。

周りには薄暗い森
降り注ぐ雨
地に響く雷鳴
そして目の前にあるはオーボンヌ修道院

――夢?…走馬燈というやつか??

よたよたと歩きだすラムザ。
地を踏む感触。
頬に伝う雨の冷たさ。
その感覚一つ一つがラムザに現実だと訴えているようだ。

「ま、待てッ!!」

声のする方に目を向けると、逃走する一頭のチョコボ。
その上に乗っている男と一瞬目が合う。
だが、何も言わず、何も言えないまま走り去る。
それを追いかけアグリアスが走るが、追いつく事叶わず断念する。

「…なんてことだ」

悔しげに膝を折るアグリアスを後目にチョコボが去って行った方向を見つめるラムザ。

「……ディリータ??
 僕は……戻って…来たのか?
 じゃあ、あの声は…聖石……
 でも、僕は強く願っていたわけじゃない。
 むしろ望みすら捨てていたのに…

 どうして…?」

その問いに答えるものは誰もなく、声は雨音にかき消される。
そして、ラムザの疑問と比例するように雨足が強くなってきた。



 何故戻ってこれたのだろう…?
聖石のきまぐれか、それとも別の力なのか…

しかし、それは考えても意味のない事だ
事実、僕は戻ってきた
ならば、やる事は一つだ

幸い僕にはこれから起きる事が判る
獅子戦争と教会の陰謀、ディリータの思惑
そして、裏で暗躍するルカヴィ達

この記憶を持ってすれば――きっと変えられるはず―――




王都ルザリアに一番近い貿易都市ドーター。
北にルザリア、西にガリランド、東に行けばザランダと陸路の交差点。
そのため夜でも活気にあふれ、眠らない街として有名である。
そんなドーバーにある、とある宿のでは――

「…結構食うんだな」
「ぅえ? そう?」
「何杯目だよ、それ…3杯目?」
「おしい! 4杯目♪」
「oh…」

食堂に入るとラッドとアリシアがそんなやり取りをしていた。

「おお、ラムザ。 先に食ってるぜ」
「もぅ、"食ってる"なんて言わないでよ。 "食べてる"って言いなさいよ」
「どっちも同じじゃん」
「ニュアンスが違うの! "食ってる"なんて下品な言い方じゃ、彼女は出来ないわね」

この二人は出会ったときから仲が良かったんだな。
そう思い苦笑いをするラムザ。

「あれ…ほかの人達は??」
「ん…ガフガリオンなら出て行ったぜ。 「ここじゃ眠れないンでな。 ちゃんと朝には帰ってくさ」 だってさ」
「いい加減な男よね。 どこいったのよ」
「しらねーよ」



そんな会話をしていると食堂の出入り口からラヴィアンが入って来た。

「明日の準備終わったよー」
「ありがと、ラヴィアン。 ここの夕食、結構おいしいよ」
「何食べてるの?」
「クリームシチューとドーバーフィッシュのムニエル。 ここら辺でしか採れない魚だって」
「へー、美味しそうね。 …ねぇ、そこのアホ毛。 アンタは食べたの?」

アホ毛?…誰の事だろう?
困惑していたが、ラヴィアンの目はラムザを捉えていた。

「へ? 僕?」
「そうよ。 だって頭からアホ毛でてるじゃん」
「あぁ、これ」

そういって頭のはね毛にさわる。
昔から直そうとしても治らないんだよね、コレ。
でも、アホ毛だなんて言われたのは初めてだな。

「それに、まだ名前聞いてないもん」
「だって、名前聞いてないもん」
「あぁ、ゴメン。 僕はラムザって言うんだ」
「そ。 私はラヴィアン、あっちはアリシアよ」


しかし、なんだか照れくさい。
さっきの"アホ毛"と呼ばれた事もそうだが、まったく記憶にない。

初めてだが初めてじゃない。
付き合いの長い仲間と自己紹介をするというのは、ちょっと不思議な感覚だ。



 ラヴィアンの話によるとアグリアスは教会に行ったらしい。
そういえば出会ったころ、比較的余裕がある時は教会に足を運んでいたのを思い出す。
ラムザも結構教会に行った人間ではあるが、まさか異端者が行くわけにもいかず入れなくなったのだ。

夜の教会は外から見ても判る。
どの教会も建物の中央にある丸窓の格子がグレバドス教のシンボルを象っているからだ。
取り分けドーターは裕福な部類にはいる街なので寄付金も多く、貧しい村の教会に比べれば豪勢だ。
その割に建物が小さいのは流民や商人が多く、信仰者が少なめなのだからだろう。
そんな教会を眺めながら、ラムザは扉を開ける。


中にはいると外の喧騒が嘘のように静かになる。
蝋燭の明かりで照らされた聖堂は幻想的で、空気は静謐に満ちている。

「―――どうか神々の御力によりオヴェリア様が無事でありますよう…」

その聖堂の中央。
司祭が立つ壇上の一段下で、アグリアスは片膝を折り祈っていた。
その姿は美しく、蝋燭の明かりがより幻想的に魅せる。
だからだろう。
アグリアスが声をかけるまでその光景に魅せられていた。

「…何か用か?」
「え あ、ゴメンなさい。
 お祈りの邪魔しちゃったみたいで」
「いや…構わない。もう終わった」

アグリアスは立ち上がるとラムザに向かって歩いてきた。
近くまでくると判るが、この当時はラムザの方が小さい。
記憶の中のアグリアスはラムザと同じくらいだ。
なんだか懐かしいような、悲しいような、複雑な気持ちになる。

「貴公…確か、名はラムザといったか」
「はい。ラムザ・――ルグリアです」
「そうか…。
 今日は助かった。我らだけでは負ける事は無くとも苦戦は強いられていただろう。感謝する」
「いえ、僕は…」
「それにオーボンヌでの戦いぶりでは少し頼りないところが見受けられたが、この街での戦闘は目をみはるものがあったぞ。
 どうやらオーボンヌの時は私の目が曇っていたようだ。非礼を詫びよう」
「そんな事ないです。 たまたま上手く動けただけですって」

謝ってきたアグリアスを慌てて止める。
上手く動けたのは戻ってくる前の経験があったからこそだ。
この当時の僕はもっともたついていただろう。

「…それに引き換え、ラヴィアンとアリシアは情けないな。
 2人の連携は大したものだが、1人になると荒が目立つ。
 もっと訓練を厳しくするべきか…」

ああ――変わらないな。
訓練が足りん、もっと鍛錬に励めとラヴィアンとアリシアに言ってたっけ。
もちろん他の仲間にも厳しく注意してたけど…。

「ま、まぁ、今はオヴェリア様に全力を尽くしましょう」
「それはもちろん」

強い眼差しで返事をする。
しかし返事をした後、アグリアスの顔が少し曇った。



「…オヴェリア様、ご無事でいらっしゃるだろうか」

やっぱりオヴェリア様の事が心配なのだ。
だが、その心配はない。
明後日にはオヴェリア様は無事助けられる。…また、離れ離れになってしまうが。
だが、それを知ってるのはラムザだけ。
愛しい人が苦しむ姿を見ていたくは無い。
その心配を和らげるためラムザはアグリアスに会いに来たのだ。

「連れ去ったからには殺してはならない意味があるんだと思います。
 だからまだ生きてらっしゃいますよ。大丈夫」
「だが、助け出せなくては意味がない。 やはり直ぐにでも出発するべきだったか…」
「心配なのは判りますが、夜のアラグアイの森を超えるのは危険が大きいですから…。
 明日の朝に発てばきっと明後日にはゼイレキレの滝で追いつくと思いますよ?」
「ゼイレキレの滝? …何故そう思う?」
「まず、誘拐犯も徒歩で移動していると思うからです。
 確かにチョコボには2人で乗れますが、それは大人しく乗っていればの話。
 暴れられてはチョコボから落ちてしまいますから…」
「……ふむ……なるほどな。」

しばらくラムザの話を咀嚼するように考え、そう言った。

「いくらゴルターナ軍と言えども人目は避けたい…となればドーターの街から離れた所を走る。
 そうすればチョコボに乗っているとはいえ、気絶したオヴェリア様を載せての移動だ。
 強行な疾走などできない…と言う事だな?」
「はい。
 それにアラグアイの森はモンスターも多く済む広大な森です。
 一般の交易路を通るのが時間的にも短く済み、且つ安全です。
 だから、離れていても半日か…長くて一日差でしょう」

「…ありがとう。少し気が楽になった」

そう言い微笑む。
納得したように表情から陰りが消えていく。

よかった。
やはりアグリアスさんは笑っている顔が一番素敵だ。

「いえ、僕はべつに…」
「ふふ…貴公は謙遜してばかりだな」
「あ、僕の事はラムザと呼んでください」

ラヴィアンとの会話が役に立った。
アグリアスにまだ貴公と呼ばれている事に気が付き、今度は自分から名乗る。

「判った。では、私の事はアグリアスと――
 そういえば、私の自己紹介がまだだったな

 私はアグリアス・オークス。
 一緒にオヴェリア様を救出してくれ」

何故だろう…。
久々の会話だったからか。
アグリアスの言葉に、アグリアスの名を呼ぶ事に…心が震える。

「はい…もちろんです。 これからよろしくお願いします……アグリアスさん」

ええ…助けて見せます…
絶対に…
最終更新:2012年01月02日 19:04