「……まだ起きていたんですか」
夜半をとうに回った頃。
鍵を回す音に次いで、小さく声を掛けながら古泉が帰ってきた。
ソファに腰掛けたまま、俺はそちらをちらりと見やる。
「遅かったな」
「すみません。思いの外長引きまして」
答える声は穏やかながらも、硬質な響きがあった。
こいつはまだ俺に打ち解けてはいない。
まぁそれも当然だろう。
俺と古泉が一つ屋根の下にいるのは、単にそういう契約だからだ。

一日中動き回ってこいつも疲れている事だろう。
そうと解っているのに、俺はこいつを休ませてやる気がしなかった。
「明日は、あのいかれた女や一年ボウズ達と出掛けるのか?」
週末ともなれば、古泉はSOS団とやらの活動に駆り出される事が多い。
俺は傀儡の生徒会長となる代償に古泉を求めたが、古泉は常に多忙だった。
昼夜問わずあの女と機関に振り回されているのに、不平不満を言う事も無い。
あまつさえ俺がこんな報酬を求めても、黙々と従う奴だ。
古泉の仕事を優先させ、あとは壊さなければ良いと。そんな条件のみで。
こいつも機関も余程の馬鹿なのか。馬鹿なんだろうな。
「……いえ、明日はお休みです」
暫し間を置いて古泉が答える。その表情は硬い。嘘でもつけばマシだろうに。
それとも嘘と知られたら咎められるとでも思っているんだろうか。
「そうか。じゃあゆっくり出来るな」
呟いて俺は重い腰を上げる。古泉は未だ立ち尽くしたままだ。
戸棚から小さな薬瓶を取り出すと、目に見えてその表情が緊張に強張っていく。
「折角時間があるんだからな。……たっぷり良い夢見せてやるよ」
そうして俺は小瓶を開いた。

最初、他人に体を触れられる嫌悪感と緊張からか、古泉は使い物にならなかった。
その責任は古泉自身にあるとされ、与えられたのがこの薬だ。
大事なお抱え超能力者だろうに、得体の知れない薬なんざ使って良いのかと思ったが
機関の連中が良いと言うのだから、俺はそれに乗るまでだ。
古泉もただ従っているだけで。
薬を使い、何もかもを忘れて快楽に善がるこいつを見るのは嫌いではない。
だが使えば使う程、古泉の心は俺から離れていく。
最中の古泉に何を囁いたとしても、こいつに残るのは
逆らえぬ状況下で薬に因って体を開かれたという事実だけだ。
もしかしたら機関は、古泉が俺に絆されぬようにこんな薬を与えたのかも知れない。
いや、そもそも俺のやり方も間違っているのだろうと解っている。
しかし今更無かった事には出来ないのだから。

全く抵抗を見せない古泉の唇を自らの口で塞ぐ。
小瓶から取り出し咥内に含んでいた薬を、古泉の方へと舌先で押し込めば
古泉は二人分の唾液と共に、大人しくそれを飲み下した。
機関も古泉も、そして俺も相当の馬鹿だった。

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最終更新:2008年12月11日 05:30