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「なあムスタディオ、ゴーグに埋まっている失われた科学文明って、キカイ以外にもあったのかな」
「そうだなあ、うーん、たまに状態がいい古文書みたいなのが出るときもあってさ、
 オレら機工士もたしなみとしてそれを解読するくらいはやってるんだ。ちょこちょこそういう文章は読んでる。
 科学と魔法の架け橋になった錬金術っていう技術とか、ちょっとお前らが試してみてもよさそうなのもあるらしいな」
「何で僕らが試してみてもよさそうなんだい?」
「あー、なんと言うかな、機械を造ったり直したりするのって、経験とか手先の器用さとか技量なんかの勝負だけどさ、
 錬金術だと魔法の知識や魔力の方がものをいうらしいんだ」
「へえ、カガクと魔法は案外相性がいいものなのかな」
「そうかもな。たとえば、禁呪のたぐいだって忌み嫌われた技術で死者の蘇生なんかもやったヤツがいたみたいだな」
「アレイズの魔法やフェニックスの尾とはどこが違うのかな」
「ああ、オレらがお世話になってるそういうのって、ついさっき心の臓が止まったばかりの人間に息を吹きかえさせるもんだろ。
 オレもお前がムチャクチャなこと言い出したときゃ、死んだおふくろとじいちゃんばあちゃんが河の向こうから手ぇ振ってたの一瞬見たけどな!」
「ハハハハハむすたでぃお君何ノ事ヲ言ッテイルノヤラ僕ニハサッパリ判ラナイナア?」
「ま、そういうのじゃなくって、墓場に埋もれて骨も朽ちてきたようなホントの死者を復活させようって試みなんだ。
 いわゆるリビングデッド系のモンスターにさせるってのとも違って、本当に生身の状態でよみがえらせる、と、いうこと、らしいんだ」
「僕は・・・神様だとか信仰なんて持ち出すのはもううんざりだけど、神の領域、としか言いようがないあたりまで手をだしたってことかな」
「戦乱の時期とかはやり病がひどかった時期とか、その何年か後に流行ったらしいぜ」
「やっぱり、家族や恋人や、親しい人をよみがえらせたかったんだろうね」
「そのまた応用でさ、好みの姿かたちをして知恵もある人工の人間を無から作ってみせる技術とか、
 ルカヴィのたぐいと契約して・・・って、オレもあんなゆかいな枢機卿倪下見るまで信じちゃいなかったけど。
 なんでも、そいつらをこの世に召還するための器にするかわりにその力を使って死者を復活させるとか。
 『やってみたヤツがいた』って記録は結構あるな」
「あまり考えたくないけど、不老不死を求めた権力者の命でそういうことをした人もいたかもしれないね」
「悲惨な結果に終わったって後日談があったりなかったりでまちまちでさ。
 成功するにはしたけど、術者がルカヴィとの契約を出し抜くのに失敗して正気を失ったりとか、そんな『実例』もあったけか。
 ま、ほとんどが結末ぼかしててあんまり信用ならないけどな。
 実は娯楽小説のたぐいで出版されたのかもしれないし」


ランベリー


ひらひら極彩色の南国の蝶がレディの鼻先をかすめ、背中のほうへととんでゆく。
異国から取り寄せた植物についてきた、ランベリーの中庭でいつの間にか増えていったそれは、
ある女性とおなじ名をもっていた。
燐粉を振りまかれたレディは二、三のまばたきしたのち、素早い身のこなしで蝶を捕らえる。
くしゃりとつぶす。
「レディ!やめなさい、命をなんだと思っているの?」
レディの耳は常人のそれをはるかに超えた聡い耳であったが、この手の姉の苦言はとりこぼす。
もう1匹蝶をとらえ、一枚一枚羽根をむしってぽいと捨てる。
「は、何だって言うのよ。私たちがここにこうしている事自体、生命への冒涜もへったくれもないわ」


ゼルテニア


「ね、そこの騎士さん、少しお話できないかしら」
教会内にラムザとディリータを残し、一行は抜かりなく周囲を警戒していた。
ディリータの連れだという若い女がアグリアスに声をかけた。
「そんなこわい顔しないでったら。何もとって食おうってワケじゃないのに」
魔女、バルマウフラ・ラナンドゥはくすくす笑う。
「貴女は・・・うん、そうね、剣より魔法の方が実は得意みたいだけど、ん、貴女の本質はあくまでも騎士ね」
「何が言いたい」
「私も魔女のはしくれだから判るのよ。貴女、最近私のご同類と妙に縁があるみたいね」


ポエスカス


「このあたり。ランベリー城は地下にわりあい大きな空間があるんだ」
マラークとラファが大きな紙を広げて熱心に見取り図をかきこんでいく。
前の「仕事」がら、バリンテンの政敵になりうる人物の居城や邸宅の見取り図がいくつも
彼らの頭の中にははいっていた。
悲惨な過去を思い出すばかりの記憶を無理に引っ張り出す事もないとアグリアスは気遣ったが、
みんなの役に立てるなら嬉しい、とラファは屈託なく笑ってみせた。
手持ち無沙汰なアグリアスは、つい、頭に手をやってカチューシャをはずし、
ぷらぷらともてあそぼうとしていた。
ない。
つい最近の戦闘で破損してしまったことにようよう思い当たる。
野営している彼らが囲む焚き火が風をおこし、肩までの金の髪をなぶる。
「領主がマトモだったときなら普通に城門前の防衛を突破でいいんだけどな。
 どうやら奴さんたちゃじめーっとした場所の方がお好きみてぇだし、
 どうせあの銀髪鬼も地下でルカヴィになっちまうかもな」
学がないかわりラッドの野生のカンはずば抜けている。
「でも、地下といってもあそこは地下墓所よね。
 死者を愚弄したくはないけれど、最悪の場合、
 先に向こうが死者を穢してアンデッドのたぐいに仕立てて来るかもしれないのね」
レーゼが眉をひそめる。
「あそこは先代、つまりはいまのエルムドア公の父君にあたる方のときまでだな、
 騎士よりも優秀な魔導士を多く擁していたというが、おそらくそういう人間の相手はもう出ることもないだろう」
ベイオウーフの発言に一同は覚悟をあらためる。
「ランベリーの魔女、ですね」
父の語ってくれた昔話。
ランベリー城の勇猛果敢な女性魔導士は騎士以上に騎士らしかったと、
バルバネス・ベオルブの末息子は父の声を思い出す。
「金色の瞳とあかがね色の髪、知略と魔力で歴戦の名将をもしのいだ伝説の魔女ですね」
「なあ、あすこって実は結構五十年戦争でお城が傷んでるっていうよな」
一行の最年長者である剣聖オルランドゥがムスタディオの言葉に追加する。
「あそこは先代当主のとき篭城戦も経験しているからな。二十年ほど前の事だ。
 当主一族や騎士、あかがねの髪の女魔導士はもちろんのこと、
 近くの領民達も城に逃れて持久戦になったことがある。
 いくさの死者に加えて、食糧不足で餓死した者も多かったらしいな」
「それって・・・あんまり考えたくもないですけど、やっぱり・・・・・・」
「役に立たないからってことで子供やお年寄りが真っ先、ですか」
おそるおそる切り出すアリシアとラヴィアンに、オルランドゥが無言でうなずく。
「現当主がおかしくなったのってさ、そういう光景を見ちまったのがひとつにあるかもしれねえな。
 ホレ、当主のご子息さまさまはほかのガキとは扱い違って別格になるし、な」
ラッドがキセルをぷかっと吹かし、ひとりごちる。


ランベリー


くるりくるりと指先に髪の毛をまきつけては、レディは不満げに鼻を鳴らす。
「もうあのインチキ薬師はーっ。
 全然キレイな金色に色が抜けないじゃない、地の色が丸見えだわ。
 やっぱり生まれつきの金色には叶わないのね、もう、つまんなーい」
おおむね金髪に見える彼女と姉の髪は、うっすらと赤い地の色がところどころ見える。
セリアの耳が侵入者達の足跡を聞きつける。
「・・・・・・・くるわ、レディ」
妹に警戒を促すよりもむしろ己に言い聞かせ、瞑目して心を静める。

さようなら、アグリアスお姉ちゃん。


ランベリー城内


その優しげでたおやかな女の姿を脱ぎ捨てたアルテマデーモンたちは
断末魔の咆哮とともに灰と化した。
白くさらさらした残骸から、アグリアスはバレッタを見つけ、拾い上げた。
裏に小さく「まだ名前を与えることも叶わなかった私のかわいい娘へ」と刻まれていた。
「何してんだアグねえ、早く!」
バレッタをそっと懐にしまう。ムスタディオに促されるまま地下墓所へと急ぐ。
髪留めもなく、短くなった金の髪が揺れる。
地下墓所にたどり着いた一行が見たものは、
魔のものに全てを喰われたエルムドア公とかりそめの生を与えられた死者たち、
そして、無数の人骨。
「私の手よりちいさいね」
詠唱のため天に伸ばした手の影は、壁に埋め込まれるようにしまわれた子供の手の骨よりも大きかった。ラファが小声で兄に囁く。
マラークは、妹を守る立ち位置をとったその姿勢で詠唱を続けつつ、くしゃりと頭をなでてやる。
「ハッ!いまさらルカヴィなんざ珍しくもなんともないって!あらよ、邪心封印一丁あがりっとぉ!」
おびただしい数の朽ちた墓標、一歩ごとに踏みしめて砕いてしまう白いもの、
それらが語る悲惨な歴史、重苦しい空気をムスタディオとラッドが快活に払いのける。
「うちの大将、ボンボン育ちだって舐めんじゃねぇぜ、この面白銀髪オニさんよ!って、あ、もう髪なんかねぇか。
 なんせアイツは素手でお前らのお友達をぶっつぶしたこともあるんだぜぇ?
 ここまできたら神も悪魔もどっちもこわかねぇや!」
「不謹慎・・・」
背後から迫る亡者を忍者刀でなぎたおしざま、ニヤリ、と笑ってラッドは振り向く。
呆気にとられていたメリアドールがつられてくすりと笑う。
可愛らしい笑みのまま穢された死者を自慢の剣で迷いとともにたたき斬り、前進していく。
歴戦の勇士でありながら、その生涯で初めて人から魔の眷属へと化したものと対峙したオルランドゥも苦笑しつつ、
ラムザ、アグリアスらと素早く目配せしあう。
亜麻色の髪、金の髪が跳ねる。
「そう、私もちょっと前にここの記録を読む権限をもらって読んだ事があるわ。
 ランベリーの篭城戦はね、最終的には聖職者たちばかり何一つ失うことなくのうのうと生き残ったそうよ。
 領主の母親と妻。つまりはメラズーマ・エルムドアの祖母と母親にあたる人ね、
 その人たちすら食べる事を遠慮して、結局当主の母は亡くなったそうよ。
 それで聖職者たちはどうしていたかって言ったらもう、ね。
 自分の手を汚すのはイヤだけど食べる量は確保したいしってことで、、
 いくさの役に立たない子供は親の手でアジョラの御許に送ってやってはどうかって、
 信仰をダシにそうけしかけたバカな聖職者もなかにはいたらしいわ」
ラムザに聖石を託して肩の荷が下りたメリアドールは、
初対面のときからすれば考えられないくらいあっけらかんと教会組織の腐食に思うこと、
彼女自身が己の経験から信仰やグレバドス教会の体制に疑問をもったときのことを一息にぶちまけた。
「アハハ、かえってすっきりしちゃった。
 確かに私と弟と・・・父さんは、信仰が国の柱になった新しい世界をつくりたいと思っていた。
 けどね、だからといって信仰に身を捧げた、ううん、表向きそういうことにしている人間を
 全部が全部肯定することもできないと思っていたわ」
ずんずん早足でランベリー城を探索しつつカラリと笑う。
アルマ・ベオルブの姿はなく、激しい戦闘が繰り広げられたはずの大広間にもその痕跡は何一つ残っていなかった。
打ち砕かれた調度品、アグリアスが叩きつけられた壁、ラムザがアルテマデーモンを斬りつけたときの返り血、
魔法の炎が灼いたカーペット、全てがなにごともなかったかのように元通りの状態だった。
セリアとレディだったものの残骸もなかった。
ただ一つ、懐にレディのバレッタだけが残る。
取り出してもう一度それを握り締める。
――――ねえ、それでアグリアスお姉ちゃん、いまコイビトはいるの?


子供達の無邪気な笑い声、丸みの残るぷっくりとした二組の手の感触を首筋近くに感じる。
急に頭が少し重くなったように感じたアグリアスの背に、ふわりと腰までの黄金の髪がかぶさる。
「僕がそうだと言ったら気に入らないかい?」
もとの長さの髪に背後からラムザが触れる。


――――もうちょっと頼りがいのある男の人のほうがいいんだけど、いいわ、今回はセリアが許してあげる!


「はは、手厳しいな」
篭手と手袋をはずし、素手になったラムザがその髪をもとの通りのお下げに編み込み、バレッタで留める。


――――ね、コイビトならキスしてみせて!


「あらら。私はお邪魔かしら」
面白がるメリアドールが小さくスキップしながら大広間を去っていく。
「どうする、アグリアスさん?」
「ばか」



「セリアもレディも、素敵なレディになれたと思うわ」
無数の子供達の生、母たちの嘆きの墓標となった白亜の城を、
信仰を失ったものたちは彼らなりの哀悼の意を表して去る。



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最終更新:2010年03月26日 17:25