私の名はラヴィアン。
愛と勇気と希望と平和と情熱と恋と浪漫と夢と金と酒のために闘う、
ラブリーでプリティーでチャーミングでビューテホーでエレガンツな近衛騎士である。

得意技はブレイク。武器だろーが鎧だろーがブレイクします。
今日も今日とてブレイク日和。
ほーらご覧の通り、アグリアス様が大切にしてる手鏡がパリーンとな!
名づけてミラーブレイク!! おおっ、何だかとってもかっくいー響き!

…………。やばい。メガやばい。ギガやばい。テラやばい。ペタやばい。
ウルトラやばい。グレイトやばい。スーパーやばい。ハイパーやばい。ビッグやばい。
だってこれ、アグリアス様の手鏡、誕生日プレゼントだもの。ラムザさんからの。
毎日欠かさずこの手鏡で身だしなみを整えるくらい重要アイテム。
で、なぜこうなったかというと、谷よりも海よりも深い訳がある。

時は夕刻、宿の部屋の片付けしてて手が滑った。

ああ、ダメ、納得してくれない絶対に。
お仕置きは聖剣技全部ぶち込みですか? それとも一ヶ月くらい禁酒させられますか?
幸運なのは、今、この部屋にいるのは、私だけという事実。隠蔽は可能なのだ。
私と同室しているのは、アグリアス様と、アリシア。
隣部屋にはラファとメリアドールとレーゼが泊まっている。
さてアグリアス様はというと、今は、ボコに朝の餌をやりに行っている。
すぐ戻ってくるだろう事は間違いない。
ではどうするか。アリシアのせいにして逃亡するか。
……私は……何を……馬鹿な事を……考えてしまったんだろう……!
アリシアのせいにして、逃亡する? 仲間を、親友を売り払ってまで助かりたいというのか!
裏切り者になってまで助かったとして、私は何を得る? 生涯拭えぬ後悔だけだ。
ああ! ごめんなさいアリシア、マイ、ベストフレンド。マイ、ベストパートナー。
少しでも貴女を犠牲にしようとしたラヴィアンを許しておくれ!
「ラヴィアン、アリシアの鞄など開けていったい何をしておるのだ?」
「うっひゃはぁ~んいっ!? ああああああ、アグリリ様、オカエリナサト」
振り向けば部屋の扉を開けた所に我等が敬愛するアグリアス様がいるじゃないですか。
「どうした、そんなに慌てて」
「慌てる!? そんな馬鹿な! 万事において知的でクールなこの私が!?
 うろたえるな小僧ー! 白羊宮はうろたえない! 青銅四人を吹っ飛ばせ!」
「えーと、万能薬はどこだったか。いや、エスナでいいかな」
「別に混乱なんてしてませんから落ち着いてくださいアルトリア様。はい、深呼吸」
「アルトリアって誰だ。……本当に大丈夫か? 病院なら近くにあるが」
「それより私は急用があるのでスタコラサッサとつかまつる。シー ユー アゲイン!」
「あっ……そろそろ食事に誘いに来たのだが。やれやれ」

こうして、私は逃げ出した。
アリシアの鞄に割れた手鏡を隠して。
すまぬぅぅぅ! すまぬ、アリシアー!
もし貴女の身に何かが起こった暁には! お詫びとして100ギル上げるから!
マジ、堪忍! ねっ?

さて部屋から逃げ出した私が真っ先に向かったのはラムザさんの部屋だ。
ラッドとムスタディオも一緒のはずだけど今はどうでもええ。
到着するやノック無用で開け放つ私。
「頼もぉー!」
上半身裸のラッドがいた。
パンツ一丁のムスタディオがいた。
黒い下着姿のアリシアがいた。
特に何も脱いでいないレーゼがいた。

ラヴィアンは問う。
「何してんのー」
ラッドが答える。
「脱衣マージャン」
アリシアも答える。
「男側を素っ裸にできたらHのバッグを買ってもらう約束なの」
ムスタディオも言う。
「レーゼの姉御が手強すぎて……このままじゃ俺がバッグを買うハメに」
レーゼは余裕の態度。
「とりあえずムスタ君を脱がしてバッグゲットね。その次はラッド君よ」
「ケッ、上等。その余裕の表情を引ん剥いてやらぁ」
一通り説明を終えた四人は、再び麻雀卓に向かって牌を掻き混ぜる。
こんな面白そうな事やるんなら自分も混ぜて欲しかったと思いつつ、
ここを訪ねた本来の目的を思い出したラヴィアンは再度問う。
「あのー、ラムザさんはいないんですか?」
「ラムザなら武器屋だ。要らなくなったアイテムを整理して売りに行った」
「そ、サンキュ! アリシア、今度は私も誘いなさいよ!」
宿を飛び出たラヴィアンは、一直線に武器屋へ向かう。
竜騎士のアビリティ、高低差無視を駆使して文字通り一直線に。
「見えた! あれが、あれが、あれが武器屋だ!」
武器屋の屋根にたどり着いたラヴィアンは、さっそく入口に回ろうとして、落ちた。

Q.どこに?
A.煙突に!

「グ……パァー!!」
どこぞの四天王最弱のアンデットのような悲鳴を上げて、ラヴィアン煙突大落下。
そして武器屋の中の暖炉へ、爆発したかのようにすすを撒き散らして尻餅だ。
入店早々大迷惑をかけたラヴィアン、咳き込みながら爽やかスマイル。
「こんちやーっす。サンタクロース見習いの者ですが、アホ毛の人いませんか?」
いました。
「ラヴィアン、そんな所からなぜ……?」
「あ、ラムザ様。会えてよかったー。ちょっとお訊ねしたい事が」
すすまみれのまま歩み寄るラヴィアン。その奇妙な迫力にラムザはたじたじ。
「な、何だい?」
「この前アグリアス様に贈った誕生日プレゼントの手鏡、どこで買ったんですか?」
「え、あれは、この街の広場にある、あの大きなお店だよ」
「あー、あー。あの店っすね。了解、ありがとさんでございやした」
用は済んだとばかりにラヴィアンは、すすまみれのまま店を飛び出て広場へ向かう。
はてさて一人残されましたラムザさん、すすまみれの店主が怒髪天、
已む無しにと武器屋の掃除をやるはめになりましたとさそろそろ晩ご飯の時間なのに。
すすまみれのまま入店してきたラヴィアンに、店員達は露骨に嫌な顔で迎えた。
それでも構わずラヴィアンは、ラムザが買った手鏡を見つけるや、
即座にそれをレジへと運びました。

そう! これこそがラヴィアンの計画!!
同じ手鏡を秘密裏に購入し、アグリアスが気づかぬうちに、壊れた鏡と入れ替える!
まさに、そう、まさに! これこそ世紀の完全犯罪!
ラヴィアンによるラヴィアンのための完全計画(パーフェクトプラン)なのだ!!

「5000ギルになります」
「あ、財布忘れた」

店から追い出されたラヴィアンは、こうなったら手っ取り早くお金を稼ごうと、
路地裏へ……治安の悪い夕闇の中へと……姿を消した……。
そして少々の聞き込みの後……ラヴィアンが訪れたのは……。

この街を裏から牛耳る悪の組織、その名も素敵、ゴルベーザ四天王!
さっそくゴルベーザの居城に押し入るラヴィアンさん。
それを待ち構えるは、ゴルベーザ四天王の一人。
土のスカルミリョーネは言いました。
「一人で我等が居城に乗り込んでくるとは愚かな奴! 屍にしてくれるわ!」
「フェニックスの尾」
勝利ッ!!
解説――FFT世界では、アンデットは蘇生すると一撃で戦闘不能になるゾ。
続いてお出まし水のカイナッツォ。
「スカルミリョーネは四天王になれたのが不思議なくらいの雑魚なのだ!」
「らいじんのたま」
勝利ッ!!
解説――魔法と違い即座に攻撃できる『投げる』は強力なアビリティだゾ。

さらに奥に控えるは、四天王が紅一点。風のバルバリシア。
「この風のバリアに身を護られている限り貴様の攻撃は通じぬ!」
「ジャンプ」
勝利ッ!!
解説――バルバリシアの風のバリアは、竜騎士のジャンプで敗れるゾ。

いよいよ登場四天王最強の男、火のルビカンテ。
「よくぞここまで来た、全力でかかってくるがいい。さあ、回復してやろう!」
「右手にアイスブランド、左手にフレイムシールド」
勝利ッ!!
解説――氷属性の武器ならマントを閉じられても大ダメージ! 火燕流は盾で吸収!

そして最後にお出ましするは、一部で大人気の暗黒騎士ゴルベーザ。
「よく一人でここまで来たものだ。いったい何が目的だ?」
「悪者退治をするついでに、あんた等が悪さして稼いだ金を頂くのよ。
 最低でも5000ギルはもらうわ、覚悟しなさい」
「ふむ。なら5000ギルやるから帰ってくれ」
「いいですとも!」
こうして、悪は滅びなかった!
しかし5000ギルを手に入れたラヴィアンは、見事手鏡を買えましたとさ。

宿に戻ったラヴィアン。そそくさと部屋に忍び込み、アリシアの鞄を開ける。
「よしよし、後はこの手鏡を処分して、新しく買ってきた手鏡を置いておけば」
こうしてラヴィアンは人生最大の危機を乗り越えましたとさ。

――と思いきや。
「むっ? これは、私の手鏡ではない! ほら、ここに私の名前が書いてない!」
「その歳になっていちいち私物に名前書いてんですかー!?」
「その反応……ラヴィアン、貴様の仕業か」
「はぅ!? し、しまった口が滑ったどうしよう」
「言え! 私の手鏡をどこにやった!」
「もうだめだーもうだめだー、アグリアス様にー殺されるー殺されるー」

   勝利条件 騎士アグリアスの攻撃に耐えろ!!

「こここ、壊しただと!? こ、この……アンポンターン!!」
「ゴフッ。ギブギブ、首絞めないで」
「怒りと悲しみを胸に刻んで心頭爆発! 聖光爆裂破!!」
「グホッ! な、何かセリフ違くないですか?」
「燃え上がれ、私の小宇宙よ! 積尸気鬼蒼焔!!」
「アチチチチッ! 死ぬ、死んでしまいますって!」
「リミットブレイク! 超究武神覇斬FF7Ver!!」
「ちょ、その攻撃回数はFFT世界では反則……ぎゃああ!!」
「連続剣! エンド・オブ・ハート!!」
「ちょ、その攻撃回数は(ry ぎゃあああああ!!」
悪は滅びた。
しかし――重大な問題が残っていた。
この問題を無視してこの物語を終わる訳にはゆかぬ。
それほどまでに重要な、その問題。

アグリアスさんの出番が少ない件。

「す、すまぬ……ラムザ……」
武器屋の掃除を終えて帰ってきたラムザを、宿の前で待っていたアグリアス。
いきなり土下座をして許しを請てきた。
何事かと大慌てのラムザだが、手鏡が割れてしまった事を聞かされ事態を把握。
「形ある物はいつか壊れます、今回はそれがちょっと早かっただけです。
 でも、あの手鏡を受け取った時に喜んでくれた貴女の思い出までは消えません」
「ラムザ……許してくれるのか?」
「許すも何も、僕は最初から怒ってなんか………………そうだ。
 許して欲しかったら、僕の言う事をひとつだけ聞いてくれますか?」
「な、何でも言ってくれ」
「明日、一緒に出かけませんか? ご飯を食べたり、買い物をしたり、劇を見たり」
「そ、それはつまり、逢引……」
顔を真っ赤にして硬直するアグリアス。
ラムザもまた、頬を染めてぎこちない笑みを浮かべている。
少しして、アグリアスは小さくうなずいて見せるのだった。
明日はスカートを履こう、だなんて考えながら。

後日――訳あって笑顔で怒っているアリシアがラッドと手を組み、
脱衣麻雀でラヴィアンを集中攻撃し素っ裸に引ん剥いてしまったそうな。
「私に罪を着せようとした報いに、着ている服を剥く、なんてね」
「ふ、服を脱いで寒い時にわざと寒いダジャレを言う……あんたは鬼や」
「あっ、しまったアイスブランドが鞘から抜けちゃったぁー」
「さささ、寒ッ! ゴメンってアリシア! マジ勘弁! ねっ!?」

   THE END

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最終更新:2010年03月26日 15:54