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 イヴァリース国とオルダリーア国の国境近くには、小さな温泉宿がある。
 イヴァリースでは珍しい、極東のスタイルを取り入れた旅籠で、一般的な地図には記載されていない。
そもそもイヴァリースでは帯や浴衣など東国の文化は未だ浸透しておらず、侍などごく限られた技術を持つ者が
着用するもの、という認識があるせいか、この宿の建築様式をはじめとして、寝具、食事からこの宿の名物と
されている露天風呂も一般的ではなく、存在自体が広まっていない。経営者が教会嫌いということもあって、
異端者一行には数少ない癒しの場として重宝がられていた。

「アグリアスさんの背中、私が流しますね!」
「ん? ああ、気を遣わなくていいのよ?」
 一糸纏わぬ姿のラファが、湯船に浸るアグリアスの腕を取る。アグリアスも緊張が解けているのか、
女言葉に戻っている。
「いいんです! 次はアグリアスさんって決めてたんですから」
「何を遠慮してるのよアグリアス。せっかくなんだもの、お言葉に甘えたら?」
 ぐいとラファが腕を引く様を見てか、同じく湯船に浸るメリアドールが笑っている。
「私もこの前流してもらったのよ、のぼせる前にしてもらうといいわ」
「いつも一言多いわねメリアドールは…まあ、確かにこんな機会もあまりないし」
 ちゃぷ、と水面を揺らしてラファの手をとりアグリアスが立ち上がる。

 小さな木のいすに座るアグリアスの後ろで、ラファが嬉しそうにアグリアスの背を擦っている。
「考えてみれば、こういう触れ合いってなかったわね」
 しみじみとアグリアスが言う。
「こうやってのんびりお風呂に入って疲れを取るなんて、少し前は考えられなかったわ」
 戦火は収まりつつあるが、ラムザ一行を狙う者は未だ数多く潜んでいる。こういった隠れ家的な場所でなければ
彼らに安息の地は皆無に等しい。
「あまりのんびりしていられないのも事実だけど、せめてこういう楽しみがあっても、ばちは当たらないわよね」
 メリアドールがそう言って夜空を見上げる。
「それって神殿騎士が言う台詞かしら?」
「神っていうか、それに近しいものに手を上げてる時点で、私の肩書きはもう飾りだと思うわ」
 アグリアスの一言にメリアドールが苦笑する。
「でも、そうよね…神殿騎士じゃなくなって…廃業したら、私はどうしようかしら。ねえ、アグリアスは
 この戦いが終わったらどうするの? 何かしたいことってある?」
「え? …う、うーん…そうね…?」
 突然の質問に今度はアグリアスが苦笑する。
「じゃあ、またここへ来ましょうよ! みんな一緒に!」
 困っているアグリアスの背を風呂桶の湯で流しながら、ラファが笑う。
「…そうね」
「そのときまでに考えましょ」
 つられてメリアドールもアグリアスも笑うのだった。

 が、この後のラファの一言で事態は急転する。

「ありがとう、ラファ。気持ちよかったわ」
 3人がそろって湯船に浸っているそのときである。
「練習しましたから! この前はラムザさんの背中を流したんですよ」
「「は?」」
「お二人の背中も素敵でしたけど、やっぱり男の人の背中って違いますよねぇ…大きいっていうか、広いって
 いうか」
 ほぅ、とうっとりしながらラファが顔を赤らめる。
「「………」」
 その一言に、アグリアスとメリアドールは顔を真っ赤にしながら顔を見合わせる。
「ちょっと待って」
「それラムザと一緒にお風呂入ったってこと?」
「ラムザがラファの手を引いて男湯に?」
「それとも何気なくラムザが女湯に?」
「それじゃラムザは堂々と女湯に侵入する変態ってこと?」
「じゃなきゃラムザはラファを男湯に放り込む外道ってこと?」
「「………」」
 アグリアスとメリアドールが沈黙の後、吼えた。
「「ラムザーーーッ!」」
「ほら、いつもお世話になってますし、一人用の小さいお風呂で、あ、もちろん私は服を着たままだったん
 ですけど…って、あ、あれー?」
 こうして湯船からすっ飛んでいった二人に遅れること暫くして、ラファは呆然としながら二人の姿を探していた。
 さても怖いのはこの後であった。ほこほこと湯気を昇らせる浴衣姿のラムザに襲い掛かる、乱れた浴衣姿の
女人二人。こう書けばさぞ艶やかに思われそうだが、彼女たちの形相はさながら鬼のようである。
「「ラムザーーーッ!」」
 そんなラムザの浴衣の右の襟を、メリアドールが左からぐいと引き、
「あなた何を考えてるの!? ラファにいったい何をさせてるの!?」
 左の襟はアグリアスが右からぐいと引き、
「貴様は年端も行かぬ娘に何を吹き込んだのだ! 恥を知れ恥を!」
 ものの見事にラムザの首を絞め上げている。差し詰め二人がかりでの襟締めといったところか。
「あっ、アグ…さっ…メ、リ…ー…ぎゅう」
 弁解する間もタップする間もなくラムザの顔は赤くなったり青くなったり、目も白くなったり黒くなったり。
「あのっ、アグリアスさん!? メリアドールさんっ! 何があったんですか!?」
 ラファはただただおろおろするばかり。そんなラファをかばうように、ラッドが3人との間に割って入って…
「はいはい、ラファちゃん危ないから下がっててねー…おお、綺麗なおみ足が薄い浴衣に張り付いて…うお、
 胸元がはだけて、おほぉお…!」
 …なにやってんだお前。

 というわけで、茹だった二人が落ち着いたのは、レーゼのアイスブレスの後だったのだった。
当然ラッドもがっちり氷付け。オトナのレーゼは見逃さないのである。くわばらくわばら。


 ちなみにこの後。

「ラムザはいいなあ、妹もいるし。なあラファちゃん、今度俺の背中も流してくれない?」
「はい、いいですよー」
 という何気ないムスタディオとラファのやり取りに、またもアグリアスとメリアドール、ついでにマラークが
血相を変えてムスタディオを締めにかかったのは言うまでもない。

おしまい
最終更新:2010年03月28日 16:46