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堅ゆで卵。好物は何かと聞かれたら、そう答える。
別にハードボイルド気取って恰好つけてる訳じゃねえ、単純に味が好みなだけだ。
ガキの頃はよく、鶏を飼ってる家に朝早く忍び込んで、生み立て卵を一個失敬していた。
平均すれば毎日五個くらい生まれているから、盗もうと思えばもっと盗めたものの、
引き際ってのを心得てなければいずれは欲がエスカレートして、バレちまうもんさ。
盗んだ卵は、時間が無い時は生のまま中身を丸呑みで、時間があれば堅ゆで卵にする。
朝食というのは大事なもので、堅ゆで卵を食べた日は盗みも殺しもたいていうまくいった。
そう、うまい飯ってのは栄養面だけでなく精神をも満たしてくれる。
だから、だ。ヤバイ時こそうまいモン食って英気を養うべきだ。
以上の理由を持って俺は堅ゆで卵を希望する。

「却下」

アグリアス・オークスは事も無げに答えた。俺の熱弁は右の耳から左の耳だったらしい。
どうにか説得できないものかと考えていると、外で雷鳴が響き、アグリアスが身を震わせた。
「おうおう、無双稲妻突きの権化ともあろうお方が、たかが雷で」
「違う、寒いだけだ」
「さいですか」
ここら辺で状況説明した方がいいだろうか?
俺、遭難中。アグリアス、遭難+捻挫中。ココ、出産後。
勘のいい奴はもう解ったと思うが、もう少し詳しく話そうか。
旅をしてたらモンスターに襲われて仲間とはぐれて山林の中で道に迷って雷雨が降り出した。
仕方ないから近場にあった小さな穴倉に俺とアグリアスは避難している。
ココはサイズ的に無理だったので外で雨に打たれてる。
で、ココが卵を産んだ。ボコとの愛の結晶だ万歳。俺達食料持ってないんだよね。
何かもうこの辺から序盤のハードボイルドな雰囲気台無しだよな。
「茹でるための水は現在進行形で降っている。火はかとんのたまを使えばいい。
 鍋は、食器や調理器具の入った荷物を持ったココがいるから問題ない」
ちなみに食料の入った荷物はボコとマラークが担いでる。
「なあ、俺達はただでさえ昨日から何も食べてないんだ。次の街まで我慢しろと言われてな。
 で、だ。卵、非常時だし、別によくね? 何ならオムレツ作ってやってもいいぞ。
 実はラファにオムレツの作り方教えてやったの、俺。お前確かうまいって言ってたよな?
 ちなみに一番得意なのは堅ゆで卵なんだ。あのオムレツの三倍はうまいぜ」
「仲間の子を食えるかッ。この卵は孵化させて、面倒見切れないようなら、売る」
「売った先で焼き鳥にされる可能性もあーるけーどなー」
ガゴンッ。アグリアスの華麗なアッパーカットが俺の頭を揺さぶった。
ぐにゃぐにゃに歪んだ視界の中、俺から守るようにアグリアスは卵を抱きしめる。
倒れた拍子にガツンと頭を打つ衝撃とともに俺は意識を手放した。

三時間後、本隊に発見されたアグリアス達は無事保護され、近場の街へ向かうのだった。
ラッドはアッパーが相当利いたらしくまだ気絶中だ。
隊のみんなはさっそく温かい食事をすごい勢いでたいらげるとお風呂に向かった。
隊長と副隊長のラムザとアグリアスは、宿の手配や何やらで少々遅れ、
二人きりで食事する事になった。
スープに、チキンに、オムレツに、ゆで卵。
「ああ、生き返りますねぇ」
「うむ」
ラムザはおいしそうにモグモグと食べている。少年のようなあどけない笑顔が愛らしい。
アグリアスも釣られて笑顔をこぼしながら、ゆで卵の殻を剥く。
「ん……ところでラムザ。ラッドは、料理が上手なのか?」
「ええ、すごく。卵料理に関してはプロ級です。
 この前ラファがみんなに振舞ったオムレツ、あの味つけは間違いなくラッドのものです。
 みんなは気づかずおいしそうに食べてましたが」
「……そうか」
「ラファも料理が下手という訳ではないんですけど、焼き加減や微妙な味つけは、
 ラッドには遠く及びません。あのガフガリオンですら唸らせていましたからね」
「……そんなにうまいのか?」
「ええ。特にラッドの作る堅ゆで卵は絶品です。傭兵時代、よくご馳走になってました。
 鶏の卵、チョコボの卵、果てはモンスターの卵まで、完璧な茹で加減です。
 シンプルだからこそ凄味が解るといいますか、一度食べたら病みつきですね。
 本人は面倒くさがって他人の分は作りませんが、いいお酒とか用意してやると、
 こっそり作ってくれたりするんですよ。何でも美容と健康と便秘に絶大な効果があるとか」

その後、アグリアスはこっそりと上等なワインを買ってきてラッドの部屋を訪ねた。
まだベッドで眠っているラッドの肩を揺すりながら声をかける。
「ラッド、ラッド。起きろ」
「うぅ……む……?」
「おお、起きたか。いや実はさっきは殴って悪かったと思ってな。
 ところで美容と便……健康にいいというラッド特製堅ゆで卵を、
 是非一度ご賞味したいと思ってだな……その……頼めるか? ほら、ワインやるから」
頭を抑えて起き上がりながらワインを受け取るラッドを見て、
アグリアスはそれが肯定の意だと判断し小さくガッツポーズを取った。

ワインを抱えながら、ラッドは言う。
「……ここはどこだ。あんた誰だ。俺は……俺はいったい誰だッ!?」
「記憶喪失オチィィィィィィッ!?」

こうしてラッド特製堅ゆで卵は永劫の闇へと消え去ってしまうのだった。
それとココの産んだ卵からは元気な黒チョコボが生まれましたそうな。

   堅ゆで卵で行く! 完!
最終更新:2010年03月26日 15:27