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「人の夢と書いて儚(はかない)…何かもの悲しいわね…」

1人呟くように口にした彼女の女言葉を初めて聞いた時、ラムザは少しドキッとした。
それまでは堅い印象の騎士口調しか耳にしていなかったし、彼女自身の印象もそう。
お堅くて気丈な女丈夫、それがラムザの目に映るアグリアスだった。

しかし彼女が正式に仲間として加入して程無く、時折女性らしい一面を垣間見せるようになった。
どうやらプライベートでは普通に女言葉で話すようだと知った。

「アグ姐が女言葉使ってらー、違和感ありまくりだな。もしかして頭でも打ったのか?」
そう言ったのはムスタディオ。アグリアスと元部下2人の会話に目を円くして。
直後アリシアとラヴィアンに脇を固められ、何処かへ連行される彼をラムザは敢えて放置した。
彼女の反応が気になったからだが、当の本人は話し相手が2人とも消えてしまった為に
少し所在無さ気だったくらいで、ムスタディオの発言は悪意の無い冗談だと受け流したらしかった。
何故職務中の女言葉を封印したのか?
王女の護衛隊長として、その責務を果たさんとする気負いがそうさせたのだろうか。
オリナスの誕生で立場が不安定になったとは言え、
王女としてのオヴェリアは元老院にとって重要な手駒の一つだ。
政治の裏側を知らなくとも、一国の王女の護衛隊長を勤めるに当たっては重責があっただろう。
そしてもう一つ。
近衛騎士として王女の身近で仕えること、万一の場合に影武者として囮になれること、
そして僅かながらイメージ戦略としての理由も含め、護衛隊には容姿に優れた若年女性という条件がある。
「若年」で「女性」であれば当然舐められ易い。
彼女の話し方には、威厳を示し邪な感情を抱かせまいとする思惑があったのかも知れない。

それはさて置き、人身掌握、こと恋愛に於いてギャップは時に強烈な武器になり得る。
彼女の女性らしさその物も魅力的だが、それを知った途端に普段の気丈さが危うい物に感じられ、
王女を守る使命に燃える彼女自身を守ってあげたいという気持ちがラムザの中に芽生えた。
初めはその想いにラムザ自身気付かずにいたが、長く行動を共にする内に何時しか自覚されるようになっていった。
「ねえ、ラムザ。偶には一緒に飲まない?少しなら平気でしょ?」

ここは貿易都市ウォージリスの酒場。ディープダンジョン探索が一区切りつき、しばしの休息となった。
僕は疲れもあって皆と少し離れ、一人ミルクを飲んでいた。
これを飲みきったらお先に部屋で休もうかな、と考えていたら想い人が綺麗な声で僕に話し掛けて来た。
「このワイン、結構気に入っているの。試しに飲んでみて。その…無理強いはしないけど」
はにかむアグリアスさんの頬は少し朱に染まっている。
ああ、可愛いなと思う。
さっきまで彼女と一緒に飲んでいたラヴィアンとアリシアは
今はラッドとムスタディオ、マラークのグループに嬉々として絡んでいる。
面白いネタでも見付かったのか。

「じゃあ、頂きます。……あ、本当だ。美味しいですね、コレ」
アグリアスさんの瞳が少し輝く。
「そうでしょ?良かった、お口に合ったみたいで」
貴女が勧めてくれるお酒ならなんだって美味しいです。
「さくらんぼで造ったワインなの。珍しいわよね」
さ、さくらんぼ……。普段気丈に振舞ってるアグリアスさんとのギャップが……
あれ?僕もしかして酔った?でもこんなに早く回らないよな。量もまだ少しだし。
だ、駄目だこの調子じゃ。折角アグリアスさんが一緒に飲もうって言ってくれたのに。
「あ、あの……どうかしたんですか?」
質問の仕方をちょっと失敗した。
アグリアスさんがきょとんとした顔になる。
「え…どうって…?」
「あ、いや。2人で飲もうって言うのは…何か相談事でもあるのかなって」
そう聞き直すと、アグリアスさんは自分のワイングラスに視線を逸らした。
「ん…その、相談事というか……。えっと…」
心なしかさっきまでより頬が赤くなった気がする。変な期待感を持ってしまい心臓が早鐘を打つ。
違うって。何を期待してるんだ僕は。やっぱり酔ってるのか?
「ラムザ…は、私のことをどう思ってる?」
「え……?!」
心臓が爆発したかと思った。
「そ、それってどういう…」
「あ、あの、御免なさい。聞き方が悪かったわね。
 ほら、オルランドゥ伯やベイオウーフ殿の剣技って凄いじゃない。
 特に伯は私の聖剣技に加えてメリアドールの剛剣、ガフガリオンが使っていた暗黒剣まで使いこなせるわ。
 技のキレや破壊力も私より数段上だと思う。
 私は今でもちゃんとラムザの力になれているのかな…って少し不安になってしまって」
そういうことか。落胆したのを彼女に気付かれないように振舞いつつ、『はげます』言葉を考える。
「こんなこと考えるだけ無駄だって解っているんだけど。
 酔っちゃった所為かな。変なこと言って本当に御免なさい」
「いいえ、変なことなんてそんな。僕に話せることなら何でも話して下さい。
 人に聞いて貰うだけで気が楽になることもありますし、僕にできることは何でもしますから。
 それに、アグリアスさんは充分過ぎる位良くやってくれています。
 負傷した時、貴女の白魔法には僕だけじゃなく皆が救われていますから。
 貴女はこの隊……いえ、僕にとって必要な存在なんです」
最後の一言はちょっとやり過ぎたかな。言葉が口から出た直後、妙な汗を掻いた。
顔が赤くなっているのが自分でなんとなく解る。
「あ…」
アグリアスさんもかなり顔が赤い。僕より赤くなってるんじゃ…?
やや俯き加減で、視線は泳いでいる。
やばい。何かフォローを入れておいた方がいいかも知れない。
でも何時かは伝える心算なんだし、いっそ今でも……
「…その…」
やや俯いたまま、上目遣いで僕の目を見詰める。
「あ、ありがとう、ラムザ…」
「……」
「ほ…本当は、ね、そこまで真剣に悩んでるとかじゃなくて…
ラムザの言葉が欲しかったって言うか…
どのくらい私のことを気に掛けてくれてるんだろう、って……
ラヴィアンが変なこと言うから…。というか、私のことをっていう質問は本当は……」
「……」
「と、とにかくありがとう、ラムザ。私はもう休むわ。
相当酔ってるのかも知れないし。
貴方も疲れてるでしょ?今日は早目に休んだ方がいいかも知れないわね」
「…はい」
「じゃあお休みなさい。……き、機会があったらまた…2人で飲んでくれる?」
「も、勿論!喜んで」
「……ありがとう。お休み」
夢見心地ってこういうのを言うんだなあ。ぼんやりとそんなことを考えたりした。
アグリアスさんも僕のことを……。
いやいや勘違いじゃないか?
いやいやいや今のは絶対大丈夫だ。
いやいやいやいや調子に乗るな僕。痛い目を見るぞ。
いやいやいやいやいやどう考えてもさっきのは確実に僕に惚れてるだろう!
いやいやいやいやいやいや……ん?
視線を感じるぞ……?

三馬鹿がニヤニヤしながらこっちを見ている。
ラヴィアンとアリシアは手を取り合ってはしゃぎながらチラチラとこっちを見ている。
ベイオウーフとレーゼは何やら満足気にこっちを見ている。
オルランドゥ伯は御満悦といった表情で酒を飲んでいる。
クラウドは我関せず。
メリアドールとラファは……どこへ行った?

少し離れているとは言え、同じ酒場内にいる仲間達の存在を一時忘れていた。

「何てことだ…」
僕は頭を抱えた。


END
最終更新:2010年03月28日 16:36