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10日
夜になり、宿の屋上の風が強くなった。
髪を結んで来るべきだったと見張りに立った彼女らは思った。

「あ~退屈ぅ~!」
アリシアが背伸びしながら言った。
ラヴィアンは生真面目に街頭に視線を走らせていたが
不真面目な相方の姿に溜め息をついた。
「最近…変わったわねアリシア」
「俗世に馴染んだのよ 私は努力家だもの」
アリシアは誇らしげに言う。
「間違っている…とは思わない?」
「なにが?」
「…」
ラヴィアンは痛くもない頭を抱えた。
ガチャと屋上のドアが開いた。
傷心のムスタだった。
「当たって砕けたわね」
「…何に」
(良からぬ入れ知恵でもされたのかしら…)
後年、ラヴィアンが記した人物評にはこうある。
『ムスタはアリシアの玩具であった』
『然る後 みんなの玩具となった』 と。
「…駄目だったよ」
「そんなに落ち込まないで」
ムスタに優しく寄り添うアリシアの図。
(うーん…)
ラヴィアンには愚かな下僕と悪女の図に見えた。
本分の見張りを忘れそうになった頃、屋上のドアが再び開いた。
「チッ…ムスタもいやがる 銃はともかく銃声は厄介だぞ」
「撃つ前に私が一撃で沈めるわよ」
出てきたのは竜騎士♂とモンク♀であった。
(あの面子で厄介なのは…やはり算術士♂か)
ラッドは寝台に横になり考えを巡らせていた。
(アイツだけは現役で隊の花方だ 下手したら隊最強…)
不意を突けば隊を全滅させることも可能な力が算術にはある。
しかしラッドに緊張感は無かった。
(マジで殺り合う訳がないからな)
若干一名、
アグリアスに殺意を向けていた♀がいたのをラッドは思い出した。
(まあ… でも相手が悪い)
ゲーム感覚でラッドはこの状況を楽しんだ。
しかも自分の行動によってはラムザを…
(これが裏切りの快感なんですかね師匠)
相変わらずラムザは読書を楽しんでいる。
「…お姫様は呑気なこった」
「オヴェリア様が呑気でいるものかよ!」
「あ… 違う違う!!」
からかいの言葉をラムザが誤解した。
「そんな不謹慎な男じゃないからな俺!?」
「… 僕は呑気なんかじゃないぞ」
(分かってンじゃねーかよ!!)
舌打ちしてラッドは立ち上がった。
(…シーフ♂やら忍者♀なら窓から侵入して来るかもな)
窓の鍵を確認しカーテンを閉めた。
「…ン?」
隣の部屋の微かな話声が耳に入った。
(アグリアスの部屋からだな)
壁に耳を当てた。
「ラッド 盗み聞きなんかよせ!」
(この声… まさかもう始まってンのか!?)
ラッドは焦った。
ラッドの蛮行にラムザは怒りを見せた。
「壁から離れろラッド!」
(アグリアスに話術士♀をぶつけるとは…)
ラッドは壁に張り付いたまま動かなかった。
「……」
(しかもこの話は… 死ぬ気なのか話術士♀は?)
ラムザは剣を掴んで、飛んだ。
「お お お!?」
激怒したラムザには流石にラッドも恐怖を覚えた。
「ま 待て なんか恋の話をしてンぞ!」
「…ッ!?」
鞘の付いたままの剣を振り上げたラムザの動きが止まった。

部屋のテーブルで私達は話をしていた。
「…場所を変えないか この宿の壁は薄いようだ」
「そうみたいですね」
ラムザのいる隣の部屋が騒がしくなって
アグリアスは落ち着かなくなった。
(この女を部屋から連れ出してラムザから遠ざけるのが私の任務)
「彼が盗み聞きしていたりして」
「……」
アグリアスはテーブルから立った。
「宿の側に酒場があったな そこに行こう」
でも私は動かなかった。
「彼に聞いてもらう為に 私はこの部屋に来たんです」
「なん だと…?」
「壁越しでしか伝わらない言葉もありますから」
アグリアスの目つきが急変した。
この台詞で疑念は確信に変わっただろう。
彼女の鋭い視線を私は笑顔で見返した。
(ゴメンネみんな 私はどうしても…この女を許せないのよ)
「出てこないぞ…」
半開きのドアからシーフ♂は廊下の様子を伺った。
「そもそも何故アイツは部屋に入ったのだ」
算術士♂は落ち着かずに部屋を往復した。
「あの子…我慢出来なかったんだわ」
忍者♀は虚空に呟いた。
(計画の変更が必要だ)
算術士♂は爪をかむ。
話術士♀がアグリアスを遠ざける。
シーフ♂がラムザの部屋を訪問。
不意にラムザとラッドの武器を盗んで無力化。
その後は忍者♀も部屋に突入
ラッドを縛り倒してラムザを連れ去る算段だった。

「屋上の方も大丈夫なのかよ…」
(もう二人は仕掛けている筈だな)
見張り番を倒しておけば安心してラムザを連れ去れる。
明日の朝まで追手の心配も無くなる。
「今夜の番はアリラヴィよねぇ… あの子も心配」
「ラッドも一緒に連れ去る気でいたからな」
「…ナイトごときにに遅れをとる二人ではあるまい」
(女は目先に走る …これ以上計画を狂わせてくれるなよ)

不毛な時間は過ぎていった。
「どうする?」
「仕方ない アグリアスが部屋から出ないならラムザを連れ出す」
「誰かに見られた面倒なことになるわよ」
(既になっていそうだがな)
屋上の二人が戻って来ない。
算術士♂は算術に使えそうな数字を考え始めていた。
「見張りご苦労さん」
やあやあ、と竜騎士♂は挨拶をする。
「差し入れかしら?」
「…そうは見えないけど」
(何か おかしい)
ラヴィアンは近づく二人を警戒した。
モンク♀はラヴィアンを強烈に睨んでいた。
それに関しては心当たりがあったが
竜騎士♂が武装しているのは気になった。
「見張り中にイチャイチャと遊んでいるのかお前達は!」
モンク♀は辛辣に言い放つ。
ラヴィアンが肘でアリシアをつついた。
アリシアはムスタをつついた。
ムスタは仕方なく頭を下げた。
「……」
「…… これでは王女を守れなくて当然というもの」
「なんだと!」
モンク♀の挑発にラヴィアンは応えた。
「この二人…仲悪いのか?」
「いわゆるネトラレ? ラヴィアンやっちゃったの」
「ええ!?」
「やってない!」
アリシアは状況の分からないムスタを曲解させた。
「まだ…抑えろよ?」
「…ぐ…うぅ…」
竜騎士♂に掴まれてモンク♀は沸き上がる怒りを必死に堪えた。
「話があるなら聞くけど… 無礼な口は謹んでもらいたいわ」
「…口を謹むのは君の方じゃないのか?」
竜騎士♂がラヴィアンに言い返す。
「ラムザの出奔さえなければ今頃俺達は君を指示する立場にいたんだ」
竜騎士♂も明確な敵意を表に出した。
「…なんか 見損なったな」
ムスタが口を挟む。
「機工士風情に俺達の苦悩が分かるものか」
竜騎士♂の声には苛立ちが感じられた。
「ラムザが主従の情を忘れさえしなければ…」
「ラムザ様が何を忘れたっていうの?」
今度はアリシアが口を挟む。
「忘れている! 新参の貴様等に惑わされて使われて!」
「俺達がラムザを利用しているって言うのか!!」
ムスタが竜騎士♂に詰め寄った。
「結果はいつもそうだろ! …ラムザは人が良すぎるんだ」
「それがラムザ様じゃない」
アリシアの言葉に、そうそうとムスタは頷いた。
「…だ …黙れ!」
竜騎士♂は武器を構えたが、表情には動揺が見えた。
「…不満があるなら話せよ 俺で良ければ聞いてやる」
ムスタは怯まなかった。
「……俺は ラムザの隣なんだよ …2なんだ」
「…?」
「あの女騎士が入る前に除名されかけたんだよ俺!!」

時に激しく、時に涙を流しながら、竜騎士♂は不遇を伝えた。
ムスタはラムザの為に、それに熱く答えた。
そこには男の友情があった。

「やっぱり俺 今のラムザを信じてみるよ」
清々しい笑顔で竜騎士♂は振り返った。
「ルザリアに着いたら俺達もザルバッグ様に掛けあってみないか?」
モンク♀は竜騎士♂の首筋に無言で手刀を落とした。

最終更新:2010年03月26日 16:44