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「しかし伯、年齢を重ねることによって見極めを知ることもあるでしょうし、
つまりその、なんといいましょうか、熟慮できるようになるのでは」
「それは否定できぬな。が、その分、忘れっぽくなることも確かなのだよ」
「そのような………」

 アグリアスとオルランドゥは、時折とりとめのない話をしながら剣の手入れを
する。
 いつから始めた習慣だったか、すでにふたりとも覚えてはいない。が、二人が
並んで手入れを始めると、他の用事を入れぬようにする程度に、周囲も気遣うよ
うになっていた。このふたりが結論の出ない話題をだらだらと話す余裕など、普
段の生活には無いからである。
 今日の話題は、年齢と技とのバランスだった。
「では、いくつくらいの年齢が一番良いとお考えですか」
「経験と判断力が共に最も充実する年齢か?」
「はい。自分の技に迷いなく、自信と実力のバランスがとれる年齢、です。今までの
お話を総合してお考えいただければ、と」
 オルランドゥは、しばし手を止めた。

 戦いに明け暮れて来た人生の中で、もっとも充実していた日々。それは、隣に
戦友バルバネスが居た時代のような気がする。しかし、あの長き戦いがこの国に
何をもらたしたかを思うと、ただ懐かしんでもいられないが。それでも、老騎士
という名を自分でも受け入れられるようになってきた昨今、懐かしむことも許さ
れようか、とも思う。
 だが、果たしてそれを当時の年齢に換算して答えることがこの場合求められて
いることだろうか?
 迷っている自分を見つめるアグリアスの顔の真剣さに、オルランドゥは、最近
の彼女が何か悩んでいるように見えたことを思い出した。
 そもそもこのような話題を持ち出してきたのも、自分の加入によって、彼女の
存在価値が薄れたのではないかといったような、焦りがあったからではないだろ
うか。彼女がこの隊で担っている役割は、剣だけに納まらないのだが。
 自分のことは自分ではわからない。だから人は他人を求めるのかもしれない……
などと思いながら、オルランドゥはアグリアスに伝える言葉を探していた。

「そうさなあ………。四十(しじゅう)、か。」
「四十ですか」
 アグリアスの表情を見て、オルランドゥは笑った。思っていたよりも高齢だっ
たのだということが、読み取れたからだ。
 アグリアスはまっすぐな気性だし、それに好感も持っている。けれど、それが
表情や仕草に出がちなところに、若さゆえの隙があると常々思っていた。しかし、
それを言葉に出して指摘しても意味は無いと、彼は誰よりもよく知ってもいた。
 自分の欠点とその克服法を知るためには、年月が必要なのだ。
「そう考えると、貴殿はまだまだひよっこということになるな。精進あるのみ」
「はい!」

 アグリアスがオルランドゥに見せた微笑みは輝いていた。ちょうど磨き上がっ
た剣のように。
 四十を迎えても彼女の微笑みの輝きが変わらずにいてくれることを願いながら、
オルランドゥも微笑みを返した。

おしまい
最終更新:2010年03月26日 15:44