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「それじゃあ隊長ぉ、あとはお願いしますね~」
そう言い残すと、アリシアは奇妙な笑みを浮かべ千鳥足で自分の部屋に戻る。
「あ!無防備だからって変なことしちゃダメですからねぇ、あははは~」
ラヴィアンもワインのボトルを抱えながら上機嫌でアリシアの後を追う。
2人の後ろ姿を溜め息で見送ると、ラムザは階段を降り酒場へ向かった。
店を閉めることができずにいた困惑顔のマスターに頭を下げると、
マスターは少し安堵の表情を見せ、テーブルに突っ伏している最後の客に目をやる。

「だいぶ飲んでたようだからねぇ」
ラムザは申し訳なさそうに再び頭を下げる。
その横で、まるで無関係を装うかのように、安らかに寝息を立てるアグリアス。
再び溜め息が出そうになるのを堪えてやさしく声を掛けるラムザ。
数刻前のことである。
ラヴィアンとアリシアに誘われ酒場に来たアグリアス
「騎士たるもの泥酔し醜態を晒すなど…」と、
普段は嗜む程度しか酒を飲まないはずのアグリアスだが、
酔った上司を一目みたいという、2人の部下の屈折した好奇心に圧倒された。
「一口ぐらいなら、いいだろう」
そう言うアグリアスのグラスに絶え間なくワインを注ぎ続ける2人。
いつしか酒場は、たがの外れたアグリアスの説教部屋と化し、
まもなくオヴェリア教の聖地となり、やがてラヴィアンとアリシアの恋愛道場となった。

ようやく酒場が静けさを取り戻したのは、話題がアグリアスの恋愛に及んだ時だった。
「ラムザ隊長のことどう思ってるんですかぁ?」
「隊長を見る時の目が恋する乙女って感じですからねぇ、うふふ」
ラヴィアンとアリシアが唐突に核心を突いてくる。
むしろ2人が上司を泥酔させたのは、この答えを聞くためと言っても過言ではない。
しかし、当のアグリアス自身もその答えを見出せずにいた。
彼女がラムザに特別な感情を寄せるようになったのはライオネル城での一件からだ。

ドラクロワ枢機卿の本性に気付き城を脱出したアグリアスは、
強風とともに打ち付ける冷たい雨に晒されながら必死で逃げた。
あの時、寒さと疲労で感覚の無い手足を動かしながら彼女の心はラムザを求めていた。
ラムザの屈託のない笑顔、信念を貫き通そうとする眼差し。
裏切りと欺瞞で溢れた世界でも、それだけは信じることができた。
たとえ宇宙の法則が乱れ、カオスを越えて終末が近づこうとも、
不変であり続ける確かな思い…。
「ああん!黙ってちゃわかんないですよぉ~」
「はっきりさせちゃいましょうよ、ね?」
酩酊した2人の声で現実に引き戻される。
アグリアスはだいぶ酔いが覚めてきたようで、先刻までの喧騒も嘘のように感じられる。
「もちろん大事な仲間だが、それ以外の感情はない」
時候の挨拶のように定型化した返答で受け流した。
その答えに不満気な表情を見せるラヴィアンとアリシアを放って置いて、
アグリアスは再び思いを巡らす。

ラムザはどのような女性が好みなのだろう?
明朗快活な女性なのだろうか?それとも可憐で慎ましい女性か?
少なくとも不器用で無骨な女性ではないことは確かだろうな。
そう思うとアグリアスは自嘲気味に笑い、考えるのを止めた。
ラムザには自分なんかよりも相応しい女性がいるはず。
結論に辿り着いたところで睡魔がアグリアスを襲う。

ほとんど意識のないアグリアスの腕を自分の首の後ろに廻し体を支えると、
ラムザは今一度マスターに頭を下げながら階段を上った。
途中で誰かに見られるならば誤解を招くと思い、妙な緊張感でアグリアスの部屋に向う。
幸い誰にも合わずに部屋の前に着き、アグリアスに声を掛けるが応答はない。
アグリアスと2人きりになることも久しくなかったせいか、
ラムザも幾分気分が高揚している。
ドアノブを廻して扉を開けると、ほのかに香るシャンタ-ジュの匂い。
女性特有の甘く切ない香りに戸惑いながらも、
部屋の奥にあるベッドにアグリアスを寝かせ毛布を掛ける。
「っん?うぅん」
ラムザが毛布を掛けると寝返りとともに甘美な声が漏れた。
アグリアスは祈りを捧げる修道女のように顔の前で手を組み、両目を閉じている。
彼女の柔肌は、沈む夕日が無音の雪原を染め上げるかのごとく彩り、
口唇は、春の訪れを告げる花のように鮮やかに映える。
窓から注ぐ月の光が悪戯に彼女を包むと、体の起伏に淫らなアクセントをつけた。
純粋無垢な表情と妖艶な体は、危ういところで均衡を保ち、
それは繊細で壊れそうな彼女の心そのものを思わせた。
ラムザは無意識のうちにアグリアスの艶やかな口唇に吸い込まれる。
既に寝込みを襲うという背徳感は、ラムザの理性を引き止めるどころか、
欲情を増進させる要因のひとつとなっている。

結局、理性と欲望の壮絶なせめぎ合いに決着を付けたのは、
アグリアスの首筋から香る甘い誘惑のシャンタージュだった。
シャンタージュは鼻腔を抜け、いくつかの脳内物質に形を変えると、
的確に思考を狂わせる波長を出し正常な判断を困難にさせた。
ラムザの脳は大義名分を得た将軍のように、
自己の正当性を高らかに主張し、全軍に突撃の号令を出す。
口唇と口唇の間は、互いの吐息がかかるかどうかの距離にまで達し、
床にだらしなく伸びた二つの影がもう完全に一つのものになりかける。
その時、アグリアスの大きな瞳がラムザの円らな瞳を捉えた。
最終更新:2010年03月26日 15:58